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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

プロ野球選手会のストライキ
〜プロ野球選手会と日本野球機構の問題を法的観点から診る

I・M記

 メディアなどでもすでに大きく伝えられているように、日本プロ野球選手会は、2004年9月17日、9月18日と19日の両日の試合をストライキすることを決定しました。日本のプロ野球70年の歴史で、初めてのストライキとなりました。

 選手会は、この間、大阪近鉄とオリックスの合併の性急な合併には問題が多いことから、1年間の合併凍結のうえでの話し合いの続行を求めてきました。具体的には、(1)球団削減により多くの移籍・解雇が出る可能性のある選手の労働条件、(2)球団統合による球団数減少を元に戻すための新規参入の促進、(3)さらなる球団削減を防ぐための制度作り(ドラフト改革、収益分配)のための協議といった内容を選手会は主張し、そのための協議を求めてきたのです。

 これに対して、経営側の日本野球機構は、大阪近鉄とオリックスの合併や球団の新規参入は経営の専断事項だとし、「プロ野球は、ファンあってのものであり、試合を行わないことは、ファンに対する直接的かつ重大な背信行為」だと選手会側を批判しました。さらに、「選手会が労働組合であったとしても、球団統合及び球団の新規参入自体は、経営事項であり、義務的団体交渉事項ではなく、これを理由にストライキを行うというのは、違法かつ極めて不当なものである」とし、選手会に対して損害賠償請求を行う考えも示しました。

 そこで、ここでは、今回の問題についてたくさんある論点のなかから、とくに、@選手会は労働組合か、A球団合併は経営専断事項かという2つの論点について考えてみたいと思います。

 まず、@についてですが、この点、選手会が労働組合であり、選手会が日本野球機構に対して団体交渉権を有していることは、本件に関して、選手会が行った仮処分申し立てに対する東京地裁(2004年9月3日)と東京高裁(2004年9月8日)の決定においても認められていることです。

 次に、Aについてですが、東京高裁決定によれば、野球協約79条において、各球団の支配下選手は原則70名までに制限されており、57条の2による球団の支配下選手の拡大措置が採られていないことから、1球団分の選手が必然的に選手契約を解除されることになります。そうであれば、選手会が、球団合併を凍結しその間に必要な措置を協議・検討するよう要求することは、選手の労働条件に密接不可分な要求であり、ストライキの要求として正当なものと解されます。東京高裁決定も、「(球団合併に関し)組合員の労働条件に関わる部分は、義務的団体交渉事項に該当する」と判断しています。

 そもそも、ストライキは、日本国憲法28条でも保障されている労働者にとっては重要な権利であり、労働者の人たるに値する生存を確保するための手段でもあります。今回の東京高裁決定は、そうした認識を十分に明らかにしたものではありますが、他方で、日本野球機構側は、高裁決定後の9月17日付の声明においても、上述したように、選手会が労働組合であることを正面からは認めず、「選手会が労働組合であったとしても」といった言いまわしを用い、ストライキという正当な権利の行使に対しても、損害賠償を請求するといった態度を示しています。もっとも、こうした日本野球機構側の姿勢は、東京高裁決定もふまえるならば、不当労働行為に該当するおそれのあるものであり、渡邊恒雄・前巨人オーナーの「たかが選手が」といった発言にも通底する労働者の権利を不当に軽視したものだと言わざるを得ません。東京高裁決定自体が、日本野球機構が選手会を労働組合と認めた誠実な団体交渉を行わなければ、不当労働行為になり得ると指摘していることを、日本野球機構側は謙虚に受けとめるべきでしょう。

 今回のストライキについては、事前から多くのファンや国民の支持があり、ストライキ決定当日(9月17日)のフジテレビ系のスポーツ番組における電話投票でも、ストライキ支持約30万に対して、反対は約1万という数字でした。こうした世論には、古田敦也選手会長をはじめとする選手会の取り組みやその姿勢に対する共感、反対に旧態依然とした日本野球機構の姿勢に対する反発といったものも多分に含まれていると考えられますが、今後のストライキ明けの交渉過程においては、選手会側には、ファンに対して自らの立場をさらに説明し、引き続き多くの支持を得られるような姿勢がますます重要になってきます。

そして、ファンや国民の側でも、今回の問題を単にプロ野球界の問題としてとらえるだけではなく、現在、広範な分野で進んでいる企業再編・合併による労働条件の切り下げ・改悪といった状況とも関連した、したがって多くの労働者にもかかわる性格の事柄として、この問題を考えていく必要があるように思われます。


参考サイト
 日本プロ野球選手会
 日本野球機構
 「今週の一言」バックナンバー 松原徹さん(日本プロ野球選手会事務局長
 団体交渉等仮処分申立却下決定に対する抗告事件に関する「決定」(PDF)

 

 
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