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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

薬害肝炎訴訟(8)――東京訴訟結審2

T・O記

前回に続いて、薬害肝炎東京訴訟の口頭弁論の様子をレポートします。

平井さんの意見陳述の後、10分程度の休憩をはさんで、関口正人弁護士が、医薬品の有効性の判断基準についての意見陳述を行いました。

関口弁護士は、医薬品が人体にとって異物であって、副作用を持つことから、医薬品の副作用の危険性を上回る有効性が科学的に証明された場合に、初めて人体への使用が許されることを指摘し、それゆえ、本件においても、医薬品の有効性は重要な争点であるとしました。

国は、有用性の判断について、厚生労働大臣の裁量によって決められると主張しています。また、薬害肝炎訴訟大阪地裁判決も、「高度の専門的かつ総合的な判断を要する領域」であることを理由に、厚生労働大臣の裁量を認めています。これに対し、関口弁護士は、裁判所も、専門的事項についても判断を行うことを指摘しました。たとえば、製薬企業のみを被告とした場合でも、薬の有効性・有用性は争点となりますが、そこでは行政裁量は問題とされず、有効性・有用性についての企業の判断の是非について、裁判所が判断します。実際、大阪地裁判決は、非加熱フィブリノゲン製剤の承認時の臨床試験資料について、「ずさんと評価すべき点が多々含まれていたことは否定できない」としています。

また、薬の有用性・有効性の判断は、その時点における最高の医学的・薬学的知見に基づいてなされます。関口弁護士は、この原則は人の生命・健康の保護のために堅持されねばならないと主張して、薬事行政において厳格に有効性・有用性判断がなされていたかを裁判所に厳しく吟味してもらいたいと述べ、意見陳述を終えました

続いて、野間啓弁護士が、被害と損害についての意見陳述を行いました。

野間弁護士は、被害の実情として、致死性、進行性、難治性、感染性の4つに加え、これらが複合的に絡み合っていることを指摘しました。誰もが死を避けられないことは事実だとしても、それがいつなのか、具体的にわからないからこそ、人は日常において死を意識せず生活します。しかし、C型肝炎に感染した被害者は、否応なく、日常から死を意識させられます。野間弁護士は、もし自分が、原告の一人のように、20代前半で感染していたら、24時間、365日、死ぬその日まで感染のことを考えることになる生活を考えると、とても耐えられないなどと述べ、被害の重大性を訴えました。

次に、原告12番の方(以下、Eさん)が意見陳述を行いました。

Eさんは、二度目の出産に際して、C型肝炎に感染させられました。一見、健康な人と何も変わらないのに、すぐに疲れ、倦怠感に襲われるといいます。そうしたことから、妻・母親失格だとか怠け者だとか言われることもあり、次第に我慢をするようになり、結果として症状を悪化させてしまうことを訴えました。

また、Eさんは、原告がみな、治療のための副作用で、高熱、脱毛、食欲不振、皮膚疾患など、体中が悲鳴をあげ、ぼろぼろになりながらも、朝になると職場や学校へ向かうこと、そしてそこで「差別と偏見」による精神的被害を受けること、たとえば友人や同僚から「寄るな」「触れるな」と冷たい扱いを受け、昼食も一人でとり、子供を産めば赤ちゃんの産着やオムツを区別され、「次回はよその病院へ行ってくれ」と言われる現状を訴えました。

そして被告席に向かい、「自分の身に置き換えて考えてほしい。もし自身や愛する妻・子どもに同じ問題が降りかかったら、本当に過ちがないと言い切れますか?急性・慢性・肝硬変・肝臓がんと、じわりじわりと進んでいくC型肝炎、次はわが身かと恐怖にさいなまれ送る人生・・・なぜですか?私たちが何か悪いことをしましたか?」と詰め寄りました。

Eさんは、最後に、裁判長に向かって、「私たち原告は、300万人余りのすべての肝炎患者を救うべく、突破口の道に立っています。製剤の種類や年代に目を向ける前に、人道主義を優先し、同じウィルス性肝炎患者を誰一人として切り捨てることなく助けてください。司法の手により、救済の道が開かれることを切に願います」と訴えて、意見陳述を終えました。

最後に、代理人の鈴木利廣弁護士が、まとめの意見陳述を行いました。

鈴木弁護士は、これまでの立証から、被告らの法的責任が明らかであること、被告らが高度の安全性確保義務を負うにもかかわらず、その義務をきちんと果たさなかったこと、にもかかわらず、責任を認めようとしない姿勢こそが薬害の発生を繰り返していることなどを主張しました。そして、本件訴訟の目的が、被告ら加害者の法的責任を明らかにし、正義を実現すること、そして治療体制を確立し、原告ら被害者が安心して治療に専念できる支援体制の確立すること、さらに薬害を根絶することにあることを指摘して、意見陳述を終えました。

原告らの意見陳述に続いて、国側が意見陳述を行いました。私はこれまでいくつかの行政訴訟を傍聴していますが、国側が意見陳述を行う姿を初めて見ました。国側にも焦りがあるのではないかと思いながら意見陳述を聞いていました。国側の意見陳述は、結局のところ、フィブリノゲンなどの製剤の有用性・有効性を主張するだけであり、原告らに対して有用であったのか、投与が必要であったのかといった点については触れられないままでした。

最後に、結審にあたり、裁判長は、本件の口頭弁論が25回にわたって開かれたこと、調書が100冊を超えることなど、本件では十分に審理が尽くされたとし、「これで弁論を終結し、今後記録を整理して判決を書きます」と述べました。そして判決期日は、追って指定するとされました。

その後、弁護士会館で記者会見・報告集会が開催され、結審に当たって意見陳述した原告、意見陳述しなかった原告などが、訴訟に対する想いなどをそれぞれ述べました。また、各地の訴訟の展望について、各弁護団の弁護士から報告がありました。

薬害肝炎訴訟や、薬害イレッサ訴訟を傍聴するたびに思いますが、医薬品に対する国のずさんな管理や、医薬品の危険性に対する製薬企業の認識の欠如、あるいは責任を回避しようとする国・企業の態度は、見ていて本当に腹立たしいです。また、何の落ち度もないのに、重い被害を負わされ続けている原告ら薬害の被害者たちに対する救済を、国や企業が早急に行うよう、強く求めたいと思います。

なお、本件の判決言い渡し期日は未定ですが、福岡地裁で行われている薬害肝炎訴訟の判決言い渡しが、8月30日にあり、前日には1000人規模の集会も予定されています。興味のある方は、参加してみてください。

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