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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

都立板橋高校卒業式事件(威力業務妨害被告事件)(3)――判決公判

T・O記

2006年5月30日、板橋高校の卒業式で「君が代」強制に反対するビラの配布や着席を呼びかけるなどしたことにより卒業式を妨害したとして、威力業務妨害罪に問われていた藤田勝久さんに対する判決の言い渡しがありました。判決を傍聴しようと大勢の支援者が傍聴券を求めて、朝早くから長蛇の列を作り、マスメディアも大勢集まっていました。

午前10時、法廷のTV撮影があり、撮影終了後に藤田さんが入廷しました。そしていよいよ判決の言い渡しです。法廷に緊張感が走りました。

裁判長が口を開き、「被告人を罰金20万円に処する」と言い渡しました。その瞬間、法廷には失望が広がりました。また、弁護団の若手2名が、法廷の外で判決を待っていた支援者に判決を伝えるため法廷を出て行きました。


入廷する藤田さんと弁護団

裁判長は続けて簡単に理由を述べました。それによれば、卒業式の前に保護者に向かって大声で、「君が代」斉唱時に着席するよう呼びかけ、それを制止した教頭らにむかって「触るんじゃないよ」などと怒鳴り、校長の退去命令に従わず、怒号を発して喧騒状態に陥れ、卒業式に2分間の遅延をもたらし、これが威力業務妨害罪に該当するから、というものでした。この時、傍聴席からは、判決に抗議する声も上がりました。

続いて、各争点についての判断が示されました。

まず、田中教頭からビラ配布・保護者への呼びかけ行為を制止された時期についてです。被告人側は、田中教頭から制止された時期は、こうした行為が終わった後だったと主張していました。法廷では、多くの保護者たちが被告人の行為を見ていますが、呼びかけの最中に田中教頭の姿を見ていないという証言が得られていました。また、一連の行為をICレコーダーで記録していた鯨岡指導主事も、田中教頭の姿を見ていません。

しかし判決では、保護者らの証言に対しては、記憶違いや、保護者らの証言において、その認識に若干の相違があることをもって、正確性に疑問があるとして排除しました。他方、制止行為をしたという田中教頭の証言が詳細で信用できるとし、またICレコーダーに録音された音声からは、制止行為が呼びかけの最中になされたとみるのが自然であるとして、被告人の呼びかけの最中に制止行為がなされたと認定しました。

次に、被告人は体育館からの退場命令に従い、周囲を混乱させていないという主張に対して、ICレコーダーに、被告人が「何で追い出すんだ」と抗議する声が録音されていたことや、田中教頭が退場を繰り返し求め、被告人の体を押したりしてようやく外へ連れ出したと証言していることを重視しました。自ら歩いて外へ出て行ったとする保護者の証言については、ICレコーダーの録音内容に反するとして斥け、被告人は退場要求に応じようとしない姿勢であったと認定しました。

卒業式の開始時刻について、検察側は4分遅れたと主張していましたが、これについては、ICレコーダーの録音開始時刻や、レコーダーに録音された鯨岡指導主事の発言等を総合的に判断すると、弁護人の主張するとおり、約2分の遅れだと認定しました。

威力業務妨害罪の成立について、弁護側は、(1)被告人の行為は、人の意思を制圧するような勢力の行使をしておらず、「威力」に該当しない、(2)被告人に責任があるといえるような業務妨害の結果は生じておらず、その危険も生じていないから、業務を妨害したとはいえない、(3)被告人には、卒業式そのものを中止させ、あるいは妨害する意図はなかったから、故意がない、と主張していました。

裁判所は、「威力」とは、人の意思を制圧するような勢力をいい、その威力の行使によって現実に被害者の自由意思が制圧されたことを要するものではなく、犯行の日時場所、動機目的、勢力の態様、業務の種類等諸般の事情を考慮し、客観的に見て人の自由意思を制圧するに足りるものであるかを判断すべきであるとしました。

本件において、被告人は、呼びかけの最中に田中教頭らに制止された際、「触るんじゃないよ」などと怒号したことを認定し、さらに指導要領において、卒業式が儀式的行事に該当し、厳粛な雰囲気の中で行われることが要請され、校長・教頭はその職務に対して責任を負うとしました。

その上で、被告人は、(1)都教委の施策に反対する呼びかけは、校長らの立場からはとうてい許容できない内容であるから、これを静止するなどの対応に迫られる、(2)被告人は退場要求に従わず、怒号を発していたことから、校長らが一定時間の対応を余儀なくされた、と判断して、これらの行為は先に挙げた「威力」に該当するとしました。


記者会見

業務妨害については、業務の遂行が現実に妨害されなくても、そのおそれのある行為があれば、犯罪として成立するとしました。そして、被告人は、卒業式開始の直前に、保護者に大声で呼びかけ、その呼びかけを制止した教頭に対して怒号し、校長の退場要求に対して大声で抗議しており、卒業式の厳粛な雰囲気を害するだけでなく、卒業式の遂行を阻害するおそれがあることは明らかだとしました。また、校長らが被告人に対応していたがために卒業式が2分遅れたとして、卒業式の遂行が現実に妨害されたとしました。

故意についても、威力を用いることの認識と、その結果業務を妨害するおそれのあることの認識があれば足りるとして、被告人の行為は、校長らから見れば放置できない行為であり、その場の状況からして、卒業式の遂行を妨害するおそれのあるものだという認識を有していたと推認できるとして、故意を認めました。

以上のように判断し、威力業務妨害罪の成立を認めました。

処罰するほどの違法性を有さないという主張に対して、意見表明が言論の自由として保障されるとしても、他人の業務を妨害してよいことにはならず、被告人の呼びかけ行為それ自体が「威力」であって、手段の相当性を欠き、結果として卒業式の業務を妨害する事態が現実に生じ、これは社会的に許されない異常事態であるから、法益侵害の程度は軽微ではないと判断しました。

懲役8ヶ月という求刑に対し20万円の罰金とした理由は、卒業式の妨害を目的としたものではないこと、妨害を受けたのが短時間であること、卒業式自体は支障なく実施されたこと、被告人が教員として定年まで職責を果たしてきたことを考慮した結果だとしました。

判決の言い渡しが終わり、傍聴人が先に法廷から退出させられました。その間、傍聴人の多くは判決に納得がいかない様子で、お互い判決を批判しながらの退出となりました。

その後、弁護士会館において、記者会見が行われました。

藤田さんは、判決に対して、「検察官は懲役8ヶ月を求刑したが、罰金20万円という判決だった。これは実質的には無罪という判決だと思う。この事件の特徴は、密室での事件ではないので、〔事実上の争点については〕水掛け論にならない。取材してもらえれば、判決〔の事実認定〕が誤っていると分かるはず。公然と、事実と違う偽証を認定した政治的判断として、形式的に〔有罪という〕判決をしたものだ」、と語りました。

弁護団からは、加藤文也弁護士が、判決は田中教頭の制止行為があったという前提で有罪判決をしているが、この点については、たくさんの卒業生・保護者の前でなされており、そのような制止行為はなかったという証言もあり、十分に反証を示したつもりだったが、全て斥けられたとして、高裁ではこの点の立証に改めて力を入れていくと述べました。

記者会見に続いて、支援者に対する判決報告会が行われました。弁護団の弁護士が判決に対してそれぞれコメントをしました。

小沢年樹弁護士は、罰金という判決は予想の範囲内だったが、呼びかけの最中に田中教頭が制止したという証言については、それが認定されるとは思っていなかった、としました。村瀬均裁判長は、東京地裁に赴任する前、司法研修所で事実認定を教えていたが、どういう心境でこのような事実認定を行ったのだろう、と事実認定のおかしさを批判しました。

大迫恵美子弁護士は、刑事裁判の裁判官は、秩序維持を非常に強く意識するが、その「秩序」がお上の言う「秩序」であって、それをなんら疑うことなく正しいと思いこんでいることが恐ろしいと、裁判官の「秩序維持」に対する認識に憂慮を表しました。

また、司法研修所で村瀬均裁判長に事実認定の講義を受けていたという横山恵美子弁護士は、威力業務妨害罪は、そもそも曖昧な犯罪類型であって、先例もそれを意識して有罪/無罪を判断していたが、今日の判決で、権力側の気に入らないことは、すべて威力業務妨害罪で処罰できることになる、と批判しました。また、証人に信用性に対する判断が非常に空虚であって、教官時代の村瀬氏からは想像できない、あのような事実認定では、司法研修所ではいい成績が取れないはずなのに…と裁判所の事実認定の仕方を批判しました。

最後に、私の感想ですが、裁判所が「言論の自由」に言及しつつ、有罪を認定したことに違和感を覚えました。この事件では、学校当局側の立場と相反する見解について発言しており、校長らが対処するのは当然であって、これに抵抗したから威力業務妨害だとされています。

しかし本来、「言論の自由」とは、権力側を批判するためにこそ認められるものです。権力批判に対して権力側が抑圧を加えることは歴史的な事実であり、本件でもまさにそれが行われたわけです。この抑圧行為を禁止するために「言論の自由」が憲法で保障されているのです。にもかかわらず、本件では、「言論の自由」を制約する論理として、学校当局の施策に反する見解だったからという論理が採用されています。この点、裁判所は、「言論の自由」が憲法で保障されていることの意義を全く理解していないといわざるを得ません。

弁護団は、判決に対して即日控訴しています。本件については、引き続きレポートしていきたいと思います。

不当判決に対する抗議声明
2006年5月30日
板橋高校卒業式事件弁護団

                      本日、東京地方裁判所刑事第9部は、2004年3月の都立板橋高校卒業式に来賓として出席予定であったが不当にも校長ら管理者により式参加を拒否された教員OBである藤田勝久氏に対し、卒業式開式前の行為が「威力業務妨害罪」にあたるとして罰金20万円(求刑懲役8月)の有罪判決を言い渡した。われわれは、この信じがたい不当判決に対し、本日直ちに控訴手続をとった。そして、不当判決をくだした東京地裁刑事第9部に対し、怒りを込めて抗議するとともに、東京高等裁判所におけるあらたな審理で藤田さんの汚名を晴らす無罪判決を獲得するため、全力でたたかう決意をここに表明する。

 そもそも本件は、2004年3月の板橋高校卒業式において、「君が代斉唱」の際にほとんどの卒業生が着席し、来賓として列席していた土屋都議会議員が卒業生らに起立斉唱を大声で命じたもののほとんど誰も応えなかったことに端を発する。土屋都議は式から5日後の都議会質問で「生徒を扇動した犯人探し」を求めるとともに、開式前の時間帯に保護者らに対して教員への「君が代」強制問題の深刻さを訴えた藤田さんをやり玉にあげ、都教委もこれに呼応して「法的措置」をとると答弁したことで、公安警察による本件の「捜査」が本格化した。

 しかしながら藤田さんは、卒業式開式前に平穏に週刊誌コピーを配布し、やはり平穏に数十秒間だけ保護者に「君が代」強制問題の説明を行ったが、説明終了後の管理者らの退去要求に応じて若干の抗議をしながら学校を退去し、念願だった卒業式参加も断念したいわば「真の被害者」である。本件は、都教委や一部政治家ら「君が代」強制勢力が、卒業式開式後の卒業生木起立の事実上の責任を、卒業式開式前た校長らの求めた応じて学校を退去していた藤田さんに負わせようとしてでっちあげた「事件」であり、かかる特定政治勢力に奉仕する公安警察・公安検察主導の「事件」である。

 本日の有罪判決は、裁判所までもが都教委や一部政治家らの特定政治目的に加担し、「威力業務妨害」罪について司法判断が積み重ねてきた慎重な判断基準をも踏みにじって、「教頭によるビラ配布制止」などの完全なでっち上げを追認した恣意的かつ政治的な不当判決に他ならない。しかしながら、国家権力の不当な支配に対する人権の砦である裁判所が、近代刑事司法の核心である「証拠裁判主義」「公平な裁判所」の精神に反する恣意的事実認定・法適用を行い、これら政治家・行政当局・訴追権力の特定の政治的意図に追随することは絶対に許されない。とりわけ、本件の藤田さんのように、「都教委の君が代強制に批判的な内容」のコピー配布・保護者らへの訴えであったがゆえに、教育者としてのささやかな抗議の声が「威力業務妨害」との「犯罪」として処罰されることを許せば、近年頻発するビラ配布行為への「住居侵入」「国家公務員法違反」弾圧事件と同様に、「言論・表現の自由」の圧殺効果は計り知れない。

 われわれ弁護団は、あらためて本日の不当判決に抗議するとともに、今日のいっそうの旧の丸・君が代」強制政策や、教育基本法「改正」・「愛国心」法制化などの危険な動きに対して良心の抵抗を続ける多くの人々とともに、控訴審での無罪判決をかちとる決意を表明する。

 

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