法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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書籍『13歳からの日本国憲法』

M.I

 書名から明らかなように若年層に向けた憲法入門書です。類書の多い若年層向けの憲法書の中で本書には際立った特色があります。類書によくある身近な例から基本的人権などを解説する構成ではなく、日本国憲法成立の歴史的意義から本書は始まります。その趣旨は、本書冒頭の「はじめに」でも明らかです。「日本国憲法は、その前の憲法である大日本帝国憲法(明治憲法)の反省から生まれました。大日本帝国憲法では国民の権利が制限され、軍隊の活動にはだれも口を差し挟めないようになっていて、日本は国民の暮らしを犠牲にして、戦争への道を進んでいきました。日本国憲法には、そんな時代は二度とごめんだ、平和で自由な人間らしい暮らしをしたいという国民の願いがつまっているのです。いま、この憲法を改正しようということが議論されていますが、大日本帝国憲法のような時代に後戻りしてはなりません。」

 第1部「憲法はこうして生まれた」では、明治の自由民権運動と、その中で生まれた千葉卓三郎らの五日市憲法や、抵抗権をも認めた植木枝盛の東洋大日本国国憲按が紹介されます。その後、政府による集会条例や新聞紙条例などの弾圧の後、大日本帝国憲法が発布されたことがわかります。そして大日本国憲法の内容が解説されます。「大日本帝国憲法ではすべての権力が天皇に集中し、国民に主権はありませんでした。人権(臣民の権利)についても国が制限できる仕組みで、国民に自由で平等な暮らしを保障する憲法ではありませんでした。」
 さて、戦争を経て日本国憲法の誕生です。ここではその際に生まれた様々な憲法案が紹介されます。明治憲法と大同小異の日本政府の松本案を始め、日本自由党案、日本社会党案、日本共産党案、そして鈴木安蔵・高野岩三郎らの憲法研究会案などです。これは普通の憲法の基本書でもなかなか記述されない点です。そして、鈴木安蔵らの憲法研究会案がGHQ案に影響を与えたこと、また幣原喜重郎首相のマッカーサーへの「戦争放棄」の提案などが解説されます。

 第2部「すみからすみまで国民主権」では、日本国憲法の「すべて国民は、個人として尊重される」という13条が解説され、「個人として」というところの重要性が説かれます。「つまり、『しきたり』や『家』『国』『会社』『学校』などの一部であるあなたではなく、自分の人生を歩む『ひとりの人間』としてのあなたが大切だ、と書かれているのです。」そして、わかりにくい「主権の行使」について、「夏休みに学校のプールを自由に使えるようにしてほしい」という具体例から、みんなで決めるということはどういうことかが説明されます。「選挙による多数決に参加することだけではなくて、社会をよくするために働きかけることこそが、主権の行使の醍醐味です。」ここは重要です。
 本書の大きな特色は随所で「大日本帝国憲法と比べてみよう」として大日本帝国憲法と日本国憲法の逐条比較や図解がなされている点です。これで日本国憲法の理解がより深められることになります。

 第3部「権力から人権を守るために自由権」では、日本国憲法の自由権がわかりやすく解説され、知的財産権ではノーベル物理学賞を受賞した青色LEDの中村修二教授、身体の自由では冤罪の袴田事件が紹介されます。
 第4部「人間らしい暮らしのために社会権」では、最近の生活保護バッシングにも触れられます。「最後のセーフティネット」である生活保護を断られ餓死した例、また不正受給は受給者全体の約2%に過ぎないことが紹介され、「生存権は決して『お恵み』ではなく、国に対して人間らしい暮らしを求めることができる『権利』なのです」と強調されます。

 第5部「世界にほこる平和主義」では、日本国憲法が「平和憲法」と呼ばれる理由が明らかにされます。興味深いことに1899年、オランダのハーグで開かれた万国平和会議の写真があります。高校の世界史の教科書でもなかなか出てきませんが、世界最初の平和のための国際会議で、提唱者はロシア革命で非業の死を遂げるロシア皇帝ニコライ2世でした。恒久的な平和の実現には失敗しますが、ハーグ陸戦条約や毒ガスの禁止など、戦争に関する国際法規が生まれました。続いて国際連盟、戦争放棄が決められた不戦条約、国際連合と記述されます。
 「自衛隊をどう考える?」の章では、現在も一番の論議の的となっている自衛隊を扱います。「自衛隊は、1954年に創設されて以降現在まで、戦闘による死亡者をだしたことがありません。他国の人の命を奪ったこともありません。」

 そしていよいよ集団的自衛権です。ここで「集団的自衛権が実際に使われた実例を見ると、ほとんどが『侵略されたから助けた』というものではないのです」と核心を衝きます。世界で最初に集団的自衛権を使ったのがソ連であり(ハンガリー事件)、アメリカも集団的自衛を口実にベトナム戦争を起こしています。そして国連憲章に集団的自衛権の盛り込まれたのは、戦後の米ソ冷戦の結果であるという秘密が明かされます。
 2014年、集団的自衛権の行使容認の閣議決定が行われ、翌年には安全保障関連法が成立しました。本書の結論です。「はたして政府の解釈は許されるのでしょうか。日本国憲法では、三権分立により、最高裁判所が違憲立法審査権をもっています。最終的に違憲かどうかを判断するのは、最高裁判所となります。憲法の番人としての役割が問われています。」「9条は戦争の多大な惨禍の反省から生まれた、世界にもまれな憲法です。日本国民がこの理想のために歩むことができるのか、私たち主権者の行動が問われています。」

【書籍情報】
2017年3月にかもがわ出版から発行。監修は上田勝美龍谷大学名誉教授。定価は1600円+税。
【関連書籍・論文】
上田勝美・水島朝穂・深瀬忠一・稲正樹編『平和憲法の確保と新生』(北海道大学出版会)






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