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書籍『2017年7月7日国連会議で採択 核兵器禁止条約の意義と課題』

M.I

 10月6日、ノルウェーのノーベル賞委員会は今年のノーベル平和賞を、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN・本部ジュネーブ)に授与すると発表しました。受賞理由の一つが、今年7月に国連で採択された核兵器を違法とする核兵器禁止条約の成立で「主導的役割を果たした」とするものでした。ICANは、核の非人道性を訴え、広島や長崎の被爆者や日本の反核・平和運動の中心的存在である日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)と連携して運動を展開していました。
 ヒロシマ、ナガサキへの原爆投下から72年、ようやく核兵器を違法化する初めての条約ができたのです。本書は、原水爆禁止世界大会起草委員長である冨田宏治関西学院大学法学部教授が、核兵器禁止条約の意義やこれまでの経緯を分かりやすくまとめた解説書です。核兵器禁止条約という画期的な条約の採択は、多くの日本人にとっては「なぜそんなことが急転直下に起こったのだ」と驚かれたようですが、教授に言わせると、これは日本のメディアが報道してこなかっただけであって、この伏線は20年以上前から敷かれていたとのことです。
 本書は、「第一章 条約の内容と意義を交渉の経緯から見る」、「第二章 条約を生んだ世界諸国民の歴史的な闘い」、「第三章 核抑止にしがみつく安倍政権を追い詰める」の三章から成っています。

 核兵器に関する条約と言えばNPT(核不拡散条約)が知られていますが、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスは核兵器を持ってもいいが、残りの国は持ってはいけないという極めて不平等なものでした。これでは五カ国の核兵器は合法のままです。核兵器禁止条約は、核兵器を非合法化、違法なものして核保有国に「違法なものを持ち続けるのか」として廃棄させるという方向で迫っていくというNPTを超えるアイデアでした。
 そこで核兵器禁止条約です。この条約は前文と全21条から成り立っています。まず、その第1条で、核兵器の(a)開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵、(b)移転又は管理の移転、(c)移転又は管理の移転の受領、(d)使用と威嚇、(e)以上の禁止活動への支援、奨励、勧誘、(f)禁止活動への支援、奨励、勧誘の受領、(g)自国領域への核兵器の配備、設置、展開の許可が明確に禁止されています。つまり、核兵器にかかわる主要な活動のほとんどを明確に非合法化しているということです。
 もうひとつ重要なことは、その第6条で、「その管轄下又は管理下にある場所における核兵器の使用又は実験によって影響を受けた諸個人」—つまり広島・長崎の被爆者や世界各地の核実験被害者—に対して、医療、リハビリテーション、心理的サポートを含む支援を提供し、「社会的かつ経済的な包摂を提供すること」—つまり、社会的・経済的な不平等や差別が起きないように支援すること—が、締約国に義務づけられていることです。日本がこの条約に参加すれば、広島・長崎の被爆者への援護施策を手厚く行うことが条約上の義務となり、国際的に求められることになるのです。
 これは今までの国連の軍縮総会などにおいて数々の発言をしてきた日本の被爆者の影響と思われます。そして遂に条約の前文に「核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)と核実験の影響を被った被災者の受け入れがたい苦難と被害に留意し」という一節が明記されたのです。

 条約交渉の議論の対象になったものに、「威嚇」があります。「威嚇」を除くとするのはスウェーデンなどの主張で、「核の傘」のもとにある国々が条約に入れることをねらったようです。しかし、結局「威嚇」も禁止され、核兵器禁止条約は、明確に「核抑止力」を否定するものとなりました。
 核兵器禁止条約は、国連で122の国と地域の賛成で採択されました。アメリカやロシアなどの核保有国は反対し、アメリカの「傘の下」にいる日本は反対の立場から参加すらしませんでした。
 さて、この条約の最も重要な意義です。「法的に禁止されていることをやり続けるということは、『ならず者国家』になることを意味します。アメリカは、イラクやイラン、北朝鮮など自分たちの意に沿わない国々に対して『ならず者国家』というレッテルを貼ってきましたけれども、今度は核兵器を持っている五つの国に対して、世界が『ならず者とはあなたたちのことだ』と言えるようになるのです。」「核兵器禁止を先行させる形にして、違法な核兵器を持ちつづける国を『アウトロー』の存在であると位置づけること。これこそが、この条約の最大のポイントになるわけです。」
 核兵器禁止条約の採択に到る過程には、「核兵器のない世界」を悲願とする被爆者の粘り強い営みがありました。著者の言葉です。「被爆者のみなさんは想像を絶する非人道的で悲惨な体験をその身に受けたにもかかわらず、いや、それゆえにこそ、決して『報復』を求めることはありませんでした。原爆を投下したアメリカの上にさえ、二度と核兵器を使わせてはならない。そのためには、この世界からすべての核兵器をなくさなければならない。『報復』を求めず、『核のない世界』を求める。こうした被爆者の立場こそ、核抑止力という『報復』『脅迫』『恐怖』の論理を最終的に打ち砕いていく道を私たちに指し示してくれているのではないでしょうか。」

【書籍情報】
2017年8月にかもがわ出版から発行。著者は冨田宏治原水爆禁止世界大会起草委員長・関西学院大学法学部教授。定価は930円+税。




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