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原爆症訴訟(2)――大阪地裁判決

T・O記

2006年5月12日、原爆症不認定処分取消・国賠請求訴訟の判決が大阪地裁でありました。裁判所は、原告9名全員について、不認定処分を取り消す原告勝訴の判決(国賠請求は棄却)を言い渡しました。以下、判決の概要を紹介したいと思います。

原告らは、いずれも広島もしくは長崎で被爆し、現在、癌や高血圧症など、さまざまな疾病を発症しています。そこで、こうした疾病が原爆によるものだとして、原爆症の認定を申請しました。原爆症と認定されると、被爆を原因とする疾病に対してさまざまな手当てが受けられるため、今なお被害に苦しんでいる被爆者の方にとって、原爆症の認定は非常に重要なものです。しかし被告厚生労働大臣は、原爆症認定の申請に対し、いずれも却下しました。そこで、この却下処分の取消と、却下処分による精神的損害に対して国家賠償を請求しました。

主な争点は、(1)疾病が被爆によるものかどうかの判断基準、(2)原告らが原爆症の認定基準に該当するかどうか、です。争点ごとに見ていきたいと思います。

(1)疾病が被爆によるものかどうかの判断基準について
原告らの症状は、甲状腺機能低下症、がん、腫瘍、高血圧などそれぞれ異なります。原告らは、こうした症状が被爆によるものだとして、原爆症認定の申請を行いましたが、厚生労働省は、いずれの症状についても、被爆によるものとは認められないとして、申請を却下していました。

国のこうした厳しい審査は、爆心地からの距離や、性別・年齢、疫学調査などを考慮して、がんなどの発生のリスクを示す「原因確率」という基準に基づいています。この基準の下では、遠距離での放射線量が過小評価されたり、残留放射線が無視されるなどしたため、原告らのように、爆心地からやや離れた場所で被爆した者(遠距離被爆者)や、原爆が投下された後に被爆地に入った者(入市被爆者)は、原爆症と認定されにくい状況にありました。こうした基準の厳しさは、被爆者手帳を交付されている者が26万6000人あまりいるのに対し、原爆症と認定された者が2251人に過ぎないことからも分かります。

裁判所は、遠距離での放射線量や残留放射線が過小評価されている可能性があると指摘し、他方で、審査基準の機械的な適用を批判しました。そして、遠距離被爆者や入市被爆者については、被爆前の生活状況、健康状態、被爆状況、被爆後の行動経過、活動内容、生活環境、被爆直後に発生した症状の有無、内容、態様、程度、被爆後の生活状況、健康状態などを慎重に検討・考慮して、被爆の事実が、申請の根拠となった疾病をもたらしたと是認しうる高度の蓋然性が認められるかどうかを、経験則に照らして判断すべきだとしました。

(2)原告らが原爆症の認定基準に該当するかどうかについて
裁判所は(1)で示した基準に基づき、9人の原告らそれぞれの被爆状況やその症状について詳細に検討しました。そして、いずれの原告についても、その症状が放射線に起因すると認め、厚生労働大臣による申請却下処分を違法として取り消しました。

本判決は、これまでほとんど申請が認められてこなかった遠距離被爆者や入市被爆者についても、原爆症と認定した点で、画期的な判決です。「被爆者の切捨てのために設けられた」と批判されることの多い認定基準に対しても、その機械的適用を批判し、被爆者の実態をきちんと見すえた認定のあり方を示したという点でも、高く評価されます。

この判決については、各新聞社説でも取り上げられ、評価されています。たとえば5月13日付西日本新聞社説や5月14日付高知新聞社説では「国に原爆症認定基準の見直しを迫る画期的な判決」とされていますし、5月14日付南日本新聞社説や5月14日付京都新聞社説では、“国は控訴せず、救済拡大を”と訴えています。

しかし、政府は、こうした世論や原告・支援者たちの“控訴するな”という声に耳を傾けることなく、5月22日、判決を不服として控訴しました。この控訴に対して、例えば5月26日付神戸新聞が「国は救済に背を向けるな」と批判する社説を掲載しています。原告らの年齢や症状を考えるならば、政府は訴訟を継続するのではなく、早急に被爆者の救済に立ち上がるべきではないでしょうか。

なお、原爆認定集団訴訟は、札幌、仙台、千葉、埼玉、東京、神奈川、静岡、名古屋、大阪、広島、熊本、長崎、鹿児島の13地裁で行われており、本判決は、その最初のものです。8月上旬に広島で判決が出されると見込まれていますし、7月20日には午後1時半より、東京地裁103号法廷で結審の予定で、今年中に判決が出ると思われます。当研究所では、今後もこの訴訟についてのレポートを掲載していく予定です。

参考ホームページ

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