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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

東(あずま)原爆裁判:核兵器の恐ろしさを隠蔽する政府
〜原爆症の認定そして核兵器廃絶をめざして

弁護士 土井香苗(東京弁護士会)

・東(あずま)原爆裁判とは

自分が罹患したC型肝炎を原爆によるものと認めてほしいと東(あずま)数男さんが訴えていた「東原爆裁判」。
そして、とうとう今年4月11日、被告(控訴人)厚生労働大臣は、東さんのC型肝炎を原爆症と認めた東京高裁判決(2005年3月29日)を受け入れ、最高裁への上告を断念することを表明しました。原爆症認定申請から11年を経て、東さんの長い闘いは完全勝利で終わりました。
しかし、悲願の達成を見ることなく、今年1月29日、東さんは亡くなられました。

・現在まで続く放射能による被害

世界で初めて原子爆弾が投下されたのが1945年。その年だけで実に、広島で14万人、長崎で7万4000人という想像を絶する人命を奪いました。
訴訟準備の過程で被爆者の話を聞けば、そのとき、広島と長崎が筆舌に尽くせない、おぞましい「生き地獄」となったことがよくわかります。
それから60年。生き地獄は終わったのでしょうか?原爆は、炸裂の瞬間に人体を蝕み、殺しただけでしょうか?
答えは否。
放射能は今なお被爆者の体、そしてその子孫の体をむしばみ続けているのです。
放射性物質である黒い雨や黒いすす。
これを取り込んでしまった被爆者の体の中では、未だにこうした放射性の物質が、被爆者の体の中で放射線を出し続けていること(内部被爆)などが理由です。そして、日々、癌や肝機能障害等の「原爆症」(放射線に起因する疾病)を発症しているのです。

現在生存している約27万人の被爆者に、癌などが多発しているにも拘わらず、厚生労働大臣は、約2000人しか原爆症と認定していません。被爆者のわずか0.7〜0.8%。この極端に低い認定率は、日本政府が、放射線の人体影響を、出来る限り限定してみせたいと考えている結果なのです。

・被爆者の悲願は核廃絶

この世の地獄を見た被爆者たちは、原爆症に苦しみながらも、命がけの運動を繰り広げました。二度と自分たちが味わった悲しみ・苦しみを誰にも味わってほしくない、と「ノーモア ヒバクシャ」のスローガンを掲げて、核兵器廃絶を求めてきたのです。
しかし、この60年間、日本を含め、世界は、被爆者の願いを裏切り続けてきました。核保有国は増え続け、米国は実戦で仕える小型の新型核兵器の開発を進めています。
世界はより危険になりましたが、まがりなりにも、この間、原水爆が使用されなかったのは、被爆者の命がけの訴えのおかげだと言えるのではないでしょうか。

・日本と米国の思惑

日本は、原爆を投下した米国に謝罪を求めるどころか、侵略戦争で多大な犠牲を強いられた諸国民に対して謝罪することもなく、早々に世界制覇を目指す米国との間で日米安保条約を締結し、核の傘で安全を確保する道を選んでしまいました。

米国は、無差別・残虐兵器である核兵器を悲惨な実態を隠すことを目指していました。
このような残虐兵器の実態が知られることは、使える核の開発を目指す米国の大きな障害となるし、自由と正義を標榜する米国の矛盾を世に明らかにすることになってしまうからです。
米国は、日本の占領を始めるとすぐに、原爆被害報道を「原爆プレスコード」によって事前検閲するようになり、日本の国民さえ原爆の実態をほとんど知らされていませんでした。アメリカ原子力委員会によって設立された原爆傷害調査委員会(ABCC)は、多数の被爆者について、女性の陰毛まで調べたと言われるほど徹底した被爆実態の調査をしましたが、治療は一切行わず、人体実験と批難されています。

日本政府もまた、占領が終了して以降、放射線の影響を矮小化し、真実から乖離した極端に厳しい原爆症認定基準を設けるなどして、アメリカの核政策に追従してきました。
日本政府は、原爆の非人道性、残虐性を覆い隠すために、原爆の影響を、近距離被爆者(概ね爆心から2km以内)の初期放射線に限定し、放射線降下物や残留放射線の影響、そして微量放射線による内部被爆などをことごとく無視したままでいるのです。
それゆえに、厚生労働大臣は、これまで7度も裁判に敗れています。司法は、原爆症認定基準が不合理であると指摘しています。しかし、厚生労働省には、被爆者行政を根本的に変える姿勢は全くありません。

司法による7度目の原爆症認定基準の否定が、この東原爆裁判の高裁判決でした。唯一の被爆国として、全く遺憾であるというほかありません。
被爆者たちは、戦後、原爆の影響としか思えない急性症状や様々な体調不良、肝機能障害、癌などに冒されながら、死の恐怖そして差別と闘ってきました。それなのに、政府から「あなたの体には原爆の影響はない」と言われ、戦後の苦労全てを否定されたかのような怒りを感じています。

・まとめ

 イラクでの湾岸戦争そしてイラク戦争、アフガニスタンのアフガニスタン戦争など、米国が主導してきた戦争で、劣化ウラン弾が使われました。劣化ウラン弾は、核兵器とはよばれませんが、放射性物質をまき散らし、人々の体の中で、体表について、人の体をじわじわと浸食し続ける残虐兵器です。
 湾岸戦争から10年以上がたち、やっと、放射線影響といわれる白血病やガン、先天性の奇形児などが多発している実態が報告されてきました。しかし放射線影響は、これから数十年、数百年続きます。
 しかし、日本と同様、内部被爆や微量放射線の影響を認めない米国は、その因果関係を否定しています。実は、日本の裁判所の判決は、イラクで子どもたちが白血病やガンでばたばたと死んでいる原因が、米国の劣化ウラン弾にあることを示す、極めて現代的に意味も持っています。
 劣化ウラン弾、使える核兵器などの恐怖がうずまく世界で、極めて現代的意味を持つ判決。このすばらしい判決を世界に広げなくてはなりません。

*原爆症訴訟についてより深く知りたい方は、高見澤昭治「原爆症認定集団訴訟と憲法九条」『法と民主主義』2005/2・3 No396をお読み下さい。


 
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