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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

国籍確認訴訟

弁護士 山口 元一(第二東京弁護士会)

1 事件の概要は以下のとおり。
(1) 原告Xの母Aはフィリピン国籍。1992年に来日し、日本人男性Bと知り合い、97年に原告Xを出産した。Bは99年にXを認知した。しかしながら、Xは日本国籍を取得しなかった。国籍法によると、父が日本人で母が外国人である子について、出生と同時に日本国籍取得ができるのは、@両親が結婚している場合、A父親が子を胎児認知した場合に限られるからである(同法2条1号)、
(2) その後、XとAは、在留資格のない外国人として、法務大臣に在留特別許可(入管法50条1項3号参照)を申し出たが、2002年10月、東京入国管理局長はこれを認めず、XとAに退去強制令書(以下「退令」)が発付された。そこで、XとAは、東京入国管理局長等を被告として、退令発付処分取消訴訟を提起した。
(3) 退令発付処分取消訴訟提起後の03年2月、Xは法務大臣宛に国籍取得を届け出たが、法務局はこれを不受理とした。国籍法3条によると、認知された子が法務大臣への届出によって国籍を取得するのは、認知後に両親が結婚したか、または父母が婚姻した後に認知された場合に限られるからである(これらの場合は、届出の時点から日本国籍を取得する。)。
(4) そこで原告Xは、国籍法3条は両親の婚姻の有無を理由に子を差別するものであり、「法の下の平等」を定めた憲法14条1項に反して無効であるから、国籍取得の届出によって日本国籍があることの確認を求めて提訴した(退去強制令書発付処分取消訴訟に対する訴えの追加的併合)。
(5) なお、退去強制令書は、結審直前に撤回され、XとBには在留特別許可が認められたため、退去強制令書発付処分取消訴訟は取下で終了している。

2 本件において特に考慮すべき事情は以下のとおり。
(1) Bは妻と子との家庭を有する既婚者であり、Aと婚姻してXが準正子になることはできない。
(2) Bは妻との婚姻関係を継続しながら週末にはAのもとで生活している。AとXを扶養し、幼稚園の行事にも参加するなど、父としての活動の実態がある。

3 東京地判平成17年4月13日(以下「判決」とする。)の概要は以下のとおり。
(1) 判決は、まず国籍法3条1項の立法趣旨について、国籍の伝来的取得に、日本国民との間に法律上の親子関係が生じたことに加え、わが国との間に一定の結びつきが存することを求め、その結びつきの指標として、日本国民である親と、その認知を受けた子を含む家族関係が成立し、共同生活が成立している点を要求したものと捉えたうえで、その合理性を認めた。
(2) しかし、判決は、このような家族関係や共同生活は、法律婚が成立した場合にのみならず、内縁関係として、父母が事実上の婚姻関係を成立させ、認知した非嫡出子とともに家族としての共同生活を営む場合も、成立するのであって、父母が法律上の婚姻関係を成立させている家族こそが正常とするのは、価値観が多様化している今日の社会では妥当でない、とした。
(3) そして、日本国民を親の一人とする家族の一員になっている非嫡出子として、わが国との結びつきの点においては異ならない状況にあるにもかかわらず、法律上の婚姻関係が成立していない場合は認められないという区別に合理性が認められず、法3条1項は、準正子と、父母が内縁関係にある非嫡出子との間で合理的な理由のない区別を生じさせている点において、憲法14条1項に違反する、と判示した。
(4) そのうえで、BとAの間には完全な同居生活の成立こそ認められないものの、内縁関係の成立が認められ、Xを含む三者の間に家族としての共同生活と評価するに値する関係が成立している、としてXの日本国籍を認めた。

4 判決の評価については以下のとおり。
(1) 内縁や事実婚から生まれた婚外子にも国籍取得の道を開いたことは評価できる。
(2) ただし、外国人母の場合は、日本人父と結婚届を出さないと在留資格が取得できないという問題があるので、愛しあっていながら内縁関係にとどまる事例は少ない。また、両親の交際が終了している場合、終了していなくても内縁関係とまで評価されない場合は、子どもは救済されない。判決の射程はかなり限定的なものである。
(3) 判決は、日本社会との結びつきを要求する国籍法3条の立法趣旨、その結びつきの表れとして婚姻を必要とする点について、従前の行政解釈を比較的簡単に肯定し、国籍法2条1号によって胎児認知を受けた子と出生後認知を受けた子の取扱いの違い、両親のあいだに法律婚や内縁関係が存在する子と、それも存在しない子との取扱いの違いについては、差別か否かの検討の対象としなかった。
しかしながら、国籍法3条は国籍法2条1号のよってたつ血統主義を保管するシステムである。したがって、より根本的な問題は、血統主義をとるシステムの中で、父の認知が生まれる前のことではなかったとか、父と母が結婚していない、という、子ども自身ではどうしようもない事情で、日本人の父を持つ子どもに、大きな不利益を与えていいのか、という点ではなかったか。
(4) 日本人の父を持ち、日本で暮らすことを願う子どもに対して、胎児認知をされなかったからしかたない、父と母が結婚していないから、あるいは内縁関係にないから、日本社会との結びつきがない、という評価をくだすことができるのか。
評者はこの点、おおいに疑問である。判決について、本件の結論としては妥当だが、法3条の立法趣旨として「日本との結びつきの強さ」を強調した点、さらにそれを認めるためには法律婚か事実婚かが必要とした点については、消極的な評価を与えざるを得ない。よりストレートに、出生後に日本人父から認知をされた子について、婚姻を要件としていること自体を違憲として、届出のみを要件に日本国籍を認めるべきだったと考える。

 

 
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