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書籍『新・日米安保論』

M.I

 「自衛隊を活かす会」呼びかけ人である柳澤協二元内閣官房副長官補、伊勢崎賢治東京外国語大学教授、加藤朗桜美林大学教授による鼎談集です。柳澤氏と加藤氏は、元防衛庁出身、伊勢崎氏は経験豊富な国連PKO元幹部で、激変する国際関係の中での日本の安全保障を語ります。
 第一章「トランプ大統領をどう捉えるか」は、トランプ米大統領就任後の世界と日本を語っています。柳澤氏は「アメリカが世界から手を引いた軍事的安全保障の世界を想定すると、少なくとも現状より悪くなることはないという見方もあり得る」と言います。その理由として、今アメリカ国民の中で、アメリカ合衆国の一員としてのアイデンティティーがなくなっていて、「国としてのアイデンティティーが崩壊し、もっと小さな集団のアイデンティティーにすがるようになると、逆に国の戦争はしづらくなるという可能性もある」と指摘します。伊勢崎教授は、人道主義が武力行使も辞さないアイデンティティーになっていると国連PKOの現実を語ります。アフリカを舞台にする内戦では、人道主義が内政不干渉の原則を凌駕し、国連PKOが「住民の保護」のため「紛争の当事者」として交戦する時代になっているのです。伊勢崎教授は人道主義が主導する戦争より、トランプ大統領の「アメリカ第一主義」の内向性に「期待するしかない」と、語ります。

 第二章「尖閣問題で考える日米中関係」で、柳澤氏は「もともと尖閣が今のようになっているのは、民主党(現民進党)の野田政権の時の国有化という政治のミスが招いたことなのです。政治の失敗を軍事で解決することを、私は無駄な戦争と呼んでいるのですが、そういう戦争をしてはいけないんです」。加藤教授は、尖閣を攻撃されれば武力抵抗すべきとしつつ、それを世論形成の手段として、こういう攻撃は理不尽なものであることを国際世論に訴えかけていくという立場です。柳澤氏は、アメリカが出てくるから抑止力で安心だというしばしば言われることに疑問を呈します。「アメリカが出てくる場合、尖閣の奪い合いで生じる被害どころではなくて、もっと大きな被害が日本に出てくる。だから、結局、日本の被害を最小化するためには、尖閣の問題は日本自身が解決しないといけない。」と言います。

 第三章「対テロ戦争と日本」では、柳澤氏がアメリカの対テロ戦争にくっついていくというのが、戦略論として適切なのか、それがテロの根絶につながるのかという問題を示します。伊勢崎教授は、「なぜ日本が対テロ戦争に関与しなくてはいけないかというと、結局、中国に対処してもらうだけのためでしょう、本音は。テロを本当に根絶するにはどうするかみたいな戦略論はまったくなし。とりあえず、アメリカに協力している形ができればと。やっぱり、姑息、卑怯だと思う」と指摘します。加藤教授は、「テロというのは軍事の問題ではなくて、警察の問題にしていかないとだめなのです。世界中の警察力の協力の中で、おそらく新しいグローバル・コップ—軍事力ではないグローバルな治安維持のシステム—をつくり上げ、その中でグローバル・テロへの対応を考えていかないといけない。だから、自衛隊が協力する話では絶対ない」と指摘します。

 第四章「北朝鮮への対応と核抑止力の行方」では、加藤教授が明確に指摘します。「核の傘が効いているかどうかと問われれば、結論から言うと効いていないということです。」それはなぜか。1996年に国際司法裁判所が、国連総会の決議した諮問に応えた勧告的意見で「核兵器の威嚇または使用は武力紛争に適用される国際法の規則、特に国際人道法上の原則・規則に一般的には違反するであろう」と、核兵器の使用を違法だとしたからです。アメリカにとっては、自国の存亡が危険にさらされている場合でもないのに、日本が攻撃をされるとか、核によって恫喝を受けている時に、アメリカがかわって核兵器を使用することは、明白に違法になったということです。

 第五章「日米地位協定の歪みを正すことの意味」では、沖縄で米兵が事件を起こすたびに注目される日米地位協定の不平等性が明らかになります。地位協定の国際比較をしている伊勢崎教授が、外務省のホームページのミスリードを暴きます。ホームページに「ドイツは、同協定に従い、ほとんど全ての米軍人による事件につき第一次裁判権を放棄しています」という記載がありますが、事実はまったくこの逆で、強盗、レイプや殺人については、ドイツの裁判権で裁くと明確に協定に書いてあるとのことです。裁判権の特権をお互いに認めあう互恵性は、フィリピンも有しています。これはアメリカがフィリピンの「現地感情」に配慮した結果で、沖縄の現状と歴然とした違いを明らかにしています。
また、透明性の確保も重要で、例えばアフガニスタン米地位協定では、アメリカの軍法会議へのアフガン側の立ち会いをする権利が明記されているとのことです。更に、イラク米地位協定では、「2011年末までに米軍は完全撤退する」との明記にイラク政府が成功した例も出て来ます。伊勢崎教授の指摘です。「米軍の駐留は、『永久的』なものなのか。日本人には、そもそも、他国が自国にいることがおかしいという感覚が希薄です。戦後ずっとそうであったから慣れ過ぎてしまったのか。」

 第六章「守るべき日本の国家像とは何か」での加藤教授の指摘です。「私は憲法九条の精神は日本の強固なアイデンティティーになると思っています。これを軸にして、もう一度日米関係なり日中関係なり、あるいは他の国との関係を考え直す必要があるのではないでしょうか。そして、憲法九条の平和主義が憲法前文の国際協調主義と一体化することによって、初めて日本の憲法体制が世界に通用するのじゃないかと思います。」
 これからの日本の進むべき道を考える安全保障の書と言えます。

【書籍情報】
2017年5月に集英社から発行(集英社新書)。著者は柳澤協二氏・伊勢崎賢治氏・加藤朗氏。定価は760円+税。

【関連書籍・論文】

特集『護憲派による「新九条」論争』(季刊社会運動)
伊勢崎賢治『紛争屋の外交論 ニッポンの出口戦略』(NHK出版)






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