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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

薬害イレッサ訴訟(5)

T・O記

2007年2月7日、薬害イレッサ訴訟の口頭弁論が開かれ、初めての証人尋問が行なわれました。100人近い傍聴者が集まり、一部の人が法廷に入れないほどでした。

この日の証人尋問は、原告側証人の別府宏圀医師でした。別府医師は、臨床薬理学・薬剤疫学を専門とし、雑誌「正しい治療と薬の情報」を創刊し、現在も編集長を務め、薬の評価や副作用などについての情報を発信し続けている方です。

別府医師は、まず、薬の有用性の基本的視点として、安全性に裏打ちされた有効性が重要であって、患者の視点から見て、危険性をはるかに超える有効性があることが大切だと指摘しました。その有用性については、「飲んだ、治った、だから効いた」という単純な論法ではなく、プラセボ(偽薬)との比較や、対象とする患者の選び方などの基準を満たした上で判断することが必要であること、また安全性については「患者を害してはならない」ということを踏まえていることが大切であるとしました。

そして、抗がん剤の有用性については、命を短縮するようなことがあってはならず、延命効果が重要であることを指摘しました。また、単に延命効果があればいいのではく、生活の質(Quality of Life; QOL)が大切であり、延命と引き換えに大きな痛みを伴うようでは意味がないとして、有用性については厳しい審査基準が要求されるとしました。

その上で、イレッサについて、申請当初から副作用死についての危険情報があったこと、延命効果が示されていなかったことなどを指摘して、「有用性は完全に否定された」と断言しました。そして別府医師は、実際にEUでは薬の承認申請が取り下げられたこと、アメリカにおいても、新規患者への投与が禁止され、アメリカの食品薬品局(FDA)のホームページでもイレッサの危険性に対する警告がなされていることを指摘しました。

ある試験において、東洋人への効果が示唆されたとする被告側の主張に対し、別府医師は、そもそも「オリエンタルに効果があった」という記述だけであって、「オリエンタル」は西洋人から見た大雑把なくくりに過ぎないこと、この試験には日本人が含まれていなかったことを指摘し、「東洋人には効く」という主張について、疑問を呈しました。

日本肺がん学会のガイドラインによって、イレッサの継続販売が認められたことについて、別府医師は、イレッサの治験に関わった医師がガイドライン作成に関与しており、それはガイドライン作成メンバー10人のうち、5人に上っており、正しい判断ができないおそれがあることを指摘しました。そして、このメンバーと企業との経済的関係を明らかにするよう要望書を出したにもかかわらず、未だに返答がないという事実を明らかにしました。

「イレッサが効いている患者もいる」という主張に対し、別府医師は、経験は証拠として弱いこと、第三相試験(新薬としての有用性があるかを見極める最終的な試験)において延命効果が否定されたことなどを指摘し、「イレッサが効いている患者もいる」という主張には科学的根拠がないと反論し、被告側の態度を厳しく批判ました。

また2007年2月1日に、日本人を対象とする臨床試験において、既存の抗がん剤であるドセタキセルと比較して、1年未満の生存率でイレッサが劣るという結果が発表されました。このことから、別府医師は、イレッサを承認すべきではなかったということが確定した、と言い切りました。

次に、イレッサの添付書類、広告のあり方についての尋問がなされました。

別府医師は、情報と物質が一体となって効果を持つのが薬であることを指摘し、使い方によっては薬が毒になる可能性もあることから、情報が非常に重要であることを強調しました。そして、添付文書が、薬の情報を盛り込んだものであり、情報源として医師・薬剤師・患者にとって重要であることを指摘しました。また、それ故に、警告については本文冒頭に赤字枠・赤字で示すように厚労省の通達で定められていることも指摘しました。しかし、イレッサの添付文書は、一部の試験結果や副作用について記載がなされておらず、厚労省の通達に違反しており、またそれが被害拡大の原因の一つであるとしました。

広告宣伝について、広告は医師や患者に大きな影響を与える一方で、雑誌などに掲載されているものが、広告なのか情報なのかあいまいな場合が少なくないこと、専門家のお墨付きがあれば、他の医師は信じる傾向が強いことを指摘しました。そして、「メディカルトリビューン」という無料で配布されている雑誌に掲載されたイレッサの記事において、イレッサの効果を高く評価し、副作用もほとんどないという記事など、承認される以前からイレッサについての情報が多く掲載されていたこと、これらが一種の宣伝といえること、そのため、多くの患者がイレッサの服用を求め、被害者を増やす原因となったことを指摘しました。

別府医師は最後に、「本件訴訟は、患者の命をどう守るかが問われているものであり、その意味では未来型の訴訟である」と指摘し、そして「重要なことは、何が真実かを追究することである。そして多少問題があるとされたら、敏感に反応する姿勢が求められる。それが製薬会社の責任であり、行政の役割である」と述べ、証人尋問を終えました。

この日の証人尋問は3時間あまりの長いものでしたが、イレッサの問題点を分かりやすく指摘したという点において、非情に重要なものだったと思います。

次回の口頭弁論は、4月25日午後1時半より103号法廷において、別府医師に対する反対尋問が行なわれる予定です。興味のある方は、法廷に足を運んでみてはいかがでしょうか。

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