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書籍『歴史を学び、今を考える―戦争そして戦後』

M.I

 恵泉女学園大学平和文化研究所主催の戦後70年特別座談会「それでも日本人は『戦争』を選ぶのか?」を収録した一冊です。本書は、加藤陽子東京大学大学院教授と内海愛子大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター所長・恵泉女学園大学名誉教授の講演と、両教授による対談と質問への回答から構成されています。
 まず加藤教授の「それでも日本人は『戦争』を選ぶのか?」というタイトルの講演です。加藤教授の言説でいつも驚かされるのは、一般の日本人の知らなかった事実の指摘です。今回も例外ではなく、あのゾルゲ事件に連座して処刑された尾崎秀実の日本人についての論評があります。それによると「『日本国内の庶民的意向は支配層の苦悩と殆ど無関係に、反英米的な事』によるけれども、そのようなふつうの国民の意向は、そもそも、『満州事変以来十年、民衆は此の方向のみ歩む事を指導者階級に依て教えられ続けて来た』ことによって、作られたものなのだ」政府は日米戦の前になって、石油の産出量が日本の700倍、GDPが日本の11倍の国とはとても勝てないとして、今頃になって『経済的窮地の内にいち早く屈服の合理性を見出し』ていましたが、尾崎に言わせると、もう遅いとのことです。もはや止められなくなっていたのです。尾崎は1941年8月の時点で、『屈服は敗戦の後初めて可能である』と述べています。
 尾崎とは対極の立場にあった昭和天皇も、対英米戦争を支持する国民を批判しています。天皇の言葉です。『世界平和と云ふことに就いて述べたのであるが、国民はどうも此点を等閑視して居る様に思はれる。又、日独伊三国同盟の際の詔書に就ても平和の為めと云ふことが忘れられ、如何にも英米に対抗するかの如く国民が考へて居るのは誠に面白くないと思ふ』反英米の宣伝を散々聞かされてきた国民としては、天皇がまさかこのように思っていたとは驚きでしょう。

 内海教授は「日本の戦後―少数者の視点から」というタイトルの講演です。冒頭、戦前の地図帳に載っていた「大東亜共栄圏」の地図が示されます。中国だけではなく、インド、オーストラリアも「共栄圏」に含まれています。フィリピン、インドネシアは当然です。朝鮮半島と台湾そして樺太南部は赤く塗られています。これは日本の領土という意味ですが、加藤教授の早稲田大学院の授業で、この地図を見た韓国の留学生は、怒りと悔しさと悲しみの複雑な感情をおさえきれず、思わず泣いたという話が紹介されます。内海教授は「その想いへの想像力をもつことが大切です」と指摘します。
 次に内海教授は、どれだけの国と戦争をしたのかを紹介します。日本に宣戦布告をした国の一覧が、本書の巻末資料にあります。それによると1アメリカ、2イギリス、英連邦(カナダ、オーストラリア、南ア連邦、ニュージーランド)、3コスタリカ、4ドミニカ、5ホンジュラス、6グアテマラ、7ニカラグア、8サルバドル、9ハイチ、10パナマ、11オランダ、12キューバ、13イラク、14メキシコ、15エジプト、16ベルギー、17ギリシャ、18ヴェネズエラ、19パラグアイ、20ペルー、21ウルグアイ、22ブラジル、23ボリビア、24エクアドル、25ノルウェー、26チリ、27アルゼンチン、28リベリア、29トルコ、30シリア、31レバノン、32イラン、33サウディ・アラビア、そして34番目が1945年8月9日のソヴィエトになります。
 そしてサンフランシスコ平和条約です。内海教授の指摘です。「平和条約は、中国侵略と台湾・朝鮮の植民地支配という重要な問題を解決しなかったのです。侵略と植民地支配の処理を残した平和条約でした。」教授のまとめです。「東アジアの戦後処理は、70年たったから終わりではなくて、70年にしてようやく明らかになってきたこともあります。日本の植民地支配、中国侵略、アジアの軍事占領の被害者たちの訴えが日本に届いている今、かれらの訴えを聞いた私たちが、未解決の『歴史』の問題にどう向き合い、問題の解決に努力していくのかが問われている。これが現在だと思います。」
 さらに読み応えのあるのが本書の巻末資料です。開戦の詔書やポツダム宣言のみならず、「日本のアジア占領・支配と戦争裁判・賠償一覧」、「戸籍・国籍の歴史―人民の国民化」など他に類を見ない資料があり、本書のユニークさを特色付けています。

【書籍情報】
2017年6月に、梨の木舎から発行。著者は、内海愛子大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター所長、加藤陽子東京大学大学院教授。定価1500円+税。
【関連書籍・論文】
加藤陽子『戦争まで―歴史を決めた交渉と日本の失敗』(朝日出版社)
加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)




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