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書籍『平和の憲法政策論』

M.I

 著者の現状認識によると「安倍政権の五年間で明確になってきたのは、軍事的合理性のおおらかな突出である。二〇一四年の『七・一閣議決定』によって、従来の『集団的自衛権行使違憲』の政府解釈が強引に変更され、安全保障関連法という形で具体化された背景には、この国がこれまで抑制してきた軍事的合理性の論理が国の統治のなかに、あるいは徐々に、あるいは急速に貫かれてきたことがあるのではないか。」「そして、政府解釈を強引に変更して『解釈改憲』を進める一方、安倍首相は二○一七年五月三日、憲法九条の『加憲』的明文改正を二○二○年施行という時期まで明示して宣言した。」
 著者の執筆意図は明らかです。「そうしたとき、私たちは、日本の平和と安全保障の問題を、『ポスト冷戦』の始期から今日までの四分の一世紀あまりを振り返り、その一つひとつの局面で浮かび上がってきた問題や論点を想起し、曖昧にすることなく記憶にとどめ、憲法規範から離れていく憲法現実を『引き戻す』という視点から再考してみる必要があるのではないか。」
 「軍事的合理性の観点から憲法九条を『変える』ことに過度に傾斜した議論が急速に高まっているなかで、あえて憲法九条の『平和的合理性』に徹することによって、複雑化した現実にいかに向き合っていくか。いま、平和の『守り方』と『創り方』についての腰を据えた議論が求められている。」これが本書のタイトルにもなっている「平和の憲法政策論」です。本書は、この20年の論考を五部構成により纏めたものとなっています。
 興味深いのは第U部「『人権のための戦争』と『戦争の民営化』」です。ここでは「人権は国境を越える」という論理で他国内の大規模な「人権侵害」に対して国際社会が当該国の国家主権を制限して「介入」するようになった現状が分析されます。「人道的介入」が「人権のための戦争」を引き起こしているのです。
 また本来国家による「暴力の独占」が、「民営化」され民間軍事会社が拡大している現象も語られます。日本も例外ではなく、著者は「今後、警備会社・セキュリティ会社民間軍事会社類似の機能を持ちはじめ、海外に市場を求めて展開していくだろう」と予測をしています。
 第V部「日本型軍事・緊急事態法制の展開と憲法」では、憲法9条の存在にも関わらず「テロ対策特別措置法」、「海賊対処法」、そして「7.1閣議決定」と安全保障関連法の成立に至る経緯と問題点が語られます。著者の立場は明確で「この政権が『7.1閣議決定』で行ったことは、立憲主義の根底を壊すものである。」更に著者は自民党憲法改正草案の「緊急事態条項」にも章を割き、「結論から言えば、これは、立憲主義の観点から見れば有害無益な、緊急権・緊急事態法制論から見ても突っ込み所満載な、現実の政治的コンテクストのなかで見ればきわめて危険な案である」と指摘しています。
 第W部「日米安保体制のグローバル展開」では、日本国憲法が想定する安全保障が変容していく歴史が描かれます。「9.11」以降の世界が「グローバルな内戦」ともいうべき事態となったという指摘があります。著者は言います。「世界的な『格差社会』現象のなかで、『スラムの増大』が法的不安定性や社会的展望の喪失、さらには犯罪へと人々を駆り立て、グローバルな貧困の紛争潜在力が広まっていることが看過できない。これは『スラムの惑星』として、そこにおける戦争のかたちは、『通りや下水道、高層住宅、無数の家並みで行われる』ものである。貧困構造のなかでの著しい格差あるいは急速な変革は一定の状況のもとでは、急進化、戦闘化、テロ手段の使用にまで転化しうる。」2008年の論考ですが、現在のISなどのテロの跳梁を予言しているようです。
 ちなみに第T部は「ポスト冷戦期の『安全保障環境』の変化と憲法」、第X部は「ドイツ軍事・緊急事態法制の展開」となっています。
 大部ですが、読み応えのある論考ばかりと言えます。

【書籍情報】
2017年7月に日本評論社から発行。著者は水島朝穂早稲田大学教授・法学館憲法研究所客員研究員。定価は6400円+税。

【関連書籍・論文】
水島朝穂『ライブ講義 徹底分析!集団的自衛権』(岩波書店)




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