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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

ハンセン病国賠訴訟(11) ソロクト訴訟・楽生院訴訟判決

T・O記

 2005年10月25日。ハンセン病補償法の適用を求めて争われているソロクト訴訟・台湾訴訟の判決が言い渡される日です。判決は、韓国ソロクト訴訟が10時から、台湾楽生院訴訟が10時半からの予定でしたが、朝9時過ぎには、原告、弁護団、支援者、メディアで、弁護士会館の前はあふれかえっていました。

 そして午前10時。いよいよソロクト訴訟に対する判決です。残念ながら、私は、判決を法廷で聞くことはできませんでしたが、法廷のドアの外で判決の結果を待っていました。10時を少し過ぎたとき、弁護士と記者の人が飛び出してきました。小さな声で「棄却!」と言うのが聞こえました。一瞬耳を疑いました。周りにいた支援者の間にも動揺が広がりました。

 判決内容を確認しようと思い、急いで法廷に入ると、すでに裁判官の姿はなく、目に飛び込んできたのは、呆然とする弁護士や支援者の姿と、すすり泣く原告たちの姿でした。判決を傍聴した方に話を伺ったところ、判決主文を述べ、そのあと少し何か述べたそうですが、声が小さくて聞き取れなかった、とのことでした。

 楽生院の判決は10時半からの予定で、私が法廷に入ったのが10時5分頃でした。裁判所が楽生院訴訟に対する判決を、ソロクト訴訟の判決日と同じにしてきたことから、同じ内容の判決が下されるだろうという予想が広がっていたことや、ソロクト訴訟のほうが、裁判所の態度・訴訟指揮などから、判決に期待が持てると言われていたことなどから、法廷には重苦しい空気が流れていました。弁護団や支援者のご好意で、楽生院の判決を傍聴させていただけることになりましたが、25分の待ち時間が非常に長く感じられました。

 そして10時半になり、裁判官がやってきました。法廷の様子の撮影が2分間行われ、いよいよ判決です。裁判長が、「判決は非常に長いので、ここでは判決の主文と骨子のみを述べます」と言いました。そして、次に口を開いた瞬間に出てきた言葉が、「被告が」という言葉でした。その瞬間、原告側の席の空気が一変しました。傍聴席からも「よし、勝った!」と言う声がもれました。裁判長は、「被告が原告らに対して行った、ハンセン病補償法に基づく補償金の不支給決定を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」と述べた後、判決理由の骨子を述べました。

 まず、ハンセン病補償法の趣旨について、ハンセン病の患者が長年の間、偏見や差別、隔離政策の下で多大な苦難を強いられてきたことを真摯に受け止め、かつてハンセン病の療養施設に入所した者の心身の傷跡の回復と、今後の生活の平穏に資するために、単なる損害賠償ないし損失補償にとどまらず、政策的配慮に基づいて行われる特別な補償であると解するのを相当とする、としました。

 そして、この立法趣旨と、補償法2条・3条の文言に照らすと、補償金の支給を受けるためには、(1)「国立ハンセン病療養所等」への入所歴があること、(2)その入所歴が平成8年3月31日までに入所したものであること、(3)ハンセン病補償法の施行日である平成13年6月22日における生存という、3つの要件を満たす必要があり、その入所時期がいくら古いものであっても、支給に妨げはなく、その限りで、時効・除斥類似の問題は生じず、国籍や居住地による制限もない、としました。

 そしてハンセン病補償法の実施に関する厚生労働省の告示1号前段は、明治40年法3条1項に基づいて、行政官庁が命令の定めに従ってハンセン病患者を入所させることとなる「國立癩療養所」を、「国立ハンセン病療養所等」のひとつとして定めているとし、「國立癩療養所」については、昭和2年の勅令第308号である國立癩療養所官制に基づいて設置された「癩療養所」があるが、「國立癩療養所」がこれにのみ限られるとする理由はないとして、告示1号にいう「国立ハンセン病療養所等」を広く解する立場を示しました。

 そして楽生院については、國立癩療養所官制と規定の仕方を同じくする台湾総督府癩療養所官制に基づき、台湾総督により設置・管理されていた療養所であること、昭和9年10月1日以降、台湾でも明治40年法が施行されたこと、これに伴って癩予防法施行規則も同日施行されたこと、同規則では「國立癩療養所」について定めているが、当時の台湾に、これに該当する施設は楽生院しかなかったこと、楽生院ではハンセン病患者の救護・療養を行っており、行政官庁が癩予防法施行規則にしたがってハンセン病患者を楽生院に入所させていたことを認定しました。さらに、ハンセン病補償法が、日本の施政権外であった時期の沖縄の施設や、私設療養所への入所者も補償対象とする立法趣旨が認められるとして、入所歴の必要な対象施設を制限しようとする趣旨を読み取ることは困難であるとしました。告示1号についても、同様に制限的に解釈することは困難であるとしました。

 そして、以上のことから、少なくとも昭和9年以降の楽生院は、告示1号前段所定の「明治40年法3条1項の「国立癩療養所」に該当する、と判示しました。

 さらに、立法過程において台湾の施設への入所者が補償の対象者となるか否かについては検討されず、立法者の意識としてはあいまいだったとしました。しかし、補償対象を日本国内の療養所に限定する規定や、あるいは台湾の療養所を除外する規定を置くことは立法技術上特段の困難がないが、そうした規定がないことを認定し、さらに、当時は日本の施政権が及んでおり、他の要件は満たしているにもかかわらず、台湾に所在する私設であるというだけの理由で、補償対象から除外することは、平等取扱いの原則上、好ましくないとして、立法者のあいまいな認識などを理由に、ハンセン病補償法第2条にいう「国立ハンセン病療養所等」には、楽生院が含まれないと限定的に解釈することは、合理性がない、と判断しました。

 以上から、原告らは、ハンセン病補償法2条および3条にいう「ハンセン病療養所入所者等」に該当するとして、本件不支給決定を違法として、取り消しました。

 裁判長が判決を読み上げている最中、原告らは肩を抱き合って、喜びのあまり、泣き崩れていました。また、裁判長らが法廷を後にするとき、その背中には、法廷から暖かな拍手が送られました。

 その後、裁判所の前でインタビューを受けた楽生院訴訟原告の黄金涼さんは、「うれしさで心がいっぱいです」と、日本語でその喜びを語りました。

 弁護士会館で開かれた記者会見では、弁護団事務局長の国宗直子弁護士が、「民事38部(楽生院訴訟)は正しい法解釈を行ったが、民事3部(ソロクト訴訟)は細かな法解釈に拘泥して差別を認めた不当判決だ」と、ソロクト訴訟を厳しく批判しました。また、ソロクト訴訟判決に対して控訴はするものの、原告らの年齢を考えると早期の解決が必要なため、判決を待つつもりはなく、法の趣旨に基づいた解決を要請する、と述べました。またソロクト訴訟原告の蒋基鎮さんは、「悲しくて言葉にならない。弁護団が1年間かけてやってくれたこと、勝つために何度も来日したことが、すべて水の泡になってしまった。同じ事件なのに、一方は笑って、一方は泣くという、不公平な結果は理解できない。原告たちはみんな高齢だ。遺憾だが、最後までたたかう」と力強く述べました。また、黄金涼さんは「うれしくて心がいっぱいです。政府が侵害した人権を返してくれた。しかし、韓国は敗訴しました。本当に残念です。これからも、ともにたたかっていきます」と述べました。

 同日の夜、星陵会館において、判決報告集会が開かれました。

 判決に対する評価として、徳田靖之弁護士は、ソロクト訴訟と楽生院訴訟は、結論が逆になったとはいえ、共通点もあるとしました。つまり、植民地における療養所について、国会では十分に審議されなかったこと、植民地の療養所を除外することは差別に当たると認定したこと、の2点です。しかし、その後の判断が分かれたため、結論も逆になったというわけです。すなわち、この差別について、楽生院訴訟を担当した民事38部は、平等取扱い原則に照らして許されないとしたのに対し、ソロクト訴訟を担当した民事3部は、不合理な差別とはいえないと判断したのです。

 徳田弁護士は、ソロクトでの被害実態を裁判官に認識させられなかったことが反省点であると述べました。また、ソロクト訴訟判決が、旧植民地の療養所について「将来の課題」と判示したことについては、立法過程において、厚生労働大臣が、「旧植民地の療養所については、詳細が明らかではないので、今後調査して検討する」と答弁したことが根拠であると指摘し、さらに、厚労省が設置した検証会議の報告書では、旧植民地の療養所では日本以上に厳しい隔離政策が実施されていたことが明記されているとして、告示を改めて救済すべきであると述べました。

 両判決は、結論がまったく逆になりましたが、その理由は、徳田弁護士も指摘するとおり、旧植民地の療養所に対する差別を、許容するか、それとも許容しないか、という一点に尽きるように思われます。原告らの受けた被害に目を向けるとき、このような差別が正当化できるとは到底思えません。こうした認識は、翌日の新聞各紙の社説にも見られます。たとえば、宮崎日日新聞は、26日付社説の見出しで「元患者の苦境に内外差はない」として、政府の対応を批判しています。保守系である産経新聞も26日付主張で「救済実現に政治の判断」との見出しで、政府に対して政治判断によって救済を実現するよう主張していますし、読売新聞26日付社説も「立法趣旨に従えば、補償対象は国内施設の元患者に限定するのではなく、旧統治下の入所者まで広く救済することが望ましい」としています。政府は、こうした声や、楽生院訴訟の判決を真摯に受け止め、告示を改正して、ソロクト、楽生院の入所者に対して、早急に救済を行うべきであるように思われます。

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