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ブックレット『メディアに操作される憲法改正国民投票』

M.I

 法学館憲法研究所の伊藤真所長が、事あるごとに問題点の指摘をしている憲法改正国民投票法についてのブックレットです。国民投票法の正式名称は「日本国憲法の改正手続に関する法律」で、2007年5月18日に制定され、3年後の2010年5月18日に施行されました。10年前に制定されて以来、音沙汰のない状態が続きましたが、2017年5月3日に安倍首相が、突如ビデオ・メッセージを発表しました。それは、憲法9条1項、2項は残しつつ、自衛隊を憲法に明文化し、この改憲された新憲法を2020年の東京オリンピック開催までに施行するという宣言でした。国民投票法が俄かに現実味を帯びて来たと言えるでしょう。
 従来、国民投票法の問題点として指摘されてきたのは、最低投票率の定めがないことでした。現状では、たとえば投票率40%であれば、有権者の約2割の賛成で憲法が改正されてしまいます。主権者の一部しか承認していないものが改正憲法として成立したとしても、そこに国民を統合する力は乏しいでしょう(伊藤真「主権者が主権者として権利を行使するとき」法学館憲法研究所編『日本国憲法の核心 改憲ではなく、憲法を活かすために』204頁)。

 本書は、国民投票法のさまざまな問題点のうち、広告を野放しにしている部分こそが憲法改正の雌雄を決しかねない最大の問題点であることに着目し、あえてメディアと広告規制に論点を絞り、国民投票法の最大の問題点を明らかにしています。
 では、なぜ国民投票の結果が広告によって左右されるのでしょうか。それは国民投票の中身が通常の選挙とまったく異なるからです。通常の選挙が候補者を選ぶ選挙であるのに対し、国民投票で選択対象となるのは候補者ではなく、「改憲か否かの主張」です。有権者は賛成・反対両派の主張を読み、または聞いて、判断しなくてはなりません。そうなると、その判断を下すための「判断材料」の質と量が重要になってきます。そして多くの国民に広く「判断材料」である両派の主張を届ける手段が、現状では「広告」ということになるのです。ここで賛成・反対両派による猛烈な宣伝合戦が予想されますが、そこでは予算で上回る改憲派が絶対的に有利な状況にあります。著者によればそれには三つの主な要因があると言います。
 A 改憲派は運動の中心が定まっており、国民投票のスケジュールを自在に管理できる。
 B 改憲派は巨額の資金を有し、調達できる。
 C 改憲派の広告宣伝を担当するのは電通である。

 そして著者は、日本最大の広告代理店である電通が改憲派の宣伝広告と担当するということこそが、国民投票の勝敗を左右する最も大きな要因であると指摘します。電通は、日本のメディアの中でいちばん取引金額が大きいテレビ業界でのシェアが約35%と断トツに高く、非常に大きな影響力を持っていると言います。その力をもってすればどのようなことが出来るかは、本書に譲りますが、青天井とも言える広告宣伝費の投入によって、公平・公正であるべき投票活動が、歪められる危険性が非常に大きくなるということです。
 諸外国の規制例を著者は紹介しています。EU離脱の国民投票で記憶に新しいイギリスやフランス、イタリア、スペインなどです。ここで目立つのはどの国もテレビCMを禁止している点です。やはり映像と音と情緒に訴える力が強いテレビCMは、どの国でも国民投票の趣旨にそぐわないことが明らかになっているのです。
 日本のメディアは、国民投票法成立以来10年間、自主規制について議論をしたことがありません。著者によれば、メディア側が「規制によって自らの利益機会が減少することをおそれているからである。」この消極的な姿勢は、国民投票法に関するテレビや新聞の報道にも如実に表れています。著者の指摘です。「これほどの重要な問題を、大手メディア、特にテレビ局はまったく報道していない。新聞でも、メディア規制の必要性を報じた全国紙は朝日、毎日の二紙にとどまっている。」
 「国民投票法の広告宣伝を巡る問題は、電通という企業の存在があってのことであり、きわめて日本的な問題であると言える。」「それが国民投票法の成立から一○年経つのに、今までメディア側からまったく指摘されなかったことこそが、電通に忖度するメディア側の弱腰と、過度な広告収入への依存を如実に示している。」
 国民投票法の問題点に鋭く斬り込んだ一冊と言えます。

【書籍情報】
2017年9月に岩波書店から発行(岩波ブックレット)。著者は著述家の本間龍氏。定価は520円+税。

【関連書籍・論文】
法学館憲法研究所編『日本国憲法の核心 改憲ではなく、憲法を活かすために』(日本評論社)




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