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書籍『白井聡対話集 ポスト「戦後」の進路を問う』

S.K

 戦後日本のレジームの核心を「永続敗戦」と鋭く指摘し、「戦後レジームからの脱却」を揚げた安倍内閣は、発足以来「戦後レジームの強化」をしているなどと述べ、注目を集めた『永続敗戦論—戦後日本の核心』の著者である白井聡(政治学者)の対話集です。各分野の第一線で活躍する12人の論客との対話がまとめられています。幅広い分野の方々との対談でありながら、白井氏の考えが核心をとらえたものであることもあり、深く、非常に読み応えのある内容となっています。白井氏の物事の本質を見抜く洞察力、豊かな知見に驚かされるとともに、「アメリカ追随が日本の利益」という空気が蔓延している現代日本において、今後の更なる活躍を期待せずにはいられません。
 1人目は孫崎享氏(評論家、元外交官)。2012年『戦後史の正体』を上梓し、20万部を超えるベストセラーになっています。歴代の首相・外相を「自主派」と「対米追随派」に分類し、戦後をめぐる歴史観に「米国からの圧力」という観点を提示している。近著『これから世界はどうなるか』では、「米国衰退」というテーマを掲げ、今後の日本を取り巻く世界情勢についても豊富なデータから論じています。白井氏と戦後日本の抱える外交的諸問題およびその構造的要因について語っています。
 2人目は水野和夫氏(エコノミスト)。著書に『資本主義の終焉と歴史の危機』などがあります。白井氏は、水野氏の「中間層が没落すると、国民の同質性が失われるので、民主主義が成り立たなくなるのではないか」との主張に対し、カール・シュミットの指摘する民主主義の前提としての同質性を、経済的な同質性と捉えていて重要かつ新鮮だと述べています。
 3人目は、中島岳志氏(政治学者、歴史学者)。いま日本では、辺野古新基地建設、首相の靖国神社参拝、NSC設置法と特定秘密保護法の成立など、対米従属の戦後レジームが強化され、過剰忖度の空気が蔓延しています。米国型システムを直輸入し、構造改革を断行した結果が現在の日本だとすれば、われわれの課題はいかなるものか、白熱の議論が収載されています。
 4人目は、中村文則氏(作家)。白井氏と同じ35歳。冒頭では、同世代の人たちが本当の意味での政治の話をしない、大文字の権力について語ることに異常なまでに禁欲的であることを辛辣に批判しています。フランクな対話でありながら、現代日本社会に蔓延する精神構造を鋭く指摘しています。
 5人目は、信田さよ子(臨床心理士)。信田氏の『依存症臨床論』(青土社)の刊行記念に反知性主義をテーマに行われた対談です。反知性主義とは知的なものとか、知的な人間に対する攻撃的な憎悪のことで、大衆に潜在的に存在する反知性主義を政治は常にうまく利用されてきました。米国の赤狩りなどが典型で、これがさらにエスカレートした例としてマッカーシズムや中国の文化大革命、カンボジアにおけるポルポト派の支配が挙げられます。本対談では、社会的現状肯定のための反知性主義—認知行動療法と主流派経済学、反知性主義的統治と家族幻想、母と天皇制—日本の反知性主義の根などが語られています。
 6人目は、佐藤優氏(作家、元外務省主任分析官)。ここでは「永続敗戦レジーム」と呼んでいたものが最もダイレクトに出ている沖縄問題について語られています。沖縄問題の淵源は「廃藩置県」の失敗にあること、沖縄県民のアイデンティティーの変容、本土と沖縄の情報空間の違いや、「独立」を煽っているとしか思えない政府の行動、日本人の沖縄問題についての無関心などが語られています。
 7人目は、岡野八代氏(学者、専門は西洋政治思想史、フェミニズム理論)。岡野氏はフェミニズムの視点で政治思想から憲法まで幅広く発信を続けている。この対談では、「戦後70年」に山場を迎えた日本国憲法体制と人権の危機をわたしたちはどう乗り越えるべきか語られています。
 8人目は、『大杉栄伝』(夜光社)で一挙に注目を集めた新進気鋭のアナキズム研究者である栗原康氏(政治学者)。白井氏は大学時代、同じゼミの先輩だったそうです。白井氏の『永続敗戦論』に続き『大杉栄伝』も「いける本大賞」を受賞しています。本書に収載されている対話は、栗原氏の新刊『現代暴力論—「あばれる力」を取り戻す』(角川新書)の刊行を記念して行われたものです。白井氏は『現代暴力論』について、重要なテーゼを含む何年も残るような思想的意味のある本であると評価しています。
 9人目は、内田樹氏(哲学研究者、京都精華大学人文学部客員教授、)。本書に収載されているものは2015年9月19日に成立した新安保法制を契機に企画された対談で、白井氏と内田氏は対談本『日本戦後史論』も出版しています。立憲デモクラシーという政体の根幹が崩れ、経済も、医療も、メディアも、日本のあらゆる仕組みが制度疲労で限界に達している今、大学や教育も例外ではなく大学は「株式会社化」し、「イノベーション」が進められています。このような状況でとりわけ強い逆風にさらされている人文学の知見をどう活かすべきか語られています。
 10人目は、基本の基本を確認しなければいけないような劣化が激しい政治状況の中で『虚人の星』を上梓して毎日出版文化賞を受賞した島田雅彦氏(小説家、学者、俳優)。「国家の自殺をくい止められるか」というテーマで語られています。
 11人目は、馬奈木厳太郎氏(弁護士)。福島第一原発事故後、原告4000名と共に国と東京電力に対し原状回復・被害の全体救済・脱原発を求めた「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の弁護団事務局長。白井氏は、弁護団の依頼で講演を行ったのをきっかけに、
「裁判闘争」である生業訴訟に深い関心を寄せるようになったそうです。「裁判闘争」の本質、裁判を通した社会運動の意義、役割などが語られています。
 12人目は、猿田佐世氏(弁護士、新外交イニシアティブ事務局長)。猿田氏は、沖縄の声をはじめ、従来、日本政府・外務省が届けてこなかった多様な声をアメリカ政府の中枢ワシントンに届けるために精力的に政策提言などを行っています。日米外交の日本側のチャンネルが著しく劣化し、アメリカにとっての日本の重要度も低下しているいま、固着した日米関係の壁に挑む大きな希望として新しい外交のありかたが語られています。

【書籍情報】
2018年2月にかもがわ出版から発行。著者は白井聡。定価は2000円+税

【関連書籍・論文・HP】

書籍『永続敗戦論—戦後日本の核心』
書籍『戦後史の正体』




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