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特集『GPS捜査とプライバシー — 最大判2017.3.15を読む』

M.I

 2017年3月15日、最高裁判所は、令状なしのGPS捜査を違法とする判決を下しました。新聞やテレビでも大きく取り上げられた判決でした。本判決では、いわゆる現代型の捜査手法を法的にどのように捉えて規律するのかという重大なテーマが論じられています。この特集では、同判決の事案と論点、そして判決の内容を紹介した上で、いわゆる現代型捜査に関するこれまでの判例と学説を確認し、憲法学から同判決をプライバシー論も含めて検討し、今後の監視型捜査の法規制の議論に向けて視点の提示や問題提起が行われています。
 本特集は5本の論文から構成されていますが、何と言っても読み応えのあるのが「GPS捜査最高裁判決を導いた弁護活動」です。本事件の弁護を担当した我妻路人、小野俊介、舘康祐、西村啓の四弁護士による最高裁勝訴までの奮闘記と呼べるものです。本件GPS捜査では、大阪府警が約7か月にわたって、被疑者らの使用車両計19台に無令状でGPS端末を取り付け、位置情報を取得しながら監視・追尾するなどが行われました。
 2013年12月、被疑者の弁護人に選任された亀石倫子弁護士は、初めて接見した被疑者から「僕の車に警察がGPSをつけていた」「そんなことが許されるのか」と訴えられました。亀石弁護士は当時、警察が被疑者の車両にGPS端末を取り付けて、居場所を把握するような捜査を行っていることを知りませんでした。その後、亀石弁護士の調査で、国内ではGPS捜査の適法性に関する裁判例はないが、前年の2012年にアメリカの連邦最高裁が令状なしでGPSを使用して得られた証拠を許容することは合衆国憲法修正4条に反すると判断していたことがわかります。自分の行動を常に他人に把握されても構わないと考える人などいません。亀石弁護士は、GPS捜査は対象者のプライバシーを侵害する強制処分だと主張することに、十分根拠があると思いました。亀石弁護士は修習同期の弁護士ら5名に声をかけ、弁護団を結成します。

 GPS捜査の違法性を争うことを決めた当初、その見通しは厳しいものでした。GPS捜査の法的性質に触れた学説、文献は多くなく、限られた文献の中でも、GPS捜査を尾行・張り込みと同視する任意処分説が支配的でした。しかし、弁護団は第1審から一貫して、GPS捜査は、現行刑訴法上、検証許可状も含めてどのような令状でも実施し得ない強制処分であって、本件GPS捜査は強制処分法定主義に反する、安易に検証許可状で実施可能と判断すれば、違憲の問題を惹起すると、主張してきました。訴訟は遂に最高裁大法廷での弁論に至ります。
 ここで興味深い指摘があります。それは法曹界の中で、ひそかに囁かれていることで、ある意味、法律家の常識と言ってもよいことがあるというのです。それは、最高裁は、弁論を開く前に結論を決めているということでした。本件で最高裁が弁論を開くと決まった後、誰もが「既に結論はきまっている」と弁護団に言います。弁護団は悩みます。「では、私たち弁護団は何のために最高裁大法廷に弁論をしに行くのか。最高裁の結論が出ている中で、事前に提出する書面を読み上げに行くのか。それでは、私たちの弁論は儀式の一部と化してしまう。」最高裁は、事前に弁論の内容を書面ですべて明らかにするように求めてきます。しかし、弁護団はこの最高裁からの申し出を断ります。大法廷で15人の判事に、新鮮な気持ちで聞いてもらいたいと判断したからです。判事の心を動かす弁論をしなければなりません。弁護団は議論を重ね、ある結論に達します。「自分たちにしか出来ない弁論をする。」

 弁論の一部です。「どんなに必要性や緊急性があっても、きちんとしたルールを定めなければ、許されない捜査。あいまいなルールに基づく規制には、馴染まない捜査。最高裁は、強制処分の意味をこのように考えているはずです。GPSによる行動の監視は、あいまいなルールでは制御できません。」「権力の暴走をゆるし、権力が国民を監視する社会を選ぶのか、それとも、権力の暴走をとめ、個人が強くあるためのプライバシーを大切にする社会を選ぶのか、この裁判が一つの分岐点になるでしょう。10年後、20年後に、私達がこの裁判を振り返ったとき、正しかったと思えるような判断をしていただきたいと思っています。私たちの子孫がこの裁判のことを知ったときに、私達を憎むのではなく、感謝してくれるような判断になることを願っています。」

 本特集では、中島宏鹿児島大学教授が「GPS捜査最高裁判決の意義と射程」と題する論文で、本判決が示した法規範の内容とその射程を明らかにしています。また、大野正博朝日大学教授は、論文「いわゆる『現代型捜査』の発展と法の変遷」で、写真撮影・ビデオ撮影、電話傍受、強制採尿などGPS捜査に至るまでの現代型捜査について解説しています。山田哲史岡山大学准教授は、論文「GPS捜査と憲法」で、住居の不可侵を保障する憲法35条からGPS捜査を論じます。辻本典央近畿大学教授は、論文「監視型捜査に対する法規制の未来 — GPS捜査の立法課題」で、今回の大法廷判決がGPS捜査に関して新たな立法を要求していることを受け、あるべき立法的措置を考察しています。いずれもGPS捜査とプライバシーを考える上で、貴重な考察と言えます。

【書籍情報】
日本評論社が発行する雑誌『法学セミナー』2017年9月号の特集。定価は1400円+税。

【関連書籍・論文】
別冊法学セミナー『憲法のこれから』(日本評論社)

<法学館憲法研究所事務局から>
WEB市民の司法 「市民の司法を考える」
【村井敏邦の刑事事件・裁判考(66)】
GPS捜査に関する最高裁の判断




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