法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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書籍・法律時報増刊『戦後日本憲法学70年の軌跡』

M.I

 『戦後日本憲法学70年の軌跡』と銘打った論文集です。日本国憲法施行70周年を迎え、立憲主義・民主主義が現実政治から露骨な挑戦を受け、今ほど憲法学の立ち位置が問われている時はありません。本書は全体を3部構成とし、第T部「憲法学説を訪ねる」では、戦後第一世代を中心とする憲法学者15名がそれぞれ取り組んできた主題を中心に、憲法学の蓄積と現在性が確認されます。第U部「憲法学説に訪ねる」では、憲法学を専門としない4名の学者が見た戦後憲法学の潮流、第V部「資料編」では、近時逝去された先達3名の論攷が再収録されています。
 第T部冒頭論文は、杉原泰雄一橋大学名誉教授の再論「日本国憲法の『立憲主義』と『強権政治の進行』について思う」です。教授は述べます。「いま、日本の憲法政治についてとくに気になることは、政治家もその他の公務員もそして主権者国民もが日本国憲法の『立憲主義』体制を忘れているかのような状況の進行であり、その結果、憲法を軽視・無視する政治が横行する状況に陥っていることである。」この憲法を軽視・無視する政治を「強権政治」と表現します。教授は「明治憲法から日本国憲法への転換は、その転換内容からすれば、現代における日本の市民革命ともいうべきものであったが、国民の憲法意識の面では革命的な意識転換の実体を欠いていた」と指摘します。そして、「憲法問題にかんする世論調査で、『わからない』、『よくわからない』が最大数値になりがちなところからもうかがわれるように、『人民の、人民による、人民のための政治』は、市民の憲法学習なしには不可能なことである」と結論付けます。ここに「強権政治の進行」を許す要因の一つがあったのです。

 法学館憲法研究所客員研究員の森英樹名古屋大学名誉教授の論文は、「『二つの法体系』論—原点を問い、現点を診る」です。教授は、日本法の規範の核心部分には、「憲法体系」と「安保法体系」という「二つの法体系」が非和解的に併存しているという「矛盾的併存」から論を起こします。戦後の改憲動向には、常にこの「二つの法体系」論が付いて回り、いつのまにか憲法の禁止する「陸海空軍その他の戦力」が「自衛隊」「自衛力」に、「武力による威嚇」が「抑止力」と言い換えられて来ました。教授の結びの言葉です。「この間焦点となっている『安保法(案)』を『戦争法(案)』と喝破した反対運動は、『安保』というと『安全』を『保障』することとマイルドに誤解する道を塞いで、法案の真相を言い当てていた。『自衛』する(だけの)『隊』、『抑止』する(だけの)『力』とともに駆使されてきた『安全』の『保障』—。65年もの経緯の間に、あまりに慣れすぎてきたこうした用語を、改めて原点に立ち返り、それに警戒心を呼び起こす時が、今ではなかろうか。」

 収録の論文のテーマは多岐に亘り、山内敏弘一橋大学名誉教授は、「立憲平和主義」と題する論文で、日本の立憲主義は、他とは異なり平和主義と結びついたものであり、立憲平和主義として理解すべきものであることを主張します。高見勝利北海道大学名誉教授は「『全国民の代表』と『地方の府』」で、憲法43条1項において衆議院を「国民代表の府」とし、同条2項で参議院を「地方代表の府」とした場合、いかなる憲法上の問題が生じるのかという大胆な思考実験をします。興味深いのは、「最高裁は衆議院の定数不均衡について、従来のような最大較差2対1といった大甘の基準ではなく、1対1が原則でこの原則から乖離する場合にはその理由が示されなければならぬといった厳しい態度で臨まざるをえなくなるはずである」とし、民主的正当性は強化されるとの結論に達しています。
 辻村みよ子明治大学教授は、「『個人の尊重』と家族—憲法13条論と24条論の交錯」で、近年の最高裁の婚外子差別違憲決定や民法733条(再婚禁止期間)一部違憲判決を評価しつつ、民法750条の夫婦同氏強制規定が、憲法13条・14条・24条のいずれにも反しないという合憲判決を激しく批判します。「結局、最高裁の思考のなかに13条の『個人の尊重』を真摯に捉える視点がなく、『個人の尊重』は24条の制度論の下位に位置づけられるにとどまり、立法裁量を制約する原理として活かされていないことがわかる。このことは、戦後の改憲論のなかで、13条や(個人主義原理に基づく)24条に対する攻撃が後を絶たず、個人主義的家族像自体に対する反対論が維持されてきたことと同根であると思われる。」女性裁判官3人は違憲説でしたから、合憲説の男性裁判官に対して言っていることは明らかです。

 憲法学者以外の論文では、水林彪早稲田大学特任教授が「象徴天皇制—法史学的考察」で、憲法の解釈学者が今一つ迫り切れない2016年8月の今上天皇の「おことば」について、その意味と学的課題を引き出しています。また法学館憲法研究所客員研究員の村井敏邦一橋大学名誉教授は「刑事法の観点から憲法を見る」と題する論文で、集団的自衛権、特定秘密保護法、共謀罪などを論じています。教授の論は明解で、集団的自衛権の行使は憲法9条の改正でしか出来ない。「それをしないで、武力の行使を閣議決定によって容認する行為は、禁止された武力行使を行おうと相談して決定することであるから、私的に戦争をすることを相談することに当たり、刑法上は、私戦の陰謀である。さらに、その相談に基づいて、現実に武力行使を可能にするための法案を作成することは、私戦の予備に当たる。このように、安倍内閣の閣議決定は、刑法的には、私戦の予備・陰謀罪という立派な犯罪である。」と刑事法の観点から指摘しています。
 戦後の憲法を取り巻く様々な環境の変化に対する70年間にわたる憲法学の蓄積を理解する上で欠かせない論文集です。

【書籍情報】
2017年5月に日本評論社から発行(法律時報増刊)。編者は法律時報編集部。定価は2200円+税。

【関連書籍・論文】
杉原泰雄『日本国憲法と共に生きる』(勁草書房)
樋口陽一『六訂 憲法入門』(勁草書房)
高見勝利『憲法改正とは何だろうか』(岩波新書)





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