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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

「君が代」訴訟(通称「スミぬり裁判」)

大阪府枚方市 松田浩二

 1999年8月に「国旗・国歌法」が制定されてから、またたくまに全国に「日の丸・君が代」強制の波が押し寄せていったことはご存知のことだと思います。東京都では、個人あるいは教員集団による「日の丸・君が代」処分関連の教育裁判が数多く起こされていますが、当「法学館憲法研究所」HPでも、もっとも大規模に争われている「予防訴訟」について「憲法関連裁判情報」のところで紹介されています。
 大阪府も決して例外ではありません。まだ今のところ、都教委の10・23通達(03年)のような指示や職務命令と、それに基づく「君が代」不起立教員の根こそぎ処分という、性急で野蛮な粛清路線を大阪府教委がおおっぴらに採っていないだけのことで、都教委の手荒なやり方を奇貨として、一方で模様眺めをしながら、他方で真綿で首をしめるようにじわじわと強制を押し進めています。
 私たちが知る限り、大阪府内でも「国旗・国歌法」に呼応して突出した動きを見せたのが枚方市教育委員会でした。前教育長(現教育委員長)が1999年1月の定例校長会で出した「3点指示」を皮切りに、「4点指示」「6点指示」へと指示内容をエスカレートさせ、2001年11月には「7点指示」を出すに至ったのです。その後、若干の改悪修正はあったものの、現在もこの「7点指示」が卒業式・入学式に向けて出され続けています(詳しくは「スミぬり裁判をすすめる会」HPをご覧いただければうれしく思います)。
 そして枚方市教委は、この指示を学校現場で完遂させるために、徹底した「調査」を繰り返し行いました。ピークとなった2002年には卒業式・入学式の事前、事後に、式直後の電話報告も含めて計8回もの「7点指示」実施状況調査(校長による文書報告)を行い、その都度、市教委は詳細な一覧表を作成しているのです。このような調査は全国的に見ても今でこそ珍しいものではなくなりましたが、たとえば「7点指示」に則った調査の中の「国旗について」という項目だけでも(1)式場内掲揚場所(2)式場外掲揚場所(3)掲揚時刻(4)降納時刻(5)掲揚者という5点の報告を求めています。さらに「国歌」については、式次第やしおりに歌詞を明記したか、伴奏方法、伴奏者、児童・生徒への指導を社会科、音楽の授業でいつ行ったか、斉唱の指導をするように教員に指示を出したか、教員が起立するように指示をしたか、起立しなかった教員に再度の指示をしたか、児童・生徒、保護者、来賓の起立状況、斉唱状況などなど、微に入り細に渡った点検をして、全小中学校に関する精緻な一覧表を各調査ごとに「丁寧に」作っているわけです。その完成度の高さといい、2000年〜2002年当時という時期の先駆性を考えれば、目をみはるものがあるといってもいいでしょう(もちろんこんなことは何の自慢にもなりません)。調査は回数こそ減りましたが今も続けられています。
 これによって、2000年には1校も行われていなかった「君が代」ピアノ伴奏が2005年には枚方市内全小中学校で行われるようになり、小学校で多く採用されていた対面式の卒業式や入学式もすべて壇上形式にむりやり変更されました。「君が代斉唱」についても、ほぼすべての児童・生徒、教職員、保護者が起立せざるをえない状況に追い込まれています。指示に従わない校長は何度も市教委に呼び出されて詰問され、厳しい「指導」を受けています。その証拠書類もつい最近、入手することができました。
 そして問題の2002年の入学式では、とどめを刺すように、卒業式の分も含めた「不起立教職員調査」が行われたのです。起立しなかった教職員はひとりずつ校長室に呼ばれて氏名の確認と「起立しなかった理由」を聴取され、それが市教委に報告されて一覧表になっています。「平成14年度入学式の国歌斉唱時、起立しなかった教職員調査」という一覧表を情報公開請求によって私たちが入手したとき、41名の不起立教職員の「氏名と起立しなかった理由」は真っ黒にスミぬりされて出されました。

 さて、前置きが長くなって恐縮ですが、このような経緯を背景として枚方「スミぬり裁判」は行われています。枚方では「君が代不起立」による処分はまだ行われていません。処分を振りかざさなくても、あるていどの時間をかけて調査(ブラックリスト)を繰り返し、不服従者を孤立させ、見せしめにしさえすれば、それで十分なのです。ほとんどの場合、この方法で目的は達成されるのではないでしょうか。「指導」という名の強制です。口をこじ開けてむりやり押し込もうが、オブラートに包んで流し込もうが、どちらも毒を飲ませることに変わりはない「教育の不当な支配」であり「思想・良心の自由」に対する侵害です。
 枚方市の個人情報保護条例も「思想・信条・信仰」に関する個人情報を行政機関が収集することを禁じています。このことに気づいた私たちは、2003年3月に住民監査請求を行い、6月25日に市民30人で大阪地裁に住民訴訟を起こしました。憲法違反や教育基本法違反を眼目とした裁判が難しいものであることは素人の私たちにもわかっています。そこで憲法13条、19条の趣旨を具体的に保障する個人情報保護条例についての違反を具体的争点としてたたかえば何とかなるのではないか、そう考えました。(詳しくは2005年6月7日付最終準備書面をご覧いただければ幸いです)
 私たちがやっている住民訴訟は弁護士のいない本人訴訟です。法律の専門家はいません。そして地方自治体の財務会計の適正化をはかるための制度として作られた住民訴訟というやや特殊な裁判であるために、予想もしない壁に突き当たり、試行錯誤と学習の連続でした。私たちの住民訴訟における請求は、「枚方市長は違法な不起立教職員調査のために使った経費(おもに給与分にあたる損害)を教育長に請求せよ」ということなのですが、これが住民訴訟の中でもさらにマイナーな非財務会計行為についての「違法に財産の管理を怠る事実」というとてもわかりにくい類型に属するものだということもあって悪戦苦闘しています(説明は省略させていただきます)。
 ともかく「スミぬり裁判」は2年、12回の口頭弁論を経て、驚いたことに2005年4月には教育長の証人尋問まで実現するという「波乱」もあって2005年9月8日に判決が出されました。残念ながら判決は棄却です。裁判所は「不起立教職員調査」の違法性については判断しませんでした。裁判所のいうには、あなたたち原告らの請求は住民訴訟制度の濫用とは言えないので住民訴訟としては認めるけれども(これは一歩前進)、教育長が違法な調査を行ったか否かにかかわらず、住民訴訟として調査に使った経費が市の損害というためには、そもそもそれが市が経費を負担すべきではない「市の事務ではない」ことを証明しなければならない。教育長の権限の逸脱濫用があったとしても、それは被害を受けた教職員が国家賠償請求訴訟をして、そこで判断されるべきものである。というものでした。もちろん私たちは教育長が行った「7点指示」に基づく「不起立教職員調査」が枚方市に損害を与える不法行為であることを立証し、本案(不起立調査の違法性)に踏み込んだ憲法判断を問うために控訴しています。大阪高裁の書記官が「ほとんどの控訴審は1回で結審するので、そのつもりで悔いのない控訴理由書を提出してほしいなぁ」という趣旨の「ありがたい」アドバイスをしてくれたので、じっくりと時間をかけて2月末までに控訴理由書を提出することになっています。またこの間に新たな事実の発見もあり、私たちが知らなかった枚方市教委による「日の丸・君が代」強制の全貌も明らかになってきています。
 2005年2月には、「不起立教職員調査」を受けた当該教員2名が「氏名と起立しなかった理由」の削除や国家賠償を求める訴訟を新たに起こしました。私たちはこの裁判を「スミぬり裁判(教員編)」と名付けていますが、あわせてご注目いただければ幸甚です。
 なお、当「法学館憲法研究所」HPの2005年5月23日付の「今週の一言」で紹介されている竹森真紀さん(ココロ裁判)には、このような裁判で本人訴訟ができるということを実例で教えていただいた先輩でもあり、何かとお世話になっています。また淀川をはさんで川向こうにある高槻市でも5人の教員によって「教員休憩時間訴訟」が本人訴訟でたたかわれています。やはり本人訴訟仲間として、互いに情報を交換したり傍聴したりして協力しあっています。

参考 スミぬり裁判をすすめる会HP

 
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