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書籍『憲法と世論 戦後日本人は憲法とどう向き合ってきたのか』

M.I

 現在国会の構成は改憲を容認する勢力が三分の二以上の議席を占め、改憲論議が具体的に語られる事態となっています。しかし今、国会や知識人の間で盛んになっている改憲の是非は、真に世論を踏まえたものになっているでしょうか。本書は一般の有権者が、憲法をどのように見てきたかを戦後70年にわたり精査した調査書とも言える一冊です。
 日本国憲法は、1946年11月3日の公布、1947年5月3日の施行により誕生します。この時期の国民の憲法意識で注目すべきは、戦争放棄の条項より象徴天皇になったとはいえ、天皇制の存続の保証が国民の新憲法への支持の中核であったことです。今までの通説によると、戦争に疲れた当時の日本人は戦争放棄条項を圧倒的多数で支持し、平和主義を歓迎したというものでしたが、本書によると、こうした通説的な見方には、実はほとんど根拠がないといいます。大戦の惨禍がまだ生々しいこの時期に9条の平和主義が人々の心を強く打った可能性はあったかもしれませんが、その説得的証拠はないのです。
 次に1952年の独立後です。この時も、今後は再軍備が必要であると、その必要はないがほぼ同じ割合で、完全非武装主義を理想とする九条支持者は、全有権者のせいぜい1割強でした。つまり1950年代までの時期、「国家たるもの、ある程度の軍事力を備えることは当然」との認識が一般的であり、自衛隊の必要性もまた当然のことだったのです。この時期、国民の圧倒的多数が軍隊アレルギーを持っていたという見方は、後世の先入観に基づいた神話であるといえます。著者の指摘です。「『自衛隊の明記』といった比較的簡単な改正案についてはもちろん、新憲法の全面的改正を主張することすら、当時の社会ではけっして異端でなかった点に十分留意しておきたい。」
 改憲派の鳩山一郎内閣、岸信介内閣の下において、なぜ改憲が実現できなかったのでしょうか。著者の回答です。「一九五○年代の改憲運動が頓挫した要因は、結局のところ、保守勢力内における足並みの乱れと憲法改正発議要件(九六条)の厳しさに求めたほうがよい。」前者の保守勢力内における足並みの乱れとは吉田茂たちが、九条改正に消極的であったことです。21世紀になって安倍首相が96条を目の敵にした理由もわかりました。
 さて、安倍首相の口癖になっている「改憲は立党以来の党是」も、高度成長期に首相の座に就いた田中角栄は、「現行憲法は、成立の過程にいろいろな問題がある。しかし、憲法は四分の一世紀以上の歴史の中で国民に消化され、定着した。いまのわが国の状態の中での憲法は守ってゆくべきだ。国民が不磨の大典として守ってゆける憲法と考える。(略)改正の必要は認めない」と述べています。決していつも党是ではないことが明らかです。
 表やグラフ・データが豊富な本書を読むと、日本人の憲法観が浮かび上がってきます。著者の指摘です。「日本人の憲法観はけっして不変ではない。だからといって、無軌道に動いているわけでもなければ、特定の党派勢力のメッセージに誘導されつづけているわけでもない。そうした意味で世論は、バランスがとれた、十分に『合理的』な存在であると言ってよい。」
 いよいよ発議です。著者は警告します。「議論の過程を可視化し、多様なメディアを通じて、国民に十分な情報が提供されること。月並みではあるが、改憲発議にまで求められるのは、こうしたプロセスである。このうちいずれかの条件が欠けたまま発議に持ち込まれた場合、国民投票の審判がどのようなものであれ、深刻な混乱と分断が、この国の政治・社会にもたれされかねない。」
 本書は、日本人の憲法観を通して、1945年から2016年までの戦後政治史にもなっています。

【書籍情報】
2017年10月に筑摩書房から発行。著者は境家史郎首都大学東京准教授。定価は1700円+税。



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