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ブックレット『憲法が生きる市民社会へ』 

S.K

 このブックレットは、2018年2月21日に開催されたビッグ鼎談「憲法が生きる政治へ」(西宮革新懇主催)をまとめたものです。いまの世界的な経済情勢や政治の状況、政治が劣化した日本の現在とその背景、そして「憲法が生きる市民社会へ」の希望の灯をどのようにともすかが語られています。各氏の語りはとても具体的で説得力があり、また、司会の冨田氏は各氏の発言を端的にまとめ、わかりやすく議論を進めているため、大変読みやすい1冊となっています。

階層の二極化と排外主義
 司会の冨田氏は、いまわずか8人の世界の富豪の資産が世界の下位36億7500万人の資産を上回っているという凄まじい状況にあるといいます。
 経済学者の石川氏は、この格差の広がりについて、ソ連・東欧崩壊をきっかけに、アメリカの財界と政府が、経済グローバリゼーション戦略という形で金融の自由化を主軸とする新自由主義的改革を世界に強要し始めたこと、日本は「構造改革」という形でこれを受け入れたこと、これが、経済の金融化、株主資本主義化、マネー経済の肥大化を招き、博打でお金を儲ける経済の領域が急拡大するとともに格差が拡大したと解説しています。そして、大企業・大富豪がやりたい放題できる経済の仕組みである新自由主義の政策転換こそが必要だが、そこから目をそらせる為に排外主義の主張でごまかしていると指摘しています。
 内田氏は、階層が二極化すると消費活動は減り、当然経済は停滞し体制は不安定になるが、市場に委ねていても、この富裕層と貧困層への二極化は止めることはできず、止めるには政治主導で行うしかないと語ります。
 さらに本書で内田氏は、中国についてさまざまな具体的要素から合理的な分析を行い、「一帯一路」構想や21世紀海上シルクロード構想やAIIBは「中国版ニューディール政策」といえると指摘します。日本のほとんどのメディアは膨張主義に駆り立てられた覇権主義的な政策としてしか報道しないが、「完全雇用」を最優先課題に挙げ、結果的にいま一番成功している中国モデルを、興味を持って観察していると語っています。

日本の政治の劣化とその背景
 内田氏は、「1億総中流」という社会構造が空洞化し、一人ひとりがさまざまなクラスターに細分化され、客観的事実が共有されなくなったことで、対話も合意形成もできなくなっていると指摘します。自分と政治的意見の違う人間の言葉に耳を傾けようともしない安倍首相はこの国民的分断を体現しているともいいます。そして、いま起きている国民的分断が続けばより民主主義という仕組みそのものが機能しなくなっていくだろうと警鐘を鳴らしています。
 石川氏は、日本経団連をはじめとする貧富の格差を是正する経済的な支配層が、「貧困の自己責任」を唱えて市民社会の内部に分断と対立を生み、その貧困への不満が「真の敵」に向かうことを避けるため、財界も政府も排外主義の活動を大きくは認容し活用してきたと指摘しています。そして世界的になされている対決の焦点をしっかりつかんだ取組みを参考に「真の敵」をしっかり見据え、多くの市民が力を合わせる必要性を語っています。
 安倍政権について石川氏は、戦後日本政治に含まれていたさまざまな欠陥や弱点の最も悪い部分が肥大化させられたものだと評価します。自民党議員の8〜9割が、国政の基礎を「憲法の精神」ではなく、「神道の精神」により確立しようとする「神道政治連盟」加入議員であることや、対米従属政策、実質的な賄賂といえる年間27〜28億の企業献金、外交戦略なき軍事信奉、核の潜在的抑止力としての原発政策、小選挙区制のトリックやメディアを牛耳ることにより多くの議席を得ていることなどが語られています。
 内田氏は、日本の政治の劣化の最大の原因は「語るビジョンがないこと」であるといいます。日本人は将来に対するビジョンを見失っており、こうした国民の絶望こそが未来の見えない日本の中の未来なき政治家をトップに押し上げているという。

希望の灯をどのようにともすか
 石川氏は日本国憲法段階に達した市民運動の急速な成熟に希望の灯があるといいます。
 これに対し内田氏の見方は悲観的です。ブータンの「国民幸福度」指標や、カナダのジャスティン・トルドー首相などを挙げて、国民全員が無条件に「ああ、それはいい。それには何の意義もないよ」と階層や政治的立場を超えて合意できるようなシンプルで雄渾な「国民の物語」を国際社会から共感と敬意を得られるような汎用性の高い国家像を提示できる国が真に国力のある国だと思うと述べ、「新しい時代を切り拓く新しいアイデアはつねに思いがけないところから、思いがけない人がもたらすものです。」現状がいくら悲観的であっても、思いがけないことが必ず起こる。そこに希望を託したいと語ります。
 冨田氏は、各氏の発言をまとめ、長期的な展望と短期的に私たち自身がすべきことを具体的に示してくれています。

【書籍情報】2018年5月に日本機関誌出版センターより刊行。著者は内田樹、石川康宏、冨田宏治。定価は800円+税

【関連書籍・論文・HP】
   書籍『大阪市解体 それでいいのですか? −大阪都構想 批判と対策』
   書籍『やっぱりあきらめられない民主主義』
   書籍『憲法の「空語」を充たすために』
   論文 「憲法九条と日本経済再生への道」
   特集「憲法こそ、復旧の基軸」




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