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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

ハンセン病国賠訴訟(1)――ハンセン病元患者のその後

K.R.記

 2001年5月11日は、ハンセン病違憲国家賠償請求訴訟の第一審判決が下された日である。連日のマスコミ報道によって我々も知るところとなった、ハンセン病元患者へのあまりにも酷い人権蹂躙に対し熊本地裁は、困難だと思われていた法解釈を乗り越えて画期的判決を下し、内外から「歴史的判決」との高い評価を受けた。あれから早、2年半。彼らを取り巻く環境は変わったのだろうか?

 ご存知の方も多いと思うが、つい最近、ハンセン病元患者がマスコミによって再びクローズアップされる事件が起こった。阿蘇郡南小国町の「アイレディース宮殿黒川温泉ホテル」が国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(菊池郡合志町)の宿泊を拒否した問題である。
 同ホテルは、2003年9月19日、県が社会復帰支援策として実施している「ふるさと訪問事業」に応募した元患者18人と付き添いの4人らの宿泊予約を受け付けた。しかしその後、人数などのやり取りを通じて同園入所者であることが分かると、ホテル側は県に対し「他の宿泊客に迷惑がかかることが一番心配」として、電話で宿泊の遠慮を求めた。これに対し県は、感染の恐れがないことやハンセン病に対する偏見の解消を説明、また同ホテルを経営するアイスターの東京本社を訪問し、さらには潮谷知事の名で抗議文を渡すとともに再考を求めたが、同社は電話で県に対し、「会社の判断としてお断りする。何と思われても構わない」という内容の回答をした。

 その後、ホテル側が拒否姿勢を変えなかったため、県がホテル名を公表し、県から通報を受けた熊本地方法務局が調査開始に踏み切った。その結果、熊本地方法務局と県は、宿泊を断られた元患者らの心の傷など実質的な被害が出ていること、再三にわたる件の説得にもホテル側が対応しなかったことから、「悪質な人権侵犯事案で厳正に対処する必要がある」と判断し、2003年11月21日、不当に元患者らの宿泊を拒否した旅館業法違反の疑いで同ホテルの前田篤子総支配人とホテルを経営するアイスター(東京都港区 西山栄一前社長)に対する告発状を熊本地検に提出した。旅館業法は、第5条で宿泊者が「伝染病の疾病にかかっていると明らかに認められるとき」など以外は「宿泊を拒んではならない」と定めている。旅館業法違反での告発は初めてである。ホテル側は最初に謝罪の意を表した際にも、宿泊予約時に元ハンセン病患者であることを知らせなかった県側に責任があり、当初の判断として「宿泊拒否は当然」であるとしていたため、ハンセン病元患者らは謝罪の受け入れを拒否していたが、その後ホテル側が姿勢を改め、問題が起こってから約1ヵ月後に和解することとなった。

 この一連の問題は、前記熊本地裁判決後も社会にはなお根強い、ハンセン病元患者に対する無理解に基づく差別、偏見が残存していることを明らかにした。行政側は、この問題を契機に啓発キャンペーンを本格化させたと報道されているが、それは、判決以降も社会に対する差別解消の働きかけが甚だ不十分であったことの裏返しでしかない。実際、国、県ともに事件発覚前まで、ハンセン病が旅館業法の宿泊拒否対象でないことを一度も通知していなかった。通知の遅れが直接、今回の事件に作用したわけではないが、告発の陰で、自らの隔離政策の過ちの説明も含め、行政の認識不足が露呈したのも確かであるといえよう。

 また、この一連の事件では二次被害も相次いだ。元患者らに対して一方的に罵声を浴びせる電話や、同ホテルの対応を擁護する声もあったようだ。しかし同時に、百件近い励ましの電話や「申し訳ない」「理解している人間もいることを知ってほしい」と泣きながら話す人もいたという。近くの小学校からは、今回の事件に胸を痛めた児童たちの作文も届いた。

 藤野豊・富山国際大助教授は「今回の事件は五十年前、入所者の子どもの入学を拒否した黒髪校事件と同じ構図だ。国の隔離政策のつめ跡は深い」と指摘する。国が政策として社会に差別・偏見を植え付けていったものを本気で取り去ろうとするならば、やはり、しっかりとした政策として差別・偏見の払拭を位置付けて行わない限り、何度でも同じ事件が繰り返されるだろう。よりよい社会のために歴史から学ぶためには、まずは事実をきちんと伝え、政策の過ちを過ちとして認識することから始めねばならず、啓蒙活動とて、ただ単にハンセン病という疾病に対する説明のみを繰り返しても、根本的な解決には至らないであろうというのが、私の率直な感想である。

(法学館LawJournal2004年2月5日配信号より転載)

 

 
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