法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

薬害肝炎訴訟(10)――東京訴訟判決

T・O記

2007年3月23日、東京地裁において、薬害C型肝炎訴訟に対する判決の言い渡しがありました。50枚ほどの傍聴券に対し、300人を超す傍聴希望者が詰めかけており、私は残念ながら抽選に漏れ、法廷での判決傍聴は叶いませんでした。そのため、裁判所前で判決を待っていました。

判決言い渡しの自国である午後2時を10分ほど過ぎたところで、裁判所前にいた裁判所職員が、「今開廷しました」と教えてくれました。判決の結果について、弁護士が旗出しをする予定だったので、それを待ちましたが、なかなか出てきませんでした。一部勝訴で、ずいぶん複雑な判決であるため、出す旗の判断に迷っているのだろう、と推測されました。そして午後2時25分頃、ようやく弁護士が2名出てきました。出された旗は2枚。そこには「勝訴」と、「三度断罪」と書かれていました。裁判所前で待っていた支援者たちから拍手が起こりました。

さて、旗出しまでに時間のかかった判決ですが、実際、当事者の主張を含め1400頁に上る膨大なものでした。以下、判決要旨に基づいて簡単に説明します。

主な争点は(1)C型肝炎感染の原因となったフィブリノゲン製剤に、薬としての有用性が認められるか、(2)フィブリノゲン製剤によってC型肝炎に感染する危険性についての警告を怠ったかどうか、およびそれについての被告らの責任、(3)C型肝炎感染の原因となったクリスマシンに、薬としての有用性が認められるか、(4)クリスマシンによってC型肝炎に感染する危険性についての警告を怠ったかどうか、およびそれについての被告らの責任、(5)義務違反と原告らの損害の因果関係、です。以下、それぞれ見ていきます。

(1)フィブリノゲン製剤の有用性について

原告らは、そもそもフィブリノゲン製剤には薬としての有用性がないと主張していました。しかし裁判所は、薬としての有用性があったことを認めました。しかし他方で、C型肝炎に感染するリスクが高かったこと、及びC型肝炎は肝硬変や肝がんに進行するなど、非常に重大な病気であって、薬の副作用として看過できないということも認定しました。

(2)フィブリノゲン製剤の使用についての指示・警告の義務違反について

薬については、その使用方法についての指示や、副作用についての警告がきちんと明示されている必要があります。しかし、フィブリノゲン製剤については、C型肝炎感染のリスクについてきちんとした警告がありませんでした。そこで、その点の責任が争われました。

裁判所は、企業が、1970年代〜1980年代半ば頃までは、肝炎感染の可能性を認識しつつも、その危険性が低いと認識しており、それは症例の少なさや専門家の認識も低かったことなどを指摘しました。しかし、1983年末以降にはC型肝炎感染の症例が増え、また肝炎の危険性の認識も高まっていたこと、他の薬よりも肝炎感染の危険性が高かったことなどから、肝炎感染の危険性についての警告はあったものの、内容が不十分であったとして、製剤の製造日から1988年6月に緊急安全情報を配布するまでの間において、指示・警告の義務に違反したと認定しました。

他方、国についても、肝炎感染のリスクや報告された症例について慎重な吟味を行えば、その危険性を認識できたことを認めました。そして製薬企業に対して、その危険性を警告させるべきだったとして、それをしなかったことについて、権限不行使の違法があるとしました。

(3)クリスマシンの有用性について

フィブリノゲン製剤と同様、原告らは、クリスマシンについても薬としての有用性がなかったと主張していましたが、裁判所は、クリスマシンについても、その有用性を認めました。しかし裁判所は、このクリスマシンについても、肝炎感染の危険性が高かったと認定しました。

(4)クリスマシン使用についての指示・警告の義務違反について

フィブリノゲン製剤と同様、薬として有用であっても、重篤な副作用があれば、それについての警告がきちんとなされていなければなりません。クリスマシンについても、肝炎感染の危険性があったわけですから、警告義務違反の有無が争われました。

裁判所は、製薬会社がクリスマシンによる肝炎感染の危険性を認識できたこと、肝炎の十特性についても認識できたことなどから、1983年末までには、明確な警告をすべきだったとしました。しかし、企業の行った警告が不十分であり、警告義務に違反したと認めました。

しかし、国については、企業側から副作用についての報告がなかったことや、薬に対する再評価を行っていたことなどから、副作用の危険性について切迫した状況にはないとして、その責任を否定しました。

(5)因果関係について

裁判所は、以上のように、企業と国について、一部義務違反を認めました。その上で、その義務違反と原告らの損害に因果関係が存在するかどうかを検討しました。そして、因果関係が認められるかどうかについては、1)原告らは、フィブリノゲン製剤等の投与によってC型肝炎に感染したこと、2)被告らによる警告がなされていれば、薬の投与はなされなかったこと、の2点についての立証が必要だとしました。そして、この1)2)の基準に基づいて、各原告らにつき、判断をしました(各原告についての判断は割愛します)。そして、21名の原告のうち、13名について訴えを認容し、被告らに対して総額で約2億6千万円の損害賠償の支払いを命じました。

本判決については、評価できる点と、評価できない点とがあります。

評価できる点としては、原告らのC型肝炎感染があらためて薬害と認定された点が挙げられます。また、クリスマシンによるC型肝炎感染について、企業の責任を認めた点も評価できます。すでに判決がなされた大阪地裁(2006年6月21日判決)と福岡地裁(2006年8月30日判決)は、クリスマシンについて、企業の責任を否定しているからです。この点は、原告らにとって大きな前進と言えるでしょう。

他方で、大阪地裁・福岡地裁に比べて後退した点もあります。まず、フィブリノゲン製剤の薬としての有用性を広く認めた点です。また、国の責任が発生する時期についても、後退が見られました。大阪地裁は、集団感染が発覚した1987年4月以降に責任が発生するとしました。また福岡地裁は、さらにさかのぼり、1980年11月以降の責任を認めました。これに対し、東京地裁は、1987年4月の治験薬配布から、1988年6月の緊急安全情報配布の間に限定しています。

また、期間を区切っているため、救済された原告と、救済されなかった原告が出ました。そのため、勝訴とはいえ、全面的に喜ぶことができる判決ではありませんでした。

判決後、原告や支援者らは、控訴断念と、被害者の全面救済を求めて、厚生労働省に交渉を求めましたが、厚生労働大臣は、面会を拒否しました。そのため、3月28日から、厚生労働省前での座り込みが行われました。そうした運動が実り、3月30日には下村官房副長官との面会が実現し、「自民党にも働きかけ、問題解決に向けて話し合っていく」という安倍首相の言葉もあり、座り込みは解除されました。他方、同じ3月30日、政府は判決を不服として控訴しています。原告らもまた、全面勝訴を目指し、4月5日、判決に対して控訴を行いました。

C型肝炎訴訟については、仙台地裁に継続している事件が4月16日に結審しており、秋頃に判決が言い渡される見通しとなっています。

C型肝炎に感染している人は、薬害による人も含め、日本全国でおよそ200万人いるといわれています。国民病といっても過言ではないほどの規模です。C型肝炎が、肝硬変や肝がんといった命に関わる病気に進行することを考えるならば、薬害によるものであるかどうかを問わず、早急な対策をとることが、政府に求められると思います。

<<(9)へ

 

 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]