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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

在日コリアンをめぐる訴訟(4)
枝川ウリハッキョ訴訟4

T.O.記

2007年3月8日、東京地裁において、枝川ウリハッキョ訴訟の口頭弁論が開かれました。朝になって、急遽記者会見を行うという連絡を代理人弁護士からいただいたこともあり、裁判所へ傍聴に行きました。36枚の傍聴券に対して、137人が傍聴を希望して列を作りました。残念ながら私は抽選にはずれてしまい、法廷の外で待機していました。

弁論は10分程度で終わってしまい、その後、すぐに隣の弁護士会館で記者会見が開かれました。その第一声は、「本日、東京都との間に和解が成立しました」というものでした。突然の報告に驚きましたが、和解の交渉は水面下で進んでいたそうです。社会情勢が在日コリアンにとって厳しいこともあり、和解のことは、支援者にも秘密にされていたということでした。

さて、その和解の主な内容ですが、(1)学校側が和解金として都に1億7千万円を支払う、(2)10年間は土地の用途を学校用地に限定した上で、土地を学校側に譲渡する、というものでした。そしてこの和解に都側も学校側も同意し、本日、和解が成立するに至ったわけです。

この和解について、記者会見では、まず弁護団の談話が読み上げられました。その中で、弁護団は、学校がなくなるかもしれないという不安から子どもたちが解放されることを第一の目的としていたため、和解の内容を評価しています。他方で、和解であったため、在日外国人の教育を受ける権利を明記できなかったこともあり、今後とも、在日外国人の教育受ける権利を保障するための取り組みを続けることを誓うと宣言しています。

続いて、朝鮮学園の理事長である金順彦氏がコメントを読み上げました。金氏も、まず初めに、和解によって学校を失うことがなくなり、「児童・生徒に安心して学べる環境を確保できたことが、何よりも嬉しいこと」としています。続いて、本件訴訟が、在日朝鮮人の民族教育権を否定する不当なものであったと批判しつつ、和解が「朝鮮学校の存在意義を認めるもの」であって、「大変意義深いもの」と評価しています。また、弁護団談話と同じく、在日外国人の教育を受ける権利の保障に向けての取り組みをしていくことにも言及しています。

次に、枝川朝鮮学校の校長である宋賢進氏がコメントしました。宋氏も、学校が取り上げられるという不安から、子どもたちや関係者・支援者たちが解放されることが何よりもうれしいと述べました。そして、今後も、歴史的経緯を持つ民族教育を守り、より発展させていくのに尽力したいという決意を述べました。

また、弁護団のメンバーから、それぞれコメントが述べられました。

師岡康子弁護士は、「和解は、不安な状態を解消するのが第一の目的だった。1億7千万円という金額には納得できない部分もあるが、和解が成立してうれしく思う」とコメントしました。また、張學錬弁護士は、「この裁判は分かりにくいものだった。都の主張は土地の明渡しで、その意味では分かりやすいが、歴史的経緯や契約内容などを考えると、複雑なものだった。訴えの内容も、校舎を取り壊して明け渡せというひどいものだった。普通なら裁判にならず、交渉で解決していく事件だ。裁判になったこと自体、不誠実な対応と言える。異常な社会情勢の下での訴訟だ」と、都側の態度を厳しく批判しつつ、和解によって解決したことで、争いが終結したことに安堵感を見せました。

私自身も、この問題が、和解という形で解決してよかったと思います。このまま裁判を継続していった場合、仮に一審で勝訴したとしても、控訴審、場合によっては最高裁にまでいき、解決に長い時間がかかる可能性がありました。そうなれば、学校を失うかもしれないという不安が、その間ずっと続くことになります。しかし、和解で解決したことで、弁護団や関係者が言う通り、そうした不安は全て解消されました。

他方で、この和解についての交渉が、支援者にさえ知らされないまま、水面下で進められてきたことについて、そうせざるを得ないという社会情勢の厳しさも認識しました。師岡弁護士が述べていたことですが、この和解交渉が事前に知られることで、在日朝鮮人に対して厳しい態度を示す都知事や市民らによる圧力があったかもしれず、そうなってしまえば、和解の成立は困難だったかもしれません。その意味で、水面下での交渉はやむを得ないものでした。しかし、事前に和解交渉を知っていれば、1億7千万円という金額について、高すぎるのではないかという支援者の声を届けることもできたのではないかとも思い、それができなかったことは残念に思います。

在日外国人の子どもたちの教育については、例えば朝鮮学校は各種学校として認可されていますが、各種学校として認可されていないところもあります(日系ブラジル人の子どもたちが通う学校など)。そのほかにも、受験資格の問題(朝鮮高校等の出身者に対し、受験を認めない大学があること)、助成金の問題、税制の問題(授業料への消費税の課税など)、定期の学割や奨学金の受給の問題、スポーツ大会への参加の問題など、まだまだ多く残っています。こうした問題については、投票行動などを通じて政策形成に関与できる日本国民の行動が、解決の鍵を握っていると思います。ぜひ多くの皆さんに、こうした問題への意識を高めてもらいたいと思います。

なお、枝川事件と同種の事件が、大阪で起きています。東大阪市にある朝鮮高級学校の運動場について、東大阪市が土地の明渡しを求めて、大阪地裁に提訴した事件がそれです。事件の詳細について詳しいことはわかりませんが、2007年3月15日午前10時15分より、大阪地裁において、本件の第一回口頭弁論が開かれる予定です。興味のある方は傍聴に行かれてみてはいかがでしょうか。

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