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書籍『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』

M.I

 著者は、伊藤忠商事社長・会長、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任し、2010年、民間出身では初の中国大使に就任した国際ビジネスマンです。冒頭にかつて自民党で最大派閥を率いた田中角栄元総理が、新人議員に語っていた言葉が紹介されます。「戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが、戦争を知らない世代が政治の中枢となったときはとても危ない。」著者は言います。「いまの日本は、まさに田中角栄の予見したとおりなのではないか。強硬論、好戦的な発言が飛び交う背景には、戦争体験者が政界にも社会にも少なくなったという問題があると思われる。」本書は、著者のこの危機意識から書かれた警世の書です。
 2010年6月から2012年12月まで中国駐在大使を務めた著者は、まず日本人の中国嫌いは世界でも異常だと指摘します。日本では中国好きが9%、嫌いが89%で、世界全体での中国好き派55%、嫌い派34%と比べると突出しています。ビジネスマンらしく著者は「利害関係は話し合いでディールできる。話し合いは、お互いの利害の違いを明らかにして一致点を見出すものだ。一方的に相手を罵倒したり、見下していてはディールなどできっこない」と断言します。
 著者は、戦争をなくすために大事なことは、まず戦争を知ることであると考え、現在は高齢となった戦場体験者の話を次々に聞き始めます。死亡率79%のフィリピンから生還した元少年通信兵、零下40度のシベリアに抑留された元工兵等々、組織も規律も失った敗軍の兵の生々しい証言が次々に紹介されます。そこにあるのはフィリピンや中国での無差別の大虐殺であり、病死・餓死・自殺によるおびただしい死であり、そして人肉食です。著者は指摘します。「日本国内で普通に暮らしていたときには、みんな善良な市民だったはずだ。日本兵の蛮行を一部の特殊な人々の行為と捉えるべきではない、極限の状況下に置かれた人の集団は、たやすく鬼畜となるのだ。これが戦争の真実である。」
 著者は、現在の日本を取り巻く脅威の真実も考察します。まず尖閣諸島の問題を抱える日中関係です。著者は日中の国防費を冷静に比較します。結論は明確です。「日本が選ぶべき道は中国との軍拡競争ではない。(中略)現在、疎遠になっているように見える両国の関係をより深める努力を一層深化させることが、真の我が国の安全保障である。日本人はこの点を再認識すべきなのだ。」
 本書では、かつて無責任体制のまま国を滅ぼした戦争指導者と、破綻する事業を平然と行う現在の企業経営者が、ビジネスマンの著者らしく同列に語られます。そして「最も重要な抑止力は政治家の質である」という結論に到ります。ここでいう政治家は政治を生業にするポリティシャン(Politician)ではなく、確かな見識を持った賢人政治家を意味するステーツマン(Statesman)です。筆者は言います。「民意はときに過ちを犯すということが、民主主義のウィークポイントだ。最大の過ちは戦争である。政治家の使命の第一は、国を戦争に導かないことだ。国益のために戦争も辞さずという声を聞くこともあるが、その国益とはいったい何なのか。国民を犠牲にして成り立つ国益などあろうはずがない。日本において最大の国益とは、国民を戦渦に巻き込まないことに尽きる。そのために日本にはステーツマンが必要なのである。」

【書籍情報】
2017年8月に東洋経済新報社から発行。著者は丹羽宇一郎早稲田大学特命教授。定価は1500円+税。

【関連書籍・論文】
アーサー・ビナード『知らなかった、ぼくらの戦争』

保阪正康『日本人の「戦争観」を問う 昭和史からの遺言』





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