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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

「日の丸・君が代訴訟(1)―事実経過を中心として」

弁護士 川口 彩子さん(横浜弁護士会)

 昨年10月,東京都教育委員会は,全ての都立高等学校及び都立盲・ろう・養護学校の卒業式・入学式・創立記念式典等の学校行事において,「国歌斉唱はピアノ伴奏等により行う」「教職員は国旗に向かって起立し国歌を斉唱する」などとする通達を発令した。そして同時に,職務命令に従わないで不起立ないし不斉唱,ピアノ伴奏を拒否した教職員は処分することを宣言した。
 今年3月4月の卒業式・入学式には,数名の都教委職員が,不起立の教職員を監視するために派遣された。これまであたたかく感動的な雰囲気のもとに行われてきた卒業式・入学式は,教職員にとっての「踏み絵」の場と変容させられたのである。
 君が代斉唱時に不起立だった教職員には「戒告」という極めて重い懲戒処分に処せられた。卒業式・入学式ともに不起立だった者に対しては「減給」である。この先にあるのは「免職」か。今の都教委はそれすらも辞さない構えにみえる。
 定年退職後,嘱託員として4月からの再雇用が決まっていた教員は,3月30日,新年度のわずか2日前になって突如として解雇された。新年度の時間割も決まっていたのに。
 今年8月には,戒告処分・減給処分を受けた教職員に対し「再発防止研修」なるものが課せられた。この研修では,自分の「非行」について「反省文」を書けというのであるが,自分の信念に基づいて行動した教職員に「反省文」など書けるわけがない。しかしこれに先立つ6月の都議会では,自民党のある議員が教育長に「反省をしていない者を教員として教壇に戻すことがあってはならないと考えますがいかがでしょうか」と質問し,教育長は「研修の成果が不十分な場合には研修は終了とならず,再度研修を命じることになります」と答弁する場面があった。「生徒の前に立たせない」という圧倒的な威力をもって教職員らに「転向」をせまり,屈服させようとしていたのである。
 これに対し,研修対象者らは,都教委のやり方はあまりにも内心の自由を害すものだとして,研修に先立ち,東京地裁にその研修命令処分の取消しとその執行停止を求める裁判と申立てを行った。東京地裁は「現段階では研修の内容が具体的に明らかではない」として執行停止の申立て自体は却下したが,「何度も繰り返し同一内容の研修を受けさせ、自己の非を認めさせようとするなど,公務員個人の内心の自由に踏み込み,著しい精神的苦痛を与える程度に至るものであれば…違憲違法の問題を生ずる可能性がある」と都教委に対し決定的な警告を与える決定を下したのである。果たして研修当日は,裁判所の警告が効を奏し,都教委は内心の問題には一切触れることができず,研修対象者らも「反省文」を書くことなく研修を終えることができた。
 日の丸・君が代問題は,都教委にとっても教師たちにとっても最後にして最大の攻防戦である。都教委はここを突破すればもはや教師たちに抵抗する力は残らないと考えている。つまり全て思うがままに学校を支配できる。学校教育は普遍的に行われる。そこで広く子どもたちに対し一方的な価値観を注入することも可能となる。例えば「つくる会」の教科書には「『南京大虐殺』とか『従軍慰安婦』といった嘘は一切書かれていません。」とのことであるが,今年8月,東京都の教育委員7名のうち6名が,来年新設される中高一貫校の教科書には「つくる会」の教科書がふさわしいとしてこれを採択した。今,教師たちが闘っている相手はまさにこの都教委である。
 2004年1月31日,都立高校の教職員228人が原告となって,都教委に対しては,国歌斉唱時の起立義務・斉唱義務がないこと,音楽教員にピアノ伴奏の義務がないことの確認と,これらの拒否を理由とする処分不作為を請求し,東京都に対しては,通達発令以来の精神的苦痛に対する慰謝料を請求する訴訟を提起した。これを私たちは「予防訴訟」と呼んでいる。5月31日には2次訴訟が提訴され,現在原告は450名となっている。東京都の人事委員会においては,処分を受けた教職員が,懲戒処分の取消しを求める審査請求を行っている。また,6月17日には,解雇された9人全員が一丸となって解雇無効裁判を提起した。裁判には毎回,傍聴席の数を超える傍聴希望者がかけつけ,傍聴券の抽選が行われている。入れなかった傍聴希望者のため,裁判後には必ず報告集会を行い,裁判の進行についての説明や原告が傍聴に来てくれた方に直に訴える機会をとっている。もしこの問題に興味のある方はぜひ1度裁判に来てみていただきたい。東京都の教育で何が行われているのか,ぜひ見てもらいたい。次回の裁判は「予防訴訟」が12月20日(月)13:30〜,「日の丸解雇裁判」が10月14日(木)16:30〜である。

 

 

 
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