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書籍『憲法サバイバル—「憲法・戦争・天皇」をめぐる四つの対談』

M.I

 異色の対談本と言えます。大手書店のジュンク堂池袋支店で開催された「『憲法』と『日本のいま・これから』」と題されたブックフェアに連動して行われたトークイベントの収録版です。ブックフェアでは様々な識者の方の選書が紹介されたようで、対談自体も興味深い読書案内になっています。
 第1章「憲法と歴史の交差点」は、憲法学者の長谷部恭男早稲田大学教授と歴史学者の加藤陽子東京大学大学院教授の対談です。長谷部教授は、憲法は所詮、西洋起源のものとし、美濃部達吉の天皇機関説に触れます。日本がドイツから導入した国家法人理論と君主制原理は相性が悪く、法人としての国家に統治権があるという議論と君主に統治権があるという議論は両立しないと言います。大日本国憲法第4条は「天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」と一見両立させているようですが、長谷部教授によると美濃部は天皇主権原理というのは、法律論として成り立たないとして、君主制原理を否定していると核心を衝く指摘をします。更にこの第4条はドイツからの直輸入された君主制原理ですが、その君主制原理はドイツで生まれたものではなく、フランスの1814年シャルト(憲章)に遡ると指摘、それもナポレオン退位後のルイ一八世の王政復古時に、2週間のやっつけ仕事で作られたことが暴露されます。
 第2章「戦後の憲法の役割」は、評論家の佐高信氏とジェンダー研究のパイオニアである上野千鶴子東京大学名誉教授との対談です。いきなり上野千鶴子教授が「九条の会」は、加藤周一が言い出しっぺだったとの驚くべき情報を出します。佐高氏は得意の自民党の派閥抗争史から現在の安倍一強体制になった系譜を語ります。
 第3章「これからの『戦争と平和』」が最も異色の章で、元陸上幕僚長だった冨澤暉氏と国際NGOとしてアフリカやアフガニスタンで紛争処理に関わった伊勢崎賢治東京外国語大学教授の対談です。伊勢崎教授は、日本でしか通用しない「交戦権」の概念を指摘、国連の「集団安全保障」の名目以外の武力の行使は、個別的自衛権、集団的自衛権の二つの自衛権しか認められていないと解説します。つまり現代において全ての戦争は「自衛」なのです。その自衛権が行使されると自動的に「交戦」となるとのことです。このあたり読み応えがあります。また南スーダンなどに派遣された日本のPKOの欺瞞性も衝きます。それは1999年に出されたアナン国連事務総長の告知によりPKOが「紛争の当事者」=「交戦主体」となった点を見誤った日本の外務省、知識人、メディアの怠慢です。南スーダンで自衛隊は、「交戦主体」となった国連PKOと「一体化」しているのだから、これは根本的に憲法違反だと言うのです。ここは鋭い。冨澤氏も昨今言われている「駆けつけ警護」が、全く違う意味であることを指摘します。
 最後の第4章「本当の天皇の話をしよう」も面白い対談です。対談者が『永続敗戦論』の評論家である白井聡氏と映画監督の森達也氏というこれも異色コンビです。2016年8月8日の天皇のビデオ・メッセージを白井氏は「象徴天皇制の危機にたいする今上天皇の反応」と読み解きます。それは戦後レジームからの脱却を叫ぶ安倍政権への危機感から、退位により象徴天皇制を再活性化させ、それによって間接的に戦後民主主義を救い出そうとしているのではないか、と言うのです。これは重い。戦後、象徴天皇制をちゃんと考えてこなかった国民の課題とも言えるでしょう。

【書籍情報】
2017年4月に筑摩書房から発行(ちくま新書)。編者はちくま新書編集部。定価は780円+税。
【関連書籍・論文】
長谷部恭男編『安保法制から考える憲法と立憲主義・民主主義』(有斐閣)
加藤陽子『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』(朝日出版社)
伊勢崎賢治『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)
白井聡『永続敗戦論−戦後日本の核心』(大田出版)

事務局からのお知らせ
伊勢崎賢治東京外国語大学教授には、法学館憲法研究所報第16号にご寄稿いただいいます。



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