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特集『取調べの可視化とは何だったのか』

M.I

 2016年5月24日「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立しました。その中で、取調べの可視化が一部導入されました。それから1年余が経ち、その問題点や課題が数多く指摘されるようになりました。本特集では刑事法学者や弁護士が、取調べの可視化から見えてきた私たちの社会の刑事司法制度のあるべき方向性を論じています。
 白取祐司神奈川大学教授は、「取調べの可視化と刑事司法制度—何のための刑訴法改正だったのか」と題する論稿で「残念ながら、可視化の全面実施による刑事司法改革への期待は、時を経るに連れて薄れ、懐疑と失望に変わりつつある」と述べます。取調べの可視化は、そのこと自体が目的ではなく、可視化によって取調べ実務を改め、自白強要によるえん罪防止を目指したはずでした。ところが現状の弁護人不在、連日かつ長時間の取調べ実務はそのままに、警察・検察権限だけが強化されることになったと指摘します。白取教授は先進諸外国で実施されているように、可視化と共に取調べ時の弁護人立会権が実現されなければならないと指摘します。
 稲田隆司新潟大学教授は「取調べ可視化論の過去と現在」の論稿で、「録音・録画の対象事件である裁判員事件は例年全事件の2パーセント程度に過ぎないし、検察独自事件はさらに少ない。また、対象事件であっても逮捕・勾留中でなければ録音・録画されないが、これでは、例えば任意出頭中の取調べが問題となった志布志事件のような冤罪の再発防止はおぼつかない」と可視化の範囲が限定されていることを指摘します。
 坂根真也弁護士は「取調べの可視化が弁護活動にもたらすもの」で、取調べの実態をわかりやすく説明しています。坂根弁護士に言わせると「刑事弁護をしていると、犯罪に、全く関わってないのに逮捕されてしまうことは決して珍しいことではないことが身にしみて分かる」そうです。そして「供述調書」が最大の問題であることを指摘します。「供述調書は、取調官が被疑者に発問し、被疑者が応答するという形で進む取調べの結果を忠実に再現するものではない。」また黙秘権についても「多くの取調べは捜査機関が描くストーリーを被疑者に押しつける場なのであり、それに対抗するのが黙秘権なのである」と本質を衝きます。
 石田倫識愛知学院大学准教授は「録音・録画記録媒体を実質証拠として用いることの許否とその条件」で、公判審理手続で捜査機関の管理下にあった被疑者取調べの記録媒体を視聴することで、公判における直接主義が危うくなることを指摘します。捜査段階での被疑者供述が、公判での被告人供述と証拠法上同格となる変容を遂げる危険性です。
 山田尚子関西学院大学教授は、「取調べ制度の改革・適正化のために—国際的視点から」で、可視化時代の取調べ技法の模範とされるイギリスのピース・モデルを紹介します。心理学の知見に基づいて開発されたもので、その主目的は自白獲得ではなく情報収集にあるとのことです。また他者との意思疎通に困難を有する供述弱者、すなわち年少者、知的・精神的・身体的障害者、自閉症スペクトラム等の発達障害者、脳性小児まひ罹患患者などから正確かつ豊富な情報を得るための取り組みも紹介されます。
 関口和徳愛媛大学准教授は「取調べにおける弁護人立会いの必要性—録音・録画だけで取調べの適正化は実現するか」で、「取調べの適正化を実現するには、取調べを録音・録画するだけでは不十分であり、弁護人立会権の保障が必要である」ことを強調します。
 安部祥太青山学院大学助教は、「裁判員裁判と取調べ録音・録画—『撮ること』の重要性と『見ること』の危険性」で、可視化による弊害を指摘します。それは「取調べを機械的に記録した場合であっても、取調べ方法や撮影・再生画角によっては、心理学的に不可避のバイアスが生じ、事実認定が歪められるおそれがある。また、実際に証拠調べ請求される記録媒体は編集されたものであり、表現・叙述の過程が人為的に加工された供述証拠である点も忘れてはならない」ということです。これまで「撮ること」に置かれてきた重点を、これからは「見ること」に重きを置いた議論が展開されなければならないと安部助教は結びます。
 7名の論稿それぞれが、独自の視点で取調べの可視化に斬りこんだ、読み応えのある特集です。

【書籍情報】
日本評論社が発行する雑誌『法学セミナー』2017年7月号の特集。定価は1400円+税。
【関連書籍・論文】
法学館憲法研究所編『日本国憲法の核心 改憲ではなく憲法を活かすために』(日本評論社)



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