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薬害肝炎訴訟(1)

T・O記

2002年10月21日、旧ミドリ十字(現三菱ウェルファーマ、ベネシス)などが製造・販売していた血液凝固因子製剤(フィブリノゲン製剤などの止血剤)を投与され、それが原因でC型肝炎ウィルスに感染した被害者らが、国と三菱ウェルファーマなどの製薬会社を相手として、損害賠償を求める訴訟を東京と大阪で提起しました。現在、東京・大阪に加えて、仙台・名古屋・福岡でも訴訟が行われています。

C型肝炎とは、C型肝炎ウィルスの感染によっておこるウィルス性肝炎のことです。ウィルス性肝炎は、肝臓の細胞がウィルスによって破壊され、肝機能に障害が出る病気です。ウィルスの種類によって、A型・B型・C型などに区別されます。C型肝炎は、慢性化することが多く、肝硬変・肝がんなどへと進行し、命の危険をもたらすものです。C型肝炎は自覚症状が少なく、気が付いたときにはすでに重症化していることも少なくありません。慢性化すると、高い確率で肝硬変を発症し、肝硬変を発症した場合、その多くが肝がんを併発します。現在、日本では、肝がんによる死亡者は年間3万3千人にのぼり、肝硬変による死者を含めると、4万5千人に上り、その7割近くは、C型肝炎が原因であるといわれています。また、C型肝炎ウィルスの保持者は、発症していない人も含め、200万人に上るといわれています。

C型肝炎の治療法としては、インターフェロンの投与という方法しかありません。しかし、すべてのC型肝炎ウィルスに効果があるわけではなく、およそ3割の感染者にしか効果がありません。加えて、インターフェロンには、倦怠感、吐き気、40度近い発熱などの強い副作用があり、治療を受ける患者にとって、肉体的・精神的に大きな負担となっています。

被告会社・国の行為によって、このような重い被害をもたらすC型肝炎ウィルスに感染してしまった患者の方たちが、損害賠償を請求して、裁判を起こしたのです。以下では、主な争点について紹介します。

まず、肝炎に感染する危険性と、それが重篤な病気をもたらすことについて、予見することができたかどうかが、問題となっています。

1960年代の初めには、輸血を受けた患者の多くが肝炎を発症していたこと、その肝炎が高い確率で慢性化し、肝硬変などを引き起こす重篤な病気であったことは、すでに広く知られていました。その後、1978年ごろまでには、輸血によって発症する肝炎の大部分が、非A非B型肝炎(C型肝炎)であり、慢性化する確率が高く、重篤な病気であることが、よりいっそう明確になっていました。他方、血液凝固因子製剤は、肝炎ウィルスによる汚染の危険性が高いことが知られており、1977年には、アメリカFDA(食品医薬品局)がフィブリノゲン製剤の承認を取り消していました。つまり、国と製薬会社は、フィブリノゲン製剤の承認がなされた1964年には、その使用によって肝炎に感染する危険性を予測できたと言えます。またアメリカFDAがフィブリノゲン製剤の承認を取り消した後には、フィブリノゲン製剤の投与によって、非A非B型肝炎に感染する危険性の高さを予見できたはずです。以上が、原告側の主張です。

これに対し、国や企業は、肝炎の感染について、輸血や血液凝固因子製剤だけが感染経路であるとは必ずしも考えられていなかった、ウィルスが特定されておらず効果的な感染予防の方法がなかった、肝炎が重篤な病気をもたらすとは認識されていなかった、などと主張して、その予見可能性を否定しています。

次に問題となっているのは、血液凝固因子製剤の使用の必要性です。副作用の危険性があるとしても、直ちに製造・販売を禁止するということにはなりません。副作用を上回る有効性があれば、その医薬品の使用が認められることもあります。そこで、フィブリノゲン製剤などに、そのような必要性があったかどうかが問題となります。

原告側は、先天的に血液凝固因子が欠けている病気の場合には、血液凝固因子製剤の投与の必要性があったかもしれないが、後天的な出血性疾患などの病気については、その製剤の有効性が明らかになっていなかったこと、新鮮血の輸血などの代替手段があったこと、1977年にはアメリカでフィブリノゲン製剤より危険性の少ない他の製剤があることを理由に、フィブリノゲン製剤の承認が取り消されていたことなどを理由に、血液凝固因子製剤の使用の必要性は認められなかった、と主張しています。

これに対し、被告国・製薬会社は、フィブリノゲンが、止血に際して非常に重要な役割を果たし、そして大量出血の場合に、フィブリノゲン製剤の投与が止血に効果的である、アメリカでは承認が取り消され、販売されていないが、日本や欧州各国では有用なものとして販売が継続されている、現場・研究者などからも、有用性が認められている、などと主張して、その必要性を主張しています。

3点目に、国・製薬会社の責任についてです。

製薬会社について、原告側は、医薬品が本質的に人の生命・身体に危険をもたらす可能性を有していること、製薬会社はその危険性についての情報を収集・分析する能力を有していることから、製薬の安全性を確保する義務があった、と主張しています。それに基づいて、製薬の危険性について予見する義務が発生し、危険性が予見される場合には、その危険な結果を回避するための措置をとる義務(結果回避義務)がある、と主張しています。そして、フィブリノゲン製剤などの血液凝固因子製剤について、肝炎に感染する危険性があることを予見できたにも関わらず、結果を回避する義務を怠り、被害をもたらした、と原告らは主張しています。

国に対して、原告側は、国が医薬品の製造・販売について承認する権限を有しており、承認に際しては、医薬品の治療上の効能・効果と、副作用や安全性を考慮して判断することが求められると主張しています。また、承認後であっても、効能や安全性について問題が見つかれば、その承認を取り消す権限も有していることから、被害発生を防止するために、適切に権限を行使しない場合は、違法であると主張しています。そして、フィブリノゲン製剤などについて、承認の時点で、有用性が限定されていたことや、肝炎に感染する危険性が予見できたにもかかわらず、承認した点に違法がある、と主張しています。また、承認後も、本件製剤によって肝炎に感染する危険性が高いこと、肝炎が慢性化し肝硬変・肝がんへと進行する危険性が高いことから、本件製剤の使用を制限すべきだったにもかかわらず、その権限を行使せず、その点に違法性があると主張しています。

これに対し、被告会社は、原告側の主張について、一般論としては認めつつも、本件製剤については、製剤の有効性や、危険の予見可能性がなかったことを主張して、その責任を否定しています。また、被告国は、本件製剤によって肝炎への感染が発生したことを認めつつも、当時においては、有用性が認められていたことから、承認に際して規制権限の発動は必要なく、承認後においても、肝炎の集団発生の報告を受けて以降、調査を行い、製剤の切り替えを指示したことや、血液製剤評価委員会を開催し、その結果を踏まえミドリ十字に対し、フィブリノゲン製剤の添付文書の改訂及び緊急安全性情報の配布を指示し,その後の回収状況についても報告するよう指示したこと、フィブリノゲンの有効性については再評価の過程が進行中であることなどを理由に、違法性を否定しています。

いずれにせよ、フィブリノゲン製剤の投与により、多数のC型肝炎患者が発生したことは、否定できない事実です。このような事態をもたらしたのは、フィブリノゲン製剤を製造・販売した企業と、それを承認した国にあるのではないでしょうか。両者とも、様々な主張をして責任を否定しています。しかし、責任を否定することは、被害者の救済を否定することにもつながりかねません。現在、C型肝炎の患者の多くは、治療や日々の生活において、肉体的・精神的・経済的に多くの困難を抱えています。彼らに対する救済制度の確立が必要でしょう。その責任をはっきりさせるためにも、この訴訟は非常に重要な意義を持つといえます。さらに、こうした裁判では、真相究明が非常に重要な意義を持ちます。それによって、再発防止につながるからです。その意味でも重要な訴訟であると言えます。

本件訴訟について、次回は、11月29日に行われた口頭弁論(原告本人尋問)の様子をお届けしたいと思います。

参考ホームページ【「薬害肝炎訴訟全国弁護団」

 

 

 
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