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書籍『ゲノム操作食品の争点』

S.K

 本書は、遺伝子組み換え食品反対運動の第一人者が、生命に対する図り知れない脅威を内包する遺伝子操作技術の現在とその危険性を非常にわかりやすく解説してくれている1冊です。
 遺伝子操作技術の研究は安全性の議論や実効性のある規制がないままに進められ、米国の諜報機関が第6の大量破壊兵器と指摘するほど危険性のある技術が開発されています。巨大企業の圧力や経済を優先する政策により、安全性の検証も規制も極めて不十分なままゲノム操作された食品が市場に流通しています。日本政府もアグリイノベーション創出の柱としてゲノム編集技術などの新技術開発、それを用いた新しい作物や動物の開発を進めており、このままでは取り返しのつかない事態を招きかねないことは明らかです。
 遺伝子組み換え技術とは、ほかの生物の遺伝子を導入する技術で、主にトウモロコシ、大豆、ナタネ、綿で除草剤耐性、病害虫耐性など生産者の利点を重視した遺伝子組み換えが行われ、日本では食用油やコーンスターチ、加工でん粉、飼料として輸入され日本人が世界で一番高い割合で食べていると言われています。
 2017年には皮を剥いても変色しないリンゴ、リコピンを増量したピンクのパイナップルが開発され、カナダでは巨大鮭(餌量が多く凶暴なため、飼育場から流出した場合の環境への影響は甚大と指摘されている)が市場に出回ったそうです。
 2012年に発表された「CRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)」というゲノム編集技術は、目的とした遺伝子を、制限酵素を用いて切断し、突然変異を起こさせて止める技術で、高校生が自宅で数時間あればできてしまうほど容易かつ安価なため、従来の遺伝子組み換えに代わり急速に普及しています。この技術で筋肉量を制御する遺伝子を壊し、成長を早め筋肉量を増やした豚や牛、マダイ、トラフグ、その他、耐病性の豚、角の無い乳牛、卵アレルギーを引き起こさない鶏などが開発されています。
 このゲノム編集技術は、狙った遺伝子以外を切断してしまうオフターゲットの危険性が指摘されているほか、その生成物が生命や環境に与える影響は甚大で、悪用されれば米国の諜報機関が第6の大量破壊兵器と指摘するほどの危険性があります。さらにこれは従来の遺伝子組み換えの規制対象にもならず、編集したかどうかの確認も難しいそうです。
 また、新たな遺伝子操作技術としてRNAi(RNA干渉法)が発表され、すでにアクリルアミドを低減したジャガイモが市場に出回り、日本での流通も承認されていますが、RNAはDNAよりも複雑で安全性に非常に大きな問題があると指摘されています。
 さらに、ゲノム編集技術の応用として、マラリアやデング熱を媒介する蚊に雌になる遺伝子を破壊するゲノム編集を行い、種を大幅に減少させたり絶滅させる遺伝子ドライブ技術の研究も進んでいますが、生命にどのような影響を及ぼすかは未知数です。世界中の科学者や環境保護団体が強い懸念を示していますが、具体的な規制はなされていません。
 人間の受精卵にゲノム編集が応用された例も既に4件報告されています。SFの話だったデザイナー・ベイビーも現実の問題になってしまいました。
 また、動物の臓器を人間に移植する異種間移植の研究も進められており、2016年には大塚製薬の研究チームがアルゼンチンで豚からの臓器移植を行い成功したと報告されているそうです。
 遺伝子操作研究への直接的な規制は学問の自由への制約も大きく、難しいかもしれませんが、憲法13条で保障されると思われるゲノム操作されていない食べ物を手に入れる権利を主張してゲノム操作食品の流通の承認の取消しを求めたり、ゲノム操作食品の表示を義務付けるなどはあり得るのではないかと思われます。また、いま進められている100万人ゲノムコホート研究や人の受精卵のゲノム編集に対しても遺伝子プライバシーを守る権利や、遺伝子スクリーニングなど優生学的手段から守られる権利、遺伝子操作されずに生まれる権利、遺伝子に基づく差別を受けない権利などからの規制が必要であると思われます。
 本書では、科学者のゲノム操作の危険性を指摘する科学者の声や、世界中の市民運動がどのようになされてきたかなども解説されており、消費者の激しい反対運動がモンサント社の除草剤耐性小麦の商業化を断念させたり、不十分ながら日本でも市民運動が遺伝子組み換えの表示を実現したこと、改正を求めて運動がなされていることなども紹介されています。
 ぜひとも本書で遺伝子操作技術の現在を知り、規制のあり方を多くの人々に考えてもらえればと思います。

【書籍情報】
2017年12月に緑風出版 から刊行。著者は天笠啓祐。定価は1800円+税。

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