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特集『沖縄・辺野古と法』

M.I

 沖縄の問題こそ、戦後の日本社会が抱える最大の問題の一つだと言えます。沖縄には重過ぎる基地負担の問題があり、それが改善・解決とは程遠い現状にあります。そのような中、2015年から現在、辺野古新基地建設計画をめぐって国と沖縄県との間での行政訴訟が続いています。そして、沖縄本島北部の東村高江や名護市辺野古のキャンプ・シュワブ周辺では、市民によるヘリパッドや新基地建設に反対する抗議活動が続いています。本特集では、沖縄問題の背景にある歴史や経緯、そして人々の抵抗の背景にある人間の尊厳に基礎を置く権利の希求の存在を探っていきます。

 特集は、小林武沖縄客員大学教授の論文「沖縄の平和的生存権」から始まります。辺野古や高江の新基地反対運動を支える沖縄の人々の土台にあるものは、平和のうちに生きることができるという人としての権利、すなわち平和的生存権であると小林教授は指摘します。著者は言います。「憲法前文が、全世界の国民が平和のうちに生存する『権利』を有するとしたのは、人の平和的生存を、たんに国家が平和政策をとることの反射的利益ととらえる従前の理解から原理的転換を遂げて、平和をまさに権利として把握したことを意味する。」「9条の定める戦争放棄、戦力不保持および交戦権否認という、徹底した戦争と軍事力の否定こそ、平和的生存権の『平和』の規範的な意味内容なのである。」そして沖縄における喫緊の課題は米軍を規制して住民を保護する条例の制定であるとします。今までは日本法令の適用を排除する日米地位協定が絶対的障壁と考えられてきました。「しかし、憲法の原点に立ち還るとき、自治体がその存在根拠とする住民の人権・福祉確保のためになしえない事柄は、原理上ない。」「『国防』は排他的に国の管轄に属するという『専管事項』論は、地方自治体の存立意義の照らして成り立つものではない。」

 加藤裕弁護士は「辺野古訴訟の背景—なぜ沖縄県が国と訴訟で争わざるをえないか」で、米軍基地問題で異議申立が繰り返される理由は「幾たびも沖縄の民意が切り捨てられてきたという歴史が横たわっている」と指摘します。沖縄戦、サンフランシスコ講和条約と米軍統治、沖縄返還協定にいたる歴史、そして米軍基地、軍人軍属による被害・犯罪と現在進行形の状況が記述されます。
 紙野健二名古屋大学名誉教授は「沖縄の基地問題と公法学—問われるものは何か」で、「辺野古の基地問題で問われるのは、憲法の基本原理が沖縄の基地問題をめぐっては妥当していないのではないか、より具体的には、対外的な主権の確保と、国内的な人権保障、国民主権および地方自治の保障がここには存在しないのではないかという疑問であって、今回でも、基地を建設しようとする国の行動が、わが国の憲法や法制度のもとでは法治主義と地方自治に反するのではないかということである」と指摘します。

 井上禎男琉球大学教授は「ローカルとナショナル—それぞれの人権」で、「いま沖縄で起こっている、いや、いまなお続いている一連の問題は、はたして『ローカル』で片付けられるものなのか。少なくとも、私も含めて沖縄に住む人たちのほとんどは、そうは思っていないはずである」と指摘します。著者の主張です。「"沖縄は日本だが、琉球はヤマトではない"だろう。琉球はそれ自体が『ナショナル』であって、琉球を引き継ぐ沖縄を『ローカル』と割り切ること自体、そもそも容易なことではないはずである。」
 森川恭剛琉球大学教授は「日米安保と刑事人権論」で、辺野古の米軍キャンプ・シュワブの工事用ゲート前付近で、微罪による警察の逮捕の少なくない事例を挙げます。そして那覇地裁に係属中の4つの事件を紹介し、これらは「警察に抑え込まれる者らが体を張って提起している基地問題である」と指摘します。著者の結論です。「人類普遍の原理が現在の憲法9条に書き込まれていると理解されているから、辺野古のゲート前と海上で、この憲法に訴えて政府の行為に抗議する直接行動が続けられる。かつて沖縄戦があり、多くの米軍基地があるから、それは正当な理由ある行為であり、また、その確定的な認識が共有される。刑罰法令を用い、警察力を行使して沖縄の平和主義をねじ伏せる。それを平和主義とはいわない。」

 そして本特集の中心を占めるのが、岡田正則早稲田大学教授、白藤博行専修大学教授、人見剛早稲田大学教授、本多滝夫龍谷大学教授の四者による「辺野古訴訟と行政法上の論点」と題する座談会です。第1ステージ、第2ステージ、第3ステージと三段階に分けて複雑な行政訴訟を分かりやすく解説しています。第1ステージは、翁長知事による埋立承認取消に始まる辺野古訴訟の国と県の攻防です。岡田教授が興味深い指摘をしています。埋立てについては公有水面埋立法4条1項1号・2号の要件を満たす必要があります。まず国土利用の適正さという1号要件に関しては「普天間飛行場の代替地といっても沖縄にはもう十二分に米軍基地があるので、県内に新基地をつくる合理性は認められない」と解説します。次に環境保全・防災という2号要件に関しても「希少な海洋生物がたくさんいるところを埋め立てて、しかもその上に米軍基地をつくるため、環境へのダメージが非常に大きいということがはっきりしました」と1号・2号の要件は満たしていないと指摘します。国からの代執行訴訟に関しては、岡田教授が「理論的にみると国はかなり無理をして、工事を続けるためにどのような手段を使ってでも沖縄県を屈服させようという判断だったように思います」と語り、白藤教授も「国としては、まずは是正の指示を行って、それでも翁長知事が従わない場合には、代執行もあり得るだろうと思いますが、この是正の指示をすっ飛ばして、突然、代執行を行うというのは、地方自治法の趣旨に反するものだと考えます」と指摘します。第1ステージの訴訟は和解の成立で終わります。

 第2ステージは、第2次辺野古訴訟の福岡高裁判決と、最高裁判決です。和解条項では国と県が協議をするという項目がありましたが、「沖縄県側の協議の申出に対し国側が協議の余地を否定して訴訟を提起しました。これによって和解条項の枠組みから、いわば脱線してしまったわけです。つまり、国側が一方的に殴りこみをかけてきて沖縄県を従わせるというスキームに移ってしまった。」そして最高裁で国側が勝ちます。
 第3ステージでは、今後の展開が語られます。工事を止める方法として、白藤教授が主張するのが「承認撤回」です。白藤教授の呼びかけです。「沖縄の問題について、私たちは地方自治の問題であると言うわけですが、それは、地方自治の現場においては、住民の命や基本的人権を地方自治体が最後の砦として守らないといけないことを意味します。」「沖縄県民が命の危険にさらされ、基本的人権が侵害され、沖縄と沖縄県民の未来までもが辺野古新基地建設で侵され続けようとしていることに目を向けてほしいと思います。」

【書籍情報】
日本評論社が発行する雑誌『法学セミナー』2017年8月号の特集。定価は1400円+税。

【関連書籍・論文】
森住卓『沖縄戦・最後の証言—おじい・おばあが米軍基地建設に抵抗する理由』(新日本出版社)
白藤博行ら共著『日本国憲法の核心 改憲ではなく、憲法を活かすために』




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