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特集『議会制民主主義の危機』

M.I

 これほど時宜にかなったタイトルはないと思える特集です。「安倍一強」といわれる政治状況の中で、立憲主義が危うくなっていることは多くの人々が指摘する点です。しばしば「行政府の長」が「立法府の長」と発言することも珍しくなくなりました。本特集では、私たちの社会の議会制民主主義の問題状況を分析し、具体的に制度を修正し改善していく方向性を展望します。
 冒頭論文は、只野雅人一橋大学教授による「議会制民主主義の『危機』?―日本の議会制民主主義の『今』を考える」です。この論文で只野教授は、議院内閣制の先輩格であるイギリスと日本を比べます。教授は、「イギリス・モデルには、首相・内閣の優位と均衡を保つ重要な要素が含まれている。政権交代である。政権交代の可能性をもった野党の存在が、多数党に支えられた首相と内閣を牽制する役割を果たしてきた。また、政権交代を前提に、野党に制度上、特別な位置づけが与えられてきたことも見逃せない。野党第1党の党首は公的な処遇を受け、『影の内閣』を組織する」とイギリスを紹介します。
 「一方日本では、2009年の政権交代以降、民主党政権への失望もあって、2012年末の第2次安倍政権誕生以降、政権交代の展望は遠のいたままである。首相・内閣への権力の集中のみが際立てば、伝統的はイギリス・モデルにあった均衡のメカニズムが働かず、首相統治の病理が強く表れることにもなる。」
 只野教授は、憲法学者の宮沢俊義の言葉から、議会の存在意義を、むしろ「そこに代弁される社会のもろもろの利益相互間の現実的な妥協の場であり」という一節を引きます。現在はどうか。「そうした『妥協』のプロセスが非公開で多数派内部において事前に進められれば『討論と説得』は文字通り形骸化する。議会は多数決で決定が下されるだけの場に堕してしまう。日本の国会の病理は、何よりもこの点にあると思われる。『安倍一強』のもとで際だった審議が深まらない国会は、根強い病理の現れでもある。」

 中北浩爾一橋大学教授は、「内閣法制局が長年積み上げてきた憲法解釈を閣議決定によって覆し、従来、違憲とされてきた集団的自衛権の行使を認めたことは、実質的に憲法改正を行うことに等しく、政府を憲法の制約下に置く立憲主義に反したことを指して、「ここから安倍自民党『一強』は議会制民主主義の危機を生じさせているという理解が生まれてくる」と指摘します。
 上田健介近畿大学教授は、「選挙・内閣・アカウントビリティ」の中で、内閣(首相)が権力を濫用する「議会制民主主義の危機」を、「国会と内閣の関係において、@内閣=政権党と野党との関係をみると、内閣=政権党が得票率に比して過剰な議席を与えられるので増長する、あるいは国会(野党)によるコントロールが働きにくくなる。関連して、小選挙区制は、二大政党による『競争』が機能することを前提としているが、日本の実態は自民党の一党優位であり、この条件が充たされていない。また、A内閣と政権党の関係でも、党執行部≒内閣が、選挙の公認権や政治資金の配分を通じて影響力を拡大したため、政権党に所属する国会議員が内閣を批判することが困難となっている。」

 いずれも「御説ご尤も」で、日本にはイギリス・モデルは向かないのか、といささかうんざりする中で「一服の清涼剤」になるのが、徳永貴志和光大学准教授の「議会における審議と立法―審議過剰なフランス議会と審議過少な日本の国会」です。フランス革命以来の伝統なのか、まずフランス議会の法案の審議期間の長さに驚かされます。フランスの議会で可決された1つの法律につき、その提出から採択に至るまでに要した期間の平均は約9か月半(283日)とのことです。これに対し日本の国会では、現行憲法下で最大の延長幅を記録した2015年の通常国会において審議・可決した安全保障法ですら、その提出から採択までに要した期間は4か月ほどでした。「このように、審議に時間をかけることによって、世論の動向を見極めながら、与党だけでなく野党を中心とする反対勢力からも広くコンセンサスを得ることで、将来の政権交代後も覆されることのない強固な正当性を獲得することを目指しているといわれている。」
 もう一つの特徴は、法案に対して提出され、採択される修正案の多さとのことです。「2008年の憲法改革により、委員会は議員提出法案と同じく政府提出法案についても修正を加え、すべて書き換えることさえ自由にできるようになった。」「こうして、法案に対する委員会審査の比重が従来よりも格段に高まった結果、これまで以上に議員、とりわけ与党議員による修正が行われている。」日本では考えられません。

 確かに日本の議会制民主主義の危機はわかりました。では、どうすればいいのか。その解決の方向性を示すのが、本特集最後の論文、新井誠広島大学教授による「政府の統制―与党(多数党)と野党(少数党)」です。新井教授は「民主主義社会における『議会政治のルール』は本当に『多数決原理』だけなのだろうか。」という問題意識から出発します。ここで新井教授は、まず政府統制に注目します。それは議会による政府統制であり、野党(少数党)による政府統制です。具体的には、予備的調査制度、党首討論制度、臨時会の召集をめぐる憲法53条の解釈、さらに多数派の相対化として党議拘束の緩和など魅力的な提案がなされます。この論文は、国会議員必読と言えるでしょう。

【書籍情報】
日本評論社が発行する雑誌『法学セミナー』2017年12月号の特集。定価は1400円+税

【関連書籍・論文】
特集「議会制民主主義とあるべき選挙制度」雑誌「法と民主主義」2010年2/3月号所収 (日本民主主義法律家協会)
論文『議会制民主主義と日本の国会』雑誌『法学セミナー 2004年11月号』所収(日本評論社)





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