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書籍『ナチスの「手口」と緊急事態条項』

M.I

 憲法学者の長谷部恭男早稲田大学法学学術院教授と、ドイツ近現代史が専門の政治学者石田勇治東京大学大学院総合文化研究科教授による対談です。表題の「ナチスの『手口』」は、麻生太郎財務大臣・副総理の改憲論議に絡めて言った演説に由来します。ヒトラーがたちまち独裁体制を確立した一因は、ワイマール憲法に規定された「大統領緊急措置権」にありました。石田教授はこれに相当するのが自民党の憲法改正草案の目玉のひとつ、「緊急事態条項」だと指摘します。
 石田教授はヒトラー政権誕生を、1929年の世界恐慌から語り出します。議会が機能不全に陥る中、当時のヒンデンブルク大統領が出したのが、ワイマール憲法にある緊急措置権に基づいた大統領緊急令でした。そこには大統領は一時的に、人身の自由、住居の不可侵、通信の秘密、意見表明の自由、集会の自由、結社の自由、所有権の保障に定められている基本権の全部又は一部を暫定的に停止できるとありました。このドサクサに首相に就任したヒトラーに「国会議事堂炎上事件」が起こります。これを共産党の組織的陰謀と決め付けたヒトラーは共産党を大弾圧します。ここで石田教授は、この事件はナチスの自作自演による謀略だという最近の研究成果を紹介します。さらに教授は、ナチスはワイマール憲法の民主主義を利用して「合法的」に権力の座に就いたという「常識」も、ナチ政権時代からのプロパガンダで、言い出したのはもともとナチ政権自身だという指摘もします。

 長谷部教授は、「公法学はなぜナチスに対して無力だったか」で興味深い指摘をします。教授はそれを「実定法である以上はそれに従うべきだという強い意味での法実証主義が重視されてい」たからだと言います。
そして悪名高き授権法です。実は授権法の制定には憲法改正に等しい手続きが必要で、国会議員の三分の二以上の出席と、出席者の三分の二以上の賛成投票が必要でした。ナチス党の議席は過半数には達していましたが、三分の二には届きません。そこでヒトラーは「議事堂炎上事件」を利用して、共産党の国会議員を一斉に拘束し、出席者の三分の二以上の賛成という条件をクリアします。さらに国会議員の三分の二以上の出席という条件をクリアするために、議院運営規則を変更し、議長の認めない理由で欠席する議員は「出席」とみなすという姑息な手段を取ります。
 授権法の成立で、政府によっても法律を議決できるようになり、授権法第2条には「政府の議決した法律は…憲法に違反することができる」とありました。長谷部教授は、憲法と法律との同等性を指摘します。「たしかに当時は、憲法も所詮は法律の一種にすぎないのであって、ただ成立あるいは改正の手続き要件が異なっているだけだという考え方が有力でした。」
 戦後のドイツは、ナチス・ドイツに対する反省から「戦う民主主義」となり、ドイツ国民の抵抗権を憲法(ボン基本法)で認めています。さらにこの憲法の緊急事態条項は、これまで一度も発動されていないことを長谷部教授は指摘します。

 さて、自民党の改憲草案の緊急事態条項です。石田教授は、「緊急事態の認定の要件がとても緩いことが気になります」と指摘。なぜならば緊急事態であるかどうかは内閣総理大臣が自分で決めるだけだからです。ボン基本法のように、緊急事態を詳細に分類してそれぞれに規定をもうけているわけでもありません。改憲草案では、法の下の平等(14条)、奴隷的拘束及び苦役の禁止(18条)、思想及び良心の自由(19条)、表現の自由(21条)を「最大限に尊重」すると言いますが、制限してはならないといっているわけではありません。長谷部教授は「これは逆に、これらに関しては制限することがありますよ、という意味ですね」と指摘します。石田教授です。「ますます何のために緊急事態条項を設けようとしているのかと、根本的な疑念がわいてきますね。有事立法などはすでにあるわけで、不備があれば法律をつくればいいことを、わざわざ憲法改正でやろうとする。」長谷部教授です。「おっしゃるとおり、どうも憲法をかえることが自己目的化しているのではないのかと思わざるをえないところがあります。」

【書籍情報】
2017年8月に集英社から発行(集英社新書)。著者は長谷部恭男早稲田大学教授、石田勇治東京大学教授。定価は760円+税。

【関連書籍・論文】
長谷部恭男編『安保法制から考える憲法と立憲主義・民主主義』(有斐閣)




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