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ブックレット『「北朝鮮の脅威」のカラクリ 変質する日本の安全保障』

S.K

 2017年8月29日、安倍首相は北朝鮮のミサイル発射後の会見で、まるで日本を標的にしたかのように「我が国に弾道ミサイルを発射しました」「これまでにない深刻かつ重大な脅威」となったと述べた。安倍首相は「発射直後からミサイルの動きを完全に把握していた」と述べているにもかかわらず、全国瞬時警報システム(Jアラート)はミサイルが上空を通過する北海道だけでなく、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、新潟と広域で発動された。これを受けて各地で電車の運転が見合わせとなり、小中学校が休校となる事態となった。上空といっても領空のはるか彼方、人工衛星が周回するような領域であり、着弾したのは襟裳岬から2200Kmも離れた場所だった。内閣官房の発信する「国民保護ポータルサイト」には弾道ミサイル落下時の行動について「地面に伏せて頭部を守る」などと、有効であるはずもない情報が掲載され、いくつかの自治体ではこの指示に従った避難訓練まで行われた。このような煽りによって現在多くの国民に「北朝鮮の脅威」は刷り込まれている。
 本書では、まず、このようなミサイル発射に対する内閣府の広報がいかに過剰かつ無意味なものであるかが明らかにされている。
 たしかに、北朝鮮は核実験やミサイル発射実験を繰り返している。2017年には8月に長距離弾道ミサイル実験を2回、9月には6度目の地下核実験に続き、中距離弾道ミサイル実験を行い、11月には大陸間弾道ミサイルの発射実験も行っている。第1章ではまず、このように挑発を続ける北朝鮮の実像や、「先軍政治」の下で進められた核開発・ミサイル開発の経緯や現在の到達点、北朝鮮問題に絡めて対米支援を強化することになった安全保障関連法の実態が明らかにされている。著者は、1993年、94年の朝鮮半島危機の際、日本が対米支援にゼロ回答を繰り返したことによって米国が戦争を断念する要因になった可能性を指摘し、対米支援を押し進める現在の外交に警鐘を鳴らす。
 第2章では、北朝鮮のミサイル発射実験を契機に日本独自の情報偵察衛星と弾道ミサイル防衛システムが導入された経緯やその能力、その費用と効果などが解説されている。特に弾道ミサイル防衛システムの導入は「逆シビリアンコントロール」による恣意的なものであったことが明らかにされている。
 また、2012年3月に北朝鮮が「人工衛星「光明星3号」」を発射した際、地対空ミサイルPAC3が石垣島や宮古島に配備され、南西諸島に多くの自衛隊員が送り込まれたが、北朝鮮の予告した軌道下にある多良間島にはたった2名の連絡要員が派遣されただけで、中国を意識した自衛隊常駐の地ならしであったことなどが明らかにされている。
 第3章では、まず、核実験やミサイル発射実験を繰り返し、挑発を続ける北朝鮮の狙いが朝鮮労働党機関紙『労働新聞』やASEAN地域フォーラム閣僚会合での北朝鮮外相の演説などから明らかにされている。さらに本書では1993、94年の朝鮮半島危機の際、陸・海・空の三自衛隊を束ねる制服組のトップ、統合幕僚会議(現・統合幕僚監部)がひそかにまとめた「K半島事態対処計画」をもとに、朝鮮半島有事の際に想定される事態を具体的に検証している。北朝鮮は、14万人の陸上自衛隊に対し、1万という少ない兵員でも効果的に戦う方法を熟知している上、弾道ミサイルから全国を守るには防衛費がいくらあっても足りず、押し寄せる難民の対応で警察も自衛隊も機能不全になるという。また、原発は一つとしてPAC3の防衛範囲に入っていないが、格納容器が破壊されなくとも原発建屋の上部にある使用済み燃料プールが狙われれば甚大な被害が出るとの指摘もされている。
 筆者は、戦争を避けて北朝鮮問題解決を解決するためには、北朝鮮の核放棄を条件とせずに議論を開始し、議論の過程で核兵器の完全な管理とミサイル発射の停止を求め、その見返りとして「米国は北朝鮮を攻撃しない」という保証を含めた平和協定を米朝で締結するところから始める必要があると指摘している。

【書籍情報】
2018年3月に岩波書店から発行(岩波ブックレット)。編者は半田滋。定価は520円+税。

【関連書籍・論文・HP】
書籍『「戦地」派遣—変わる自衛隊』

<法学館憲法研究所事務局から>
・著者の半田滋さんは、当サイトの「今週の一言」にもご寄稿いただいています。
「『国防軍』をつくる」の愚かさ




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