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原爆症訴訟(5)

T・O記

2007年3月22日、東京地裁において、原爆症認定訴訟に対する判決の言い渡しがありました。裁判所前には大勢の支援者やメディアが詰め掛けており、この事件に対する世論の注目の高さを示していました。傍聴席も全て埋まっていました。

午前10時、裁判長らが入廷しました。そして2分間のTV撮影が行われ、いよいよ判決の言い渡しです。裁判長が口を開き、原告の名前を読み上げていきます。原告は30人いましたが、そのうち、21人の名前を読み上げ、その原告らについて、原爆症の不認定処分を取消すと述べました。判決理由などについては述べられず、裁判長らはすぐに退廷していきました。21人については勝訴だったのですが、判決の後も法廷は静かなままでした。というのも、9人が敗訴したからです。原告の一部敗訴は、名古屋地裁に続き、2度目でした。東京地裁での判決の2日前、つまり3月20日ですが、仙台地裁で同じく原爆症認定訴訟で、2名の原告がいずれも勝訴していたこともあって、東京でも全面勝訴が期待されていました。

訴訟の主な争点は、(1)疾病が被爆によるものかどうかの判断基準、(2)原告らが原爆症の認定基準に該当するかどうか、です。

(1)疾病が被爆によるものかどうかの判断基準

被告国は、DS86という計算式を用いて被爆者の被爆線量を算出し、それに基づいて、疾病が原爆に起因する可能性を「原因確率」という数値で示し、その数値が一定以上かどうかで判断していました。これは、爆心地から一定以上離れた場所で被爆した場合は原爆症と認定されなくなるなど、非常に厳しい基準であり、多くの被爆者が原爆症の認定を受けられない状況を作り出す原因となっていました。

この点について、東京地裁は、DS86そのものは、合理的なものだと認めました。しかし、DS86は一定の仮説に基づいたものであって、それが合理的なものだということから、直ちに、そこから導き出された結論が正当だとはいえないとしました。そして、DS86によれば、遠距離被爆者の被爆線量が過小評価される可能性があるとしました。また、残留放射能や内部被爆(「黒い雨」や食べ物などを通じて体内に取り込まれた放射性物質によって被爆すること)による被爆についても、過小評価しているとしました。

したがって、被爆線量を算出するにあたり、DS86は、一定の参考資料にはなるが、その評価結果には限界があり、急性症状(被爆後に出た下痢や脱毛、発熱などの症状)があれば、相当程度の被爆線量があると推定すべきだとしました。

原因確率についても、DS86と同様、一般的合理性は認めました。しかし、この原因確率についても限界があることも指摘しました。そして、放射性起因性の有無は、病理学、臨床医学、放射線学や、疾病等に関する科学的知見を総合的に考慮した上で、判断するほかはないとしつつ、これらの科学的知見にも一定の限界があり、科学的根拠の存在を余りに厳密に求めることは、被爆者の救済を目的とする法の趣旨に沿わないと指摘しました。

(2)原告らが原爆症の認定基準に該当するかどうか

その上で、東京地裁は、「当該被爆者の被爆状況、被爆後の行動、急性症状の有無・態様・程度等を慎重に検討した上で、DS86による推定値を上回る被曝を受けた可能性がないのかどうかを判断し、さらに、当該被爆者のその後の生活状況、病歴(健康診断や検診の結果等を含む)、放射性起因性の有無が問題とされている疾病の具体的な状況やその発生に至る経緯などから、放射線の関与がなければ通常は考えられないような症状の推移がないのかどうかを判断し、これらを総合的に考慮した上で、合理的な通常人の立場において、当該疾病は、放射線に起因するものであると判断し得る程度の心証に達した場合には、放射線起因性を肯定すべき」という基準を示しました。

そして、上記基準に基づいて、各原告らが原爆症であるかどうかを判断しました。詳細は割愛しますが、急性症状の有無や、被爆の地点・入市の時期の正確性などが原告勝訴/敗訴の分かれ目となりました。


旗だし

判決言い渡しの後、裁判所の前で「勝訴」の旗が掲げられ、法廷に入れなかった支援者らに勝訴が伝えられました。その場で、原告の一人、片山文枝さんにお会いしました(片山さんは、以前、を法廷で意見陳述されています。そのときの様子については、こちらをご覧ください)。片山さんは、原爆症不認定処分を取り消されていたので、私が「おめでとうございます」と声をかけると、笑顔で「ありがとうございます。皆さんのおかげです。でも、闘いはまだこれからです」と答えてくれました。


集会のようす

その後、厚生労働省前で、原告らの救済を求める行動が行われました。さらにその後、判決報告集会が四谷のプラザエフで開かれ、弁護士による判決についての解説や、原告らの挨拶がなされました。集会には、寺田稔衆議院議員(自民党)、こくた恵二衆議院議員(共産党)など何名かの国会議員も駆けつけ、一部敗訴した判決を批判したり、党としての取り組みを紹介したり、国の被爆者行政を批判するなどし、今後の改善を約束しました。

3月30日、原告や支援者らの控訴断念運動にもかかわらず、政府は判決を不服として東京高裁に控訴しました。原告らの平均年齢が76歳を超え、原告30人のうちすでに11名が死亡するなど、残された時間はわずかしかないのにもかかわらず、控訴するということは、問題の解決を遅らせ、被爆者の苦しみを増大させるものでしかありません。政府には、控訴を取り下げ、直ちに原爆症患者への救済に乗り出してほしいと思います。

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