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難民訴訟(11) 読売新聞記事と難民申請者の現実

弁護士・鈴木雅子

 「難民申請、6割虚偽か −強制送還逃れ」―今年1月12日、読売新聞の社会面にこんな見出しの記事が大きく載りました。
 「難民」とは、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」ために、その本国に帰ることができない人のことをいいます(難民の地位に関する条約1条)。日本は、1981年、難民条約に加入し、それに伴い、当時の出入国管理法を「出入国管理及び難民認定法」に改正し、そのなかに難民認定手続を設けました。

 冒頭に書いた読売の記事は、この難民認定手続の悪用が顕著であるかのような印象をもたせるものでした。記事は、入管難民法が入国後60日以内に申請しているにもかかわらず、実際は60日を過ぎてからの申請が相次いでおり、在留期限が過ぎた外国人の申請が全申請のうちの6割を占めることをもって、「難民申請、6割虚偽か」との大見出しの根拠とし、本文中に「虚偽」と見られる事例を書き連ねていました。
 この記事は誤った内容に基づいて難民申請者に対する偏見を助長しかねないもので、到底看過し得ないものでした。そこで、難民問題に取り組む弁護士によって構成する全国難民弁護団連絡会議と、アムネスティ・インターナショナル日本は、読売新聞社宛に抗議書を提出し、訂正を求めました。また、14日には、この記事を書いた記者を含む読売新聞社会部記者2名と話し合いを行ないました。

 この記事が不正確なのは、まず、入国後60日以内の申請を定めたいわゆる「60日ルール」は、既に昨年成立した改正入管難民法によって撤廃されているにもかかわらず、その点に何ら触れていないことです。さらに、昨年難民認定を受けた者のうち半数以上が在留期限を過ぎて申請した者であり、これに加えて在留期限を過ぎて申請した者のうち一定数の者が、その迫害のおそれから在留を認められているにもかかわらず、記事はこのような事実を無視し、在留期限を過ぎた申請は全て虚偽の疑いがあるように記載している点でも、大きなミスを犯しています。にもかかわらず、読売新聞は、見出しは「6割虚偽『か』」としており断定はしていないから許容範囲である、などとして、結局、訂正には応じませんでした。

 けれども、この記事が与える印象とは異なり、難民申請者は、申請をすることによって安心するどころか、実際は極めて不安定な地位に置かれています。たとえば、この記事が書かれた前日には、難民認定を求めて裁判で係争中のあるビルマ人が、就労したことを理由に収容されました。難民申請者が受けられる公的支援もほとんどない現状では、生きていくためには働くほかないにもかかわらず、です。また、2004年6月に難民申請を行っていたあるビルマ人は、半年以上も法務省から何らの調査を行なうこともなく放置され、その挙句、先月、警察の職務質問を受け、逮捕されました。
 このような彼らの現状が今回の記事のように大きく取り上げられることは、残念ながらほとんどありません。今回の記事も、弁護士やNGOなど難民支援に携わる者や、申請者に取材を一切行なうことなしに書かれたものでした。
 現在、日本はゼノフォビアとでもいうべき排外的な空気に覆われています。難民申請者なんて信用ならない、と言わんばかりの今回の記事は、そのような空気にぴったりと沿うものなのでしょう。しかし、そのような空気に惑わされず、母国で安心して暮らせるようになるまでのわずかな間、安住の地を日本に求めているこうした外国人の現実の姿に、どうか一人でも多くの方に目を向けてほしいと思うのです。

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