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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

有明訴訟(2)〜今こそ有明海再生を
 ―よみがえれ有明訴訟仮処分決定―

弁護士 馬奈木昭雄さん(福岡県弁護士会)

■ついに工事差止命令
 「諫早湾干拓差止め」、8月26日の新聞各紙夕刊は、一斉に一面トップの大見出しで、喜ぶ漁民の姿を報じました。私たちは、当日午前10時、佐賀地方裁判所で決定を受けると同時に、四本の垂れ幕を掲げました。「勝訴」、「工事中止命令」、「農水省断罪」、「直ちに開門せよ」の四本です。この垂れ幕が、私たちの取り組みの全てと今回の決定の意義を明らかにしています。

■私達の主張を全面的に認めた決定
 裁判において、争点は三点に絞られました。
 まず第一点は、有明海4県漁民が受けている重大な漁業被害の事実と、その被害を発生させている本件干拓事業との因果関係の存在です。
 決定は、4県漁民が受けている被害の事実を詳細に認定したうえで、事業との因果関係を認定しました。その根拠となったのは、農水省が自ら設置した「ノリ第三者検討委員会」が、事業との因果関係を認めている事実でした。決定は、その事実を認定したうえで、さらにこの委員会が提案した「中長期開門調査」による、より「科学的解明」を、農水大臣が拒否した事実を厳しく非難しました。そして、次の一文を付言しています。『そもそも漁業者らと国の間には人的にも物的にも資料収集能力に差があり、その能力差を無視し、漁業者らに高度の立証を求めるのは民事保全手続においても公平の見地から到底是認し得ない。
 また、国は検討委員会が事業による影響の検証に役立つとした長期開門調査を実施していない。そのために生じた「より高度の疎明が困難となる不利益」を漁業者らだけに負担させるのは、およそ公平とは言い難い』。
 まさに正論であり、行政が本質的に立証責任を負うべきことを宣言した、極めて重要な指摘だと評価できます。
 
 第二点は、漁業被害の重大さが、「公共事業」を差し止めるほどのものなのか、という比較考量の問題です。従来の裁判例では、「公共事業」の重要性を強調し、被害は損害賠償で足りるので差止めは認めないという行政追認の判断が主流でした。しかし、今回の決定は、次に指摘するように極めて明快に判断しました。
 
 第三の論点は、国が主張した「もうすでに工事の90%以上が完成しており、被害は完成した部分によって生じるのだから、事業を差し止めても被害を防止することにはならない」という点です。私たちは、この国の主張に心底から怒りを覚えました。私は、この主張に対し、まさしく「居直りの論理であり、世間ではこれを盗人猛々しいと言う」「農水省は恥を知れ」と厳しく反論しました。この国の主張は、「被害防止対策を一切取らない」という立場にたって、初めて言えることだからです。第二、第三の論点について、決定は次のように私達の主張を明快に認める判断をしています。

 『漁業被害の程度も深刻であって、漁業者らの損害を避けるためには既に完成した部分および工事進行中、ないし工事予定部分を含めた事業全体をさまざま点から精緻に再検討し、必要に応じた修正を施すことが肝要となる。
 再検討に当たっては二次被害の発生防止や防災効果の維持など、種々の観点も加味せざるを得ない。事業規模の巨大性という特質から、検討には一定程度時間を要することは明らかである。その間に現在予定されている工事が着々と進行したならば再検討自体より困難なものとすることは容易に推認できる。重要なのは、事業の一時的な現状維持である』。
 裁判官は、漁民・住民の有明海再生の願いを正しく受けとめたのです。「すでに完成した部分を含めた事業全体を再検討し、必要に応じた修正を施すことが肝要」という結論に、裁判官の見識の高さ、それに比較して、あまりに国民を無視しなめきった行政の無策、無暴さがよく示されていると思います。

■今後の取り組み
 私たちの取り組みは、「よみがえれ! 有明訴訟」です。あくまでも有明地域の再生です。工事差止めは、あくまでも「緊急避難」に過ぎません。その意味では、私たちは今回の決定で、まさに歴史的事業である有明再生へ向けて、貴重な、しかも重要な第一歩を力強く踏み出しました。さらに今年中には、公害等調整委員会の判断が示され、私たちの主張が認められることは間違いありません。「物事を決めるのは行政ではない、あくまでも主権者たる漁民・住民・国民である」、この憲法上当然のことが、いままで行政からも、裁判所からも無視されてきました。いま、私たちは、ようやく国民主権、住民自治の原則を実現する取り組みに、現実に着手できるようになりました。いま、九州・熊本では、川辺川の利水をめぐって、住民参加を求めるまったく同じ取り組みが続けられています(川辺川訴訟については、「憲法関連裁判情報」のバックナンバーも参照されてください)。
 私たちは、この仮処分決定を梃子として、有明地域の漁民・農民・住民の力を一つにして、全国の世論の支持の下、宝の海・有明海、「よみがえれ! 有明」の実現をめざして、川辺川の取り組みとも連携し、本件工事による被害の防止・回復を求める全国的取り組みを展開・強化していく決意です。
 そして、この取り組みは、政策の決定権を国民の手に取り戻し、住民自治を確立する、民主主義の実現を目指す取り組みにもつながると信じています。

参考サイト: http://www.h5.dion.ne.jp/~n-ariake/
       (訴状や国の答弁書など裁判資料も豊富です!)

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