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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

布川事件再審開始決定

弁護士(布川事件弁護団) 福富美穂子

1 はじめに

  昨年(2005年)9月21日、水戸地方裁判所土浦支部は、請求人桜井昌司・同杉山卓男両氏が、確定1審第1回公判以来38年間無実を訴え続けていた「布川事件」について、再審開始の決定をしました。請求人のお二人とそのご家族の不屈の闘いに改めて敬意を表し、これまでご支援下さったすべての皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます。

2 布川事件のあらまし

  1967年(昭和42年)8月30日朝、茨城県利根町布川の一人暮らしの大工(当時62歳)が自宅で何者かに殺害され、室内が荒らされているのが発見されました。捜査は難航し、茨城県警は捜査員約100名を動員して当時の不良青年を次々に逮捕あるいは事情聴取し、アリバイの有無を追求しましたが有力な容疑者はいませんでした。捜査が手詰まりとなった状況の中で、警察は10月10日に桜井昌司さん(当時20歳)を窃盗罪で、10月16日に杉山卓男さん(当時21歳)を暴力行為等処罰に関する法律違反でそれぞれ別件逮捕しました。捜査陣は当初から両名を犯人と決めつけ、死刑をちらつかせて恫喝し、自白を強要。お二人は否認と自白を繰り返しましたが、最終的には自白をさせられ、12月28日に強盗殺人で起訴されました。
 起訴後、第1回公判以来、お二人は法廷で無実を訴え続けましたが、第1審判決は「無期懲役」。昭和53年8月に上告棄却でこの判決が確定しました。

3 再審開始決定

(1)確定判決の要旨
 確定判決は、請求人(桜井さん・杉山さん)らは、1967年8月28日午後9時頃茨城県利根町大字布川で、一人暮らしの男性(62歳)の両足を布で縛り、口の中に布を押し込み、頸を両手でしめて扼殺し、10万7000円を強取した、との事実を認定しました。

(2)確定判決の証拠構造
 請求人らと犯行を結びつける直接証拠は、請求人らの自白調書のみで、相互に自白を補強し合っている関係にありました。また、犯行に近接した時間帯・場所で請求人らを目撃したとする6人の目撃供述は、自白の信用性を担保する補強証拠であるとともに、自白を離れて有罪を認定しうる情況証拠でもあり、また、アリバイを排斥する証拠でもあるとされていました。

(3)再審開始決定要旨
水戸地裁土浦支部は下記の判断をして再審開始決定を出しました。
(1)目撃供述は、目撃日時・場所と犯行日時・場所との隔たりの関係から、自白を直接補強するものではなく、かつ自白をはなれた情況証拠としての証拠価値も限定的である。したがって請求人らの自白の信用性が動揺すれば確定審の有罪認定も動揺する関係にある。
(2)新旧両証拠を総合評価した結果、罪体の中心部分で自白の枢要部分たる「殺害方法と順序に関する自白」が、死体の客観的状況と矛盾し、信用性が動揺するに至ったので、自白全体の信用性を検討する必要が生じた。
(3)目撃供述は、月日・対象者の識別の双方に疑問があり、情況証拠・補強証拠としての価値を失い、減殺された。
(4)自白は 
@ 虚偽の自白を誘発しやすい状況下でなされた疑いがある
A 変遷・誘導に対する迎合供述である
B 客観的事実に符合しない不自然・不合理な内容、あるべき説明の欠落、請求人  ら相互あるいは関係者供述との不一致が見られる
C 客観的事実の裏付けがなく、秘密の暴露もないものである
D 録音テープも自白を補強するものではない
E その他自白の信用性を著しく増強させる証拠もない 
→ 結局自白はそれだけで請求人らを犯人と認めるだけの証明力はない
(5)新旧両証拠を総合的に評価すれば、有罪認定に合理的な疑いが生じ、無罪を言い渡すべき新規明白な証拠を発見したときに該当する。

4 まとめ 

布川事件は典型的な別件逮捕の事案であり、代用監獄の問題や自白偏重主義の弊害など多くの問題をはらんでいます。さらには、今回、38年ぶりに検察官から提出された多くの未開示証拠は再審開始決定に大きな影響を与えたと思われ、証拠開示の重要性が明らかになりました。次回以降、個別の争点について述べながら、これらの問題点についてレポートさせていただきたいと思います。

 

 
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