法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

七生養護学校への都教委の介入に対し東京弁護士会が警告を発しました。

弁護士 小林善亮(第二東京弁護士会)

1 概要
 東京都日野市に、都立七生養護学校(以下「七生養護」)という、小中高あわせて生徒約160人の学校があります。
 この七生養護で行われていた「性教育」を巡って、03年7月以降、東京都教育委員会(以下「都教委」)、都議らによる様々な教育介入が行われてきました。
 この度、東京弁護士会は、都教委によるかかる教育介入について人権侵害であるとして警告を発したのです。

2 事件の発端
 事件の発端は、03年7月2日、都議会で、土屋都議(民主党)が「最近の性教育は・・・世間の常識とかけ離れたものになっています」と述べ、これに対し、横山教育長は、七生養護で使用されていた教材について「極めて不適切な教材」であると即座に答えたことに始まります。
 その後、同年7月4日に土屋氏他都議が都教委・産経新聞記者を同行して、七生養護を訪れ、教材の人形の服を脱がした状態で写真撮影をしました。翌日の産経新聞には「過激性教育」「まるでアダルトショップのよう」というセンセーショナルな見出しが踊り、一部教師により、保護者の苦情を無視して性教育が行われたかのような事実に反する記事が報道されたのです。7月7日、9日と都教委が七生養護に立ち入り調査を行い、80人を超える全教師から性教育に関する事情聴取をし、本人の押印付きの「調書」をとりました。そして、9月と12月に七生養護の教員を含む多数の教員に厳重注意などの処分が強行されたのです。この間に、都教委によって教材(人形書籍等145点及び授業を記録したビデオ123本)が七生養護から持ち去さられ、現在も返されていません。

3 七生養護の性教育の実態
 そもそも、性に関する正しい知識を持つことは誰にとっても生きていく上で必要なことです。とりわけ、人間関係の取り結び方に長けておらず、性的知識がない障がい児は、時に性被害の対象となる危険もあります。その意味で障がい児たちにとり、性教育は、社会の中で身を守る知識として切実に必要とされていたのです。障がい児に性教育をする場合、教材を使用し具体的に教えることことが不可欠でした。
 しかも七生養護では、性に関する学習は、人間関係の取り結び方を学ぶことの一場面であると捉えられ、子どもたちに、人から大切にされることを実感させたり、他人を思いやる気持ちが育つように授業内容や教材を工夫してきました。そこでは、単に性に関する知識を学ぶだけではなく、生きていく上での人間関係のあり方を学ぶという、いわば「生」教育がなされていたのです。このように、現場の教師・生徒が試行錯誤しながら築いてきたのが、七生養護の「こころとからだの学習」と呼ばれる性教育だったのです。

4 人権救済申立てと警告
 七生養護に対する都教委らの介入に対し、同校の保護者たちがいち早く抗議の声を上げました。その抗議の声は多くの市民への広がって行きました。
 そして04年12月、子どもに学習権の保障と性に関する自己決定権をという思いから東京弁護士会に人権救済の申し立てを行ったのです。
 人権救済申立てとは、人権侵害があった際に弁護士会にその救済を求める手続きです。申立てがあると、弁護士会が、中立な第三者として審査を行い、その結果人権侵害の事実を認定した場合、侵害者に対して当該人権侵害をやめるよう警告や勧告、要望などを発します。
 05年1月24日、この教育介入に対して、東京弁護士会は、生徒の学習権及び教師の教育権を侵害する重大な違法があるとして都教委に警告を発しました。警告は最も人権侵害が著しい場合に出される意見です。
 警告は、都教委が、都議らの高圧的は「視察」を放置したことや教師を厳重注意したことについて、学習権や教育権を侵害し、教育基本法10条にも反するとしています。
 教育基本法10条は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」と規定しています。これは戦前の日本の教育が国家権力の介入によってゆがめられた歴史を反省し、教育の自律性を尊重すべく設けられた規定です。
 警告は、本来都教委は、独立行政委員会として国家権力、政治的圧力を排除すべき責務を負っているのにもかかわらず、この役割を全く放棄し、自ら人権侵害に加担したと厳しく指摘しています。
 日の丸・君が代問題を初め、都教委による学校現場への不当な介入が至る所でなされていますが、七生養護はこの原点とも言うべき事件で、今回の警告は、都教委の介入に歯止めをかける画期的なものです。弁護団では、これをバネに今後も都教委への追求を強めていこうと考えています。

 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]