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ブックレット『主権者はつくられる』

S.K

 選挙権年齢の18歳引下げを機に「主権者教育」の必要性が叫ばれ、文部科学省生涯学習政策局青年少年課は、「主権者教育推進プロジェクト」に取組み、「主権者として社会の中で自立し、他者と連携・協働しながら、社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担うことができる力を身につけさせる」「主権者教育」を進めています。
 個々人は為政者から支配されない政治的自由権をもつはずであるが、為政者等が「正しい」と考える「意見」や「事実」以外のことを為政者らの許容範囲を超えて教育することは「政治的中立性」違反とされ、現在の教育行政・教育を差配する権力者・為政者が自らの意向に沿うような有権者像にむけた「主権者教育」「有権者教育」がなされている。
 このブックレットは、「主権者教育」とはなにか、「主権者教育」は必要か、むしろ有害ではないか、そもそも「主権」や「教育」というものはどういうことかを問い直している1冊です。
 まず、山口幸夫氏(原子力資料情報室の共同代表)は、有権者ではない若者たちが行為を通して、有権者・主権者である大人たちの犯した破局へ至る過ちを正そうとした例を複数挙げ、主権者は教育される対象ではなく、境遇、環境、時代状況の中でおのずと育っていくものではないかとの問題提起をしています。
 次に、池田賢市氏(中央大学文学部教授・教育文化総合研究所所長)が、第二次世界大戦後の日本の教育改革、1947年制定の教育基本法の性質、朝鮮戦争を契機とした日米関係の変化に伴う国家主義的国民形成をめざす教育政策に抵抗していくために「主権者教育」が必要とされたことを明らかにします。そして憲法・教育法の学者である永井憲一氏の見解を示しつつ、当時の「主権者教育」の内容は日本国憲法と教育基本法(1947年制定の旧法)の理念の「自覚」や「意識」の形成が目指されていたことが確認されています。
 その上で、池田氏は自ら決定することが大切であるという趣旨での主権者教育が、一定の価値に基づく社会の実現のための「意識」を要求する、つまり、その決定の方向性を示している矛盾が指摘されています。
 金井利之氏(東京大学法学部教授)は、「主権者教育」論の弊害と教育の限界において、「国民主権」は、君主・支配政党・独裁者などの主権を否定する局面では必要だが、君主や独裁者が国民主権の名の下で実質的な先生をするときには役に立たず、むしろ、一強支配の専制を強化してしまい、特定の個々人の権利を侵害し有害であると指摘し、「平等な個々人の自由から出発する民主主義」そこが必要だと述べ、「主権者教育」は、個々人の平等な政治的自由をもとにした自由主義=民主主義にとって極めて危険であるといいます。
 また、政治的リテラシーを高め、きちんと情報を収集して、議論して、投票できる人材として育成すべきだという「有権者教育」も、教育行政・教育を差配する権力者・為政者が自分に都合の良い有権者像をつくり、次世代に押しつけ、現世代に都合の良い次世代を再生産することであり悪質であると指摘しています。
 菊地栄治氏(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)は、「政治的中立性」問題を問い直し、「政治的中立性」の名のもとに政治活動を禁止すること自体が「主権者であること」と根本的に矛盾しています。私達が問題にすべきは「偏った意見」や特定の政党や政策への支持・同化ではなく、主権者が「偏った意見」に洗脳されないようにと「政治的中立性」を正当化する「父権主義」に洗脳されない学びを展開させることであると述べています。
 淺川和也氏(前東海学園大学人文学部教授)は、教育現場の意図とはかけはなれたところから持ち込まれる「○○教育」によって現場は疲弊していると指摘しています。英語教育を例に「○○教育」の必要性に疑問を投げかけつつ、○○のための教育ではなく、○○を通して実現される学びを問いかけています。
 堅田香織里氏(法政大学社会学部社会政策学科准教授)は、「主権者教育」「シティズンシップ教育」を問い直します。福祉国家の新自由主義的再編において人々は「人的資本」とみなされ、「アクティブな市民」となることが求められるようになり、「シティズンシップ教育」「主権者教育」が導入されたが、重要なのは、「アクティブな市民」となることではなく、主権の埒外に置かれてきた「少数者」の声に耳を傾け学び、そこから新たな社会を構想することこそ重要だと指摘しています。
 桜井智恵子氏(関西学院大学大学院人間福祉研究科教授)は、若者の政治的無関心は、小学校から高校までの教育において、子どもたちが批判的に物事を考える機会が奪われているからではないかと指摘します。教育現場は学力やコミュニケーション能力で人の価値が計られる能力主義に貫かれ、自己責任を刷り込む場となっていて、能力主義は「排除」や「差別」を促し、「能力の高い人ほど優秀」というソフトな優生思想を浸透させていく。政権が新自由主義的であれば、教育がその価値観から全く自由になることはできないかもしれないが、学校現場や教育政策だけでなく、雇用や暮らしの構造を問う視点からも能力主義に基づく教育を問い直し、学校の内実を変えていく必要があると指摘しています。

【書籍情報】
2018年7月にアドバンテージサーバーから刊行。編著者は池田賢市、桜井智恵子、一般財団法人教育文化総合研究所「研究会議」。定価は800円+税。

【関連書籍・論文・HP】
憲法を観る 中学・高校での憲法教育・主権者育成に期待する
憲法を観る 主権者教育としての憲法教育に向けて(その1)
憲法を観る 主権者教育としての憲法教育に向けて(その2)
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