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書籍『知らなかった、ぼくらの戦争』

M.I

 異色のインタビュー集です。編著者のアーサー・ビナードは、1967年、アメリカ・ミシガン州生まれで、日本語で詩作をする在日詩人です。中原中也賞も受賞した詩人が、「戦後70年」を機に、日本の戦争体験者の話を聴くというラジオ番組を収録したのが本書です。インタビュー相手は、市井の人々から、驚くべき体験をした人々ばかりで、圧倒されます。ゼロ戦パイロットの原田要さんは、真珠湾攻撃やミッドウェー海戦にも参加、真珠湾にはアメリカの航空母艦は一隻もいませんでした。原田さんは直ちにアメリカは日本の攻撃を知っていたに違いないと直観。ミッドウェーの敗戦では、重傷の者より軽傷の原田さんを先に手当てする軍医は「きみ、これが戦争なんだ。ちゃんと使える人間を先に診て治療する。重傷を負ってもう使えなくなった者は、一番後回しだ」と言います。「兵士は結局、機関銃や大砲や戦闘機と同じなんだ。使えなくなれば捨てられる。わたしはそのとき、戦争を憎むひとりになった。」
 アメリカ在住だった日系のリッチ日高さん、兵坂米子さんは戦争中、強制収容所に入れられます。なぜ日系人を隔離収容したのかが分かってきます。鳴海冨美子さんは、択捉島生まれ、「わたしたちがいえるのは、もう『戦争がいちばんいけない』ということじゃないですか。択捉島の島民たちは、戦争のことなんて知らなかったと思いますよ。それなのに突然戦争がやってきて、最後はソ連軍に島から強制的に追い出されて、全てを失ってしまった。」
 岡田黎子さんは、女学校二年生の時、瀬戸内海の大久野島の毒ガス製造工場に学徒として動員されました。何も知らないまま「戦争犯罪」に加担させられていました。飯田進さんは、ニューギニアに赴任し、現地住民殺害のBC級戦犯として重労働20年の禁固刑を受けます。
 余りの体験の多様さに呆然とするばかりですが、秋草鶴次さんは17歳であの激戦地・硫黄島に派遣されます。秋草さんは捕虜として生き残るのですが、この頃の戦況は「玉砕」が相次ぎます。編著者のビナードはここで「玉砕」について考えます。「玉砕」の作用は「生存者も口無し」になることだと言います。「だれが『玉砕』の口封じ効果で得するのか?それは、想像を絶する無駄死にをもたらした責任者たちだ。生存者すら告発できない言語空間にしておけば、どんなに無能なリーダーでも追及されずにすむ。」
 西崎信夫さんは、15歳で海軍特別年少兵として駆逐艦「雪風」に配属されます。以後、マリアナ沖海戦や戦艦「武蔵」のレイテ沖作戦に参加、最後は戦艦「大和」の沖縄水上特攻作戦に加わります。なんと西崎さんは生き延びます。終戦時、日本海軍の駆逐艦主力60隻の中で、「雪風」だけが残ったのです。
 有名人もいます。漫画家のちばてつやさんです。ちばさんは満州からの引き揚げです。大陸からの引き揚げの悲劇は広く知られているところです。元沖縄県知事の故・大田昌秀さんの話もあります。三八式歩兵銃一丁と120発の銃弾、それに2個の手榴弾だけ持たされて鉄血勤皇隊として戦場に出されます。2個の手榴弾は、捕虜になりそうになったら、1個は敵に投げつけ、残りの1個で自決しろという意味でした。大田さんは、人間不信に陥っていました。「日本兵が食べ物を持っている同じ日本兵に手榴弾を投げて、簡単に殺し、相手の食べ物を奪う。こんな光景を毎日見ていたからです。」「沖縄戦で心に刻んだ最大の教訓は『軍隊は民間人を守らない』ということです。非戦闘員の命を軍隊は守りません。これが、わたしが身をもって体験した沖縄戦です。」
 沖縄では、子どもや老人1500人が犠牲になった「疎開船」対馬丸の悲劇もありました。当時9歳で生き延びた平良啓子さんのインタビューが行われたのは、沖縄県東村でヘリパッドの建設に抗議する座り込みのテントの中でした。
 編著者ビナードの結論です。「『戦後七十年』のとき、ぼくは先人たちの『戦争体験』を聴こうと決め込んで、マイクを片手に出発した。が、実際に向き合って耳をすまし、歴史の中へ分け入ってみたら、一人もそんな『戦争体験』の枠に収まらず、みんなそれぞれの『戦後づくり』の知恵を教えてくれた。後のことを放置せず、大事な仕事として引き継ぎたい気持ちで、ぼくは胸がいっぱいだ。『戦後づくり』以外に、たぶん生き延びる道はないと思う。」

【書籍情報】
2017年4月に小学館から発行。編著者はアーサー・ビナード。定価は1500円+税。




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