法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

在日コリアンをめぐる訴訟(3)
枝川ウリハッキョ訴訟3

T.O.記

2006年2月16日、枝川訴訟の口頭弁論が開かれました。傍聴券を求めて、大勢の支援者らが集まりました。法廷は満席で、法廷の外には、傍聴できない支援者の姿もありました。

この日は、被告・朝鮮学校側から準備書面が提出され、代理人である張學錬弁護士がその要旨を口頭で述べました。以下、その内容を紹介します。

主な主張は、2点です。まず、東京都と学校側の契約は、文言上は「使用貸借」となっているが、使用貸借と解するべきではなく、賃貸借契約に準ずる契約と解するべきであって、期限が切れたからといって当然に終了する性質のものではなく、契約が更新される、というものです(※)。

(※)民法上、使用貸借契約(民法593条)は、当事者の一方が、相手方に対し、無償で物を使用・収益を認め、その後返還することを約束した契約をいいます。借りる側の権利が弱く設定されており、期間の定めがあれば、期間満了後に返還しなければなりません。これに対し、賃貸借契約(民法601条)は、当事者の一方が、相手方に対し物の使用・収益を認め、相手方がこの対価を支払う、という契約です。借りる側の権利が強く設定されており、更新の推定もあります(民法614条)。したがって、本件の契約が、使用貸借なのか、賃貸借なのかは、重要な問題なのです。

1972年、東京都は枝川小学校と、20年間の無償貸借の契約を結びましたが、それ以前は、形式上1年契約の賃貸借契約を結び、毎年更新するという形をとってきました。ところが、賃料が年々増加し、学校側が賃料を支払えなくなったため、学校側が都に賃料の減免を申し入れたところ、それが認められ、無償貸与という形になりました。こうした経緯を考慮し、また契約の内容が当事者、とりわけ学校側にとって持つ意味を考えれば、これは、「使用貸借」ではなく、原告・東京都が、20年間の賃料請求権を放棄した賃借契約、あるいは被告の賃料債務を免除した賃貸借契約であると解すべきである、というのです。

そして、賃貸借契約であると解する以上、学校側が土地を継続使用しているので、契約が更新されていると解するべきである、と主張しました。契約が更新されていると解せば、東京都側の主張には理由がないことになります。

2つ目に、仮に使用貸借だと解釈した場合の主張がなされました。つまり、20年という期間は例文であって、20年経過後は当然に契約が更新される、というのです。枝川小学校は1964年に新校舎を建てていることから、当事者間では、相当長期にわたって、土地を使用することが合意されていたと考えられます。また、当事者間において、20年経過後も、なお学校の敷地として使用する必要があれば善処するという了解がなされていたことから、20年が経過した後も、契約が有効である、という主張です。

さらにこの後、代理人である金舜植弁護士が、主張の補足をしました。金弁護士は、教育が行われているという意味で公益性が強いということや、学校経営を都が支援するという形で結ばれた契約であって、20年経過後も使用し続けてよいという意図が東京都にもあったことなどを強調し、東京都側の主張に理由がないと主張しました。

最後に、今後の立証方針などを簡単に確認して、終わりました。

この日、被告側からは、憲法上、民族教育権が存在することについての意見書(佐野通夫・四国学院大学教授)が提出されました。この意見書については、法廷で説明がなされたわけではありませんが、簡単に紹介しておきます。

意見書は、まず、憲法第26条が「教育を受ける権利」を保障していることに加え、国際人権規約A規約によって、この権利が全ての者に保障されること、そして、保障される権利について、旭川学テ事件判決(最高裁1976年5月21日判決)を引用して、それが、子どもの学習権であることを確認しています。

続いて、「普通教育」における日本の歴史や日本語の教育が、「大和民族」についての「民族教育」であることを指摘し、「民族教育」が在日朝鮮人についてのみ行われている教育ではないとしています。それゆえ、「教育を受ける権利」は、「民族教育を受ける権利」であると主張します。したがって、日本人の子どもたちは日本語による教育が、朝鮮人の子どもたちは朝鮮語による教育が保障されるべきだといいます。学校教育法において、普通教育が「日本語による教育」に限定されていないことも、朝鮮語による教育が「普通教育」といえることの根拠とされています。

近年、自治体による朝鮮学校への助成が増えていることも指摘されています。たとえば、神奈川県では1991年度から朝鮮学校を学校教育法1条が定める「学校」に類似した学校として位置づけ、生徒一人当り年額6万円の支給を開始したことや、東京都大田区において、2001年から「外国人学校振興費補助金」として年額100万円を交付していることなどが、具体的事実としてあげられています。また、朝鮮学校の改築・新築や設備のために補助金を支出するところも出てきており、その例として、川崎市が、1986年に、川崎初中級学校の体育館建設補助金として予算2億6000万円の50%を補助したことなどがあげられています。こうしたことから、朝鮮学校は地域社会に根づき、学校として評価されている、と主張しています。

続いて、憲法第26条の「その能力に応じて」の解釈について、戦前の教育を否定したという歴史的経緯に着目して、それぞれの個性に応じ、教育を受ける者の必要の上に教育内容が構成されなければならないことを意味する、と解釈します。そして、「児童の権利に関する条約」第30条が、少数民族の子どもたちについて、「その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利」を定めていることからも、朝鮮人の子どもたちは、朝鮮語による教育を受けることが、「その能力に応じて」の内容になるといいます。

また意見書は、近年、多様な学校が設立されていることに注目します。例えば、愛知県や静岡県では、ペルー人学校・ブラジル人学校が増加しています。こうした学校は、朝鮮学校と異なり、各種学校とさえされていませんでした。しかし、2004年12月に、浜松のブラジル人学校が各種学校として認可され、翌2005年8月には、設置者が学校法人として認可されました。これにより、このブラジル人学校については、通学定期券の購入や授業料の消費税免除が可能となり、県からの補助金も交付されるようになりました。

さらに意見書は、こうした多様な学校の設立について、さらに国からの援助が必要であると主張します。国際人権規約A規約13条3項が「公の機関によって設置される学校以外の学校」の選択を保障していること、1949年に制定された私学法などから、日本国憲法の下で、私立学校への助成が求められているといいます。そして、子どもたちの「教育を受ける権利」などを踏まえ、助成が求められる私立学校が、いわゆる「一条校」(※)に限定されず、各種学校にもなされるべきだとします。

(※)「一条校」とは、学校教育法1条に定められた学校をいい、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校、幼稚園を指します。「各種学校」とは「一条校」以外の学校です(学校教育法83条)。一条校であれば各種の助成がありますが、各種学校ではそうした助成が受けられなかったり、額が低く設定されていたりします。朝鮮学校は、「一条校」ではなく、「各種学校」とされています。

最後に、意見書は、以上のような憲法論を踏まえて、自治体の責務について論じています。都が朝鮮学校に助成金を与えるといった政策は、まさに地方自治体が旧地方自治法(1999年の改正前)で定めていた地方自治体の事務の一つである学校教育に関する事務を具体的に行ったものであるとします。また、法律がなくても、地方自治体で具体的な施策が行われた場合、抽象的な憲法規範から、具体的な権利化された規範になったと考えなければならないとして、1972年に都が行なった「朝鮮学校用地無償貸付契約」はすでに憲法規範を法規範として具体化させたものであって、それをさらに教育を受ける者にとって有利な方向に変更することはありえても、教育を受ける者の不利益に変更すること、ましてや教育の継続を不可能にする明け渡し請求を行なうことは、その規範の上からも許されない、と主張します。

以上が、意見書の概要です。

本件訴訟を傍聴していつも思うことですが、大事なことは、学校に通う子どもたちの利益ではないでしょうか。枝川小学校には、現在も子どもたちが通っていますし、4月になれば、新入生も入ってきます。もし、東京都の請求どおり、土地を返還することになれば、子どもたちは学ぶ場所を失ってしまいます。それが、子どもたちの利益になるとは思えません。裁判官には、何が子どもたちの利益になるのかを考えて、結論を出してほしいと思います。

次回の口頭弁論期日は、4月13日午前10時半からです。

<<(2)へ
 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]