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書籍『米朝首脳会談後の世界』

S.K

 本書は、現行憲法下での自衛隊のあり方を探り、活かすことを目的に活動している「自衛隊を活かす会」が2017年12月末に開催したシンポジウムの報告をもとに6.12の米朝首脳会談の新しい到達を踏まえて書き改められたものです。
 まず、総理官邸で安全保障・危機管理を担当してきた柳澤協二氏は、米朝首脳会談について、米朝両国のリーダーが、目標を明確に述べてサインしたことに意味があり、"相手に約束を守らせるためには圧力が必要なはず"という安全保障で当然と考えてきた前提そのものを疑ってかかれというメッセージだといいます。
 北朝鮮を威嚇し、抑止することに自らの存在意義をかけてきた軍人や外交官、アメリカの武力で守られてきたと考えている日本や韓国の安全保障の専門家には耐えがたいことかもしれないと指摘した上で、日本へのミサイル攻撃に対するアメリカの報復が抑止力であるという発想が理論的に常に成り立つわけではないことや、弾道ミサイルは100%防げない兵器であること、発射前の敵地攻撃もあまり意味がなく、むしろ相手方の日本も攻撃対象とする動機となり、日本の安全保障環境を悪化させることなどを丁寧に説明し、「戦争」によらず「妥協」によって解決する試みを高く評価しています。
 核問題のスペシャリストである太田昌克氏は、新聞記者として六ヵ国協議を取材してきた経験から、ウィリアム・ペリー氏(1994年の米朝枠組み合意の際のアメリカの国防長官)へのインタビューや元国務省高官の裏話などをもとに、北朝鮮の核問題が深刻化した経緯やアメリカの北朝鮮政策の失敗の原因を明らかにしています。
 米朝首脳会談の陰の立役者として、文大統領の腹心で国家情報院(KCIA)長の徐薫氏と金正恩・朝鮮労働党委員長の側近である金英哲副委員長をあげ、この二人の交渉が平昌五輪への北朝鮮団の派遣、2018年4月27日の南北首脳会談の開催を実現させ、南北主導で進められた対話プロセスにトランプ大統領が同乗した結果、かつてない米朝首脳会談という外交の好機につながったと述べています。
 米朝首脳会談の意義については、北朝鮮のトップが米大統領に「完全な非核化」の意思を表明した意味は決して小さくないが、「検証可能性」が担保されておらず、核廃棄の「不可逆性」にも触れていないこと、核計画廃棄に至るロードマップづくりについて具体的な取り決めがなく詳細は今後の米朝閣僚級協議に持ち越されていること、さらに対話継続中の米韓合同演習の停止に代償を要求しなかったことなどをあげ、詰めの甘すぎた初会談であったと、やや批判的な見解を述べています。
 「日本も核武装すべきだ」という議論については、ケネディ政権で核戦略を担当していたロジャー・ヒルズマン氏の発言を紹介しつつ、日本が核を持っても安全保障上の脆弱性を高めるだけで技術論的に意味がないこと、また、倫理・哲学の面からも唯一の被爆国として日本人に課せられた人類に対する歴史的使命に反すると述べています。
 元陸上自衛隊幹部の冨澤暉氏は、今後北朝鮮の核・ミサイルが破棄されることがあり得るにしても、実際に破棄されて防衛上の懸念がなくなるまでは、必要な備えを欠かすことはできないといい、北朝鮮が核を廃棄したとしても、北朝鮮にとって核兵器のない状態は朝鮮戦争開戦直前の時代に戻るだけで、国連軍の解散と米軍の撤退などがなされれば、テロ・ゲリラ戦やサイバー攻撃について相当な力を持つ北朝鮮の脅威は高まるので、会談が成功裏に終わった時こそ「日本の危機が始まる」と述べています。
 もっとも、2013年の国家安全保障戦略で脅威とされた「核拡散」と「テロ・ゲリラ」対策として現状自衛隊にできることはほとんどないことや、核・ミサイル防衛機器については、ないよりあったほうが良いが万全は期せず、結局アメリカの核に頼るしかないことを指摘し、現在80万人いる消防団員を民兵にしてテロ・ゲリラ対策をとるのが良いとも述べています。なお、冨澤氏は、世界の国々が核兵器も武器もなくし、紛争は話し合いで解決すべきという見解については、ある種の無政府主義で未だに成立したことはなく、これからもおそらく成立しないとの見解も述べています。
 極東地域の経済にも詳しい今村弘子氏は、北朝鮮の非核化と経済発展がどのようになっていくかを、過去、現在の北朝鮮の経済から解説しています。なし崩し的に発生した市場を不活発にする政策など、日本とは全く異なる市場や、経済制裁の影響、中国の経済制裁がどのようになされてきたか、米朝首脳会談後の変化などがわかりやすく解説されており、非核化と経済制裁の関係がよくわかります。

【書籍情報】2018年7月かもがわ出版より刊行。著者は、柳澤協二、太田昌克、冨澤暉、今村弘子。定価は1000円+税。

【関連書籍・論文・HP】
  書籍『新・自衛隊論』
  


  

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