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書籍『憲法のこれから』

M.I

 気鋭の憲法学者ら21人による論文集です。編者の片桐直人大阪大学准教授の問題意識によれば、2017年に古稀を迎えた憲法は、普遍的な視野を持ちつつ、「いまここ」の問題に応えることも望まれているのではないかというものです。本書のタイトル通り、『憲法のこれから』に、現代が直面する様々な問題を通して多面的角度から斬り込んでいます。
 第1部「『私』と『私たち』」では、人権の主体がおかれた状況を踏まえた考察が行われています。稲葉実香金沢大学准教授は「『個人』概念の動揺?」で、近代立憲主義の前提である「自立した強い『個人』というのが、現代社会においては幻であることも、また事実である」という鋭い問題提起をします。著者は胎児の利益、子供の人権、病気についての人権、死にゆく人の人権、死者の人権というそれぞれの具体的ライフ・ステージを例に挙げ、これらの問題がだれか一人の決定の権利に還元できないことを指摘します。中曽久雄愛媛大学専任講師は「LGBTと憲法」で、最近ようやく日本でも議論されてきた性的少数者に対する権利保障を語ります。中曽講師の指摘です。「多様な性を認め、そして、理解するという個々人の『人権感覚』の涵養も重要である。家庭、教育現場など社会全体でこうした人権感覚の涵養をいかに図っていくかが今後の課題である。」

 松尾陽名古屋大学教授は「『私』の居場所—自尊感情の社会的基盤」で、自尊感情すなわち「自分自身を全体として肯定的に評価すること」について考察します。興味深いのは宮内紀子九州産業大学基礎教育センター専任講師の「国籍とは何か—国家とのつながりとは」です。従来、外国人の人権保障の論点として考えられてきた国籍を、外国人の参政権、社会権、入国の自由、経済的自由など今までの判例通説を紹介しつつ、「国籍は国家権力の範囲を示すもので国家の統治の仕組みのためのものであり、本来、人権保障のためのものではない」という驚くべき指摘をします。宮内講師の結論です。「国籍は国家と個人の一定の関係性を示すものではあるが、それは実態的なものではない。」「私たちはこの国家の作り出した枠組みを超えて、構成員を捉えなおし、人として普遍的な人権保障を求めるべきではないだろうか。」
 吉良貴之宇都宮共和大学専任講師は「シルバー民主主義の憲法問題」、藤井康博大東文化大学准教授は「環境と未来への責任—環境憲法と憲法改正?」で、それぞれ新たな切り口の憲法論を展開します。

 第2部「過去の記憶と未来への意志」では、鈴木敦山梨学院大学准教授が「日本国憲法制定の記憶」で、憲法制定史研究の意義を説きます。そして金井光生福島大学准教授は「フクシマ憲法物語—平和的生存権という未完のプロジェクトへ」で、「フクシマ」を原発事故という人災を超えた、「今年本土復帰45周年を迎えた『オキナワ』に連なる、国策による『犠牲のシステム』(高橋哲哉)として、戦後日本の立憲主義の根本問題である」と指摘します。そしてそれを「平和的生存権」から捉えなおす読み応えのある考察を展開しています。
 第3部「統治を育む環境」、第4部「権力分立の現代的課題」は統治機構論を扱います。水谷瑛嗣郎帝京大学助教は「民意形成のチャネルとそのあり方—統治制度としての『プレス』」で、インターネット社会のプレス(報道機関)の問題を取り上げます。政権によるメディア利用や、フェイク・ニュース、ファクト・チェックなど最近のメディアの争点を論じています。片桐直人大阪大学准教授は「『官邸主導』政治のコントロール」で、今まさに問題となっている政治上の大争点を考察します。
 そして柳瀬昇日本大学教授は「国民の司法参加の制度における協同と討議の重要性」で、国民の司法参加の問題を考えます。柳瀬教授の指摘です。「司法権の行使にあたっては民主的正統性が求められつつも、その一方で、司法権の本来的使命に鑑みれば、過度に民主的であってはならない。この民主的司法のディレンマという問題が、国民の司法参加を考える際に、理論的な問題として常に立ちはだかる。」

 最後に本書の編者である片桐直人大阪大学准教授、岡田順太白?大学教授、松尾陽名古屋大学教授による「憲法のこれから」と題した鼎談があります。その中で岡田教授の指摘です。「国会のみならず記録に残すこと、公文書管理がたぶんそうでしょうが、そういったものに対するプライオリティが日本においては相当低い気がします。官僚も後で自己弁護するために紙をつくったり、意思疎通のためというのはあるかもしれないけれど、都合の悪いものは消してしまったりする。すべての記録を残すような文化が必要ですし、それが民主政と結びつくという話はあまり意識されてないですよね。」
 通常の憲法の基本書や教養書の定番の論点とは違った、新しい視点が読み取れる刺激溢れる一冊となっています。

【書籍情報】
2017年7月に日本評論社から発行された『別冊法学セミナー 新・総合特集シリーズ8 憲法のこれから』。編者は片桐直人大阪大学准教授、岡田順太白-大学教授、松尾陽名古屋大学教授。定価は1900円+税。

【関連書籍・論文】
法律時報編集部編『戦後日本憲法学70年の軌跡』(日本評論社)




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