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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

ファンケル事件

弁護士・神原元さん

1 画期的な労災決定
 「『社内隔離』でうつ病、労災」。2003年11月2日付け毎日新聞記事の見出しです。株式会社ファンケルは、関連会社への転籍を拒否した従業員2人を他の社員から隔離し、仕事を与えない等のいじめを行いました。
 従業員が与えられた仕事は読書だけ。他の社員から離れ、パーテーションに区切られた異様な席に着かされ、何の生産性もない、何の評価もされない読書をくり返す日々が始まります。何事だろうという他の社員の好奇の視線。恥ずかしさと不安、屈辱感。精神的苦痛がやがて体調に変化をもたらしました。
 頭痛。嘔吐。倦怠感。朝目が覚めても起きあがれない、水が飲みたいのに目の前のコップを取る気力すらない、といった症状が彼らを見舞います。運転中、体が震えだしたこともあります。車を路肩に止めたとたん、気を失いました。やがて、精神科に駆け込むことになります。診断は「うつ病」でした。
 2003年8月29日、横浜西労働基準監督署は、二人の症状に業務起因性を認め、労働災害として認定しました。うつ病の労災認定は99年以来増加していますが、仕事を与えられないことを理由とする認定は極めて異例のことと言えます。

2 会社内における従業員の人権
 そもそも、いじめ事件の発端は、会社が従業員らに子会社への転籍を命じたことにありました。ここで「転籍」とは、今の会社を辞めて他の会社に籍を移すことを言います。ここで、思い出して欲しいのは、従業員と会社の関係は雇用という契約であり、契約は両方の当事者の意思の合致によってのみ成立するということです。「転籍」は元の会社に籍が残る「出向」とは異なり、契約当事者が変更されるのですから、新しい当事者同士の意思の合致が必要です。だから、「転籍」を命じるためには、従業員本人の同意が必要であることは当然でしょう。
 従業員らは「会社は従業員の意思を確認して欲しい」という当然のことを主張したに過ぎませんでした。これに対して、会社は「従業員の意思に拘わらず転籍とする。」として譲りませんでした。会社副会長は、朝礼で次のように発言しました。「(従業員は)与えられたものを、与えられた条件、その中で生きていくしかないんだ」。
 この副会長の言葉は、日本における会社と従業員の関係をうまく表現していると言えるでしょう。日本の会社では、雇用が契約の一種であるということが意識されず、従業員の身分は会社が一方的に変更できると考えられている場合が多いのです。
 従業員らは、結果的に転籍を拒否しましたが、職場から離され、隔離部屋に入れられてしまいました。冒頭に書いたとおり、与えられた仕事は読書のみ。今までバリバリと残業をこなしていた若い彼らは、精神に異常を来し、鬱病になってしまいました。
 2002年1月、彼らは職場復帰と慰謝料の支払いを求め、会社を相手取って裁判を提起しました。裁判は未だ継続中であり、冒頭の労災決定は裁判進行中に出されたものだったのです。

3 事件が日本社会に投げかけるもの
 事件は、日本の会社のあり方について問題を投げかけています。
1つは、従業員の健康問題、特にメンタルヘルスに対する企業側の無知です。自殺過労死が労災として認定されるようになったこと等の前進は見られますが、ストレス社会においてどのような労働環境がいかなる影響を労働者の精神に与えるか、企業の自覚がさらに求められるでしょう。
 2つめは、企業再編などに伴う従業員の地位保障の問題です。近時、企業再編などに伴って従業員が出向や転籍を強要されるケースが増えて来ました。雇用は契約であるという原点に立ち返って、再検討が求められていると思います。

 
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