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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

学生無年金訴訟(2)

弁護士  山崎あづさ さん(福岡県弁護士会)

1 画期的な東京地裁判決
 今年3月24日、学生無年金訴訟について、全国初の判決が東京地方裁判所で言い渡されました。長期間にわたり学生無年金障害者への救済措置をとらずに放置した国の怠慢を認め、違憲と判断した画期的な判決でした。
 学生無年金障害者とは、平成元年の国民年金法改正以前、学生時代に国民年金未加入のまま事故や病気で重度の障害を負ってしまい、障害基礎年金を受けることができない人々をいいます。当時、学生は20歳になっても「任意加入」の手続きを取らない限り国民年金に加入とはならない制度になっていました。しかし、任意加入には保険料免除がなく、周知も不徹底だったために、任意加入していた学生は2%にも及びませんでした。それにもかかわらず、障害を負っても一生障害年金を受けられないという不利益を受けるのはあまりに不当であるとして、学生無年金障害者ら合計29人が、札幌、盛岡、東京、大阪、京都、岡山、広島、福岡の全国9地裁で、国などを相手に不支給決定の取り消しと賠償金の支払いを求めて提訴したのです。
 東京地裁は、4人の原告のうち1人については、本来、障害基礎年金の支給対象になるべきだったと判断して不支給決定自体を取り消し、残り3人については、「昭和60年の国民年金法改正時点でも、学生無年金者に何の措置も講じなかったのは、『法の下の平等』を定めた憲法に違反する」として、国に一人当たり500万円(合計1500万円)の賠償を命じました。
 この判決は、翌日の全国紙でも大きく取り上げられ、この判決を評価し、早急に無年金者に対する立法措置をすべきであるとの声がにわかに高まるなど、社会に大きな影響を与えました。
 原告、支援団体、弁護団は、判決直後から、国側に控訴を断念するよう申し入れを行うとともに、6月の臨時国会で学生無年金障害者の救済立法を実現するため、国会議員に働きかけ、精力的に要請活動を行いました。
 
2 国の控訴
 ところが、このような動きのさなか、国は、国家賠償請求が認められた3人について、判決を不服として控訴をしました。これを受け、原告側も、国が控訴した3人について、不支給決定の取消と国賠請求の増額を求めて控訴を提起し、現在東京高裁で審理が行われています。なお、不支給決定取消が認められた1人については、国側が控訴しなかったために判決が確定し、その後の社会保険庁との協議の結果、障害基礎年金(1級)の支給と、もともと障害基礎年金が支給されていれば支払わなくても良かった老齢基礎年金の保険料の返還がなされる方向が決まっています。
 
3 立法の動き
 国会では、今年3月から5月にかけて、年金国会といわれるほど年金問題が大きく取り上げられました。審議の過程で、多数の国会議員の国民年金の未納問題が判明するなどして、大きな話題となったのは周知のとおりです。これらは、年金の仕組みが複雑でわかりにくいことの反映であり、学生が任意加入をしなかったことを理由にして障害基礎年金を支給しない口実にしてきた国側の主張が全く正当な根拠を失っていることが露呈しました。
 政府・与党は、東京判決を受け、6月初め、全国の学生無年金障害者約4,000人と専業主婦の無年金障害者約3万人に対して、1級の障害相当の人に5万円、2級相当の人に4万円の手当を全額国庫負担で支給するという法律案を発表しました。ただ、審議時間不足を理由に見送りとなっており、早ければ今秋にも、法案が国会へ提出される見通しです。
 
4 今後の課題
 現在の与党案は、支給金額が低い、過去の不支給に対する手当てがなされていないなどの問題があり、無年金者の救済として決して充分なものとはいえません。原告らとしては、中途半端な立法によって国の責任逃れを許してしまうのではないかとの懸念もありましたが、無年金者の救済は急務であり、少しでも前進させることが必要という考えから、早期立法を求める方向で動いています。その一方で、支給内容底上げの議論を運動として展開していくことが必要であり、この点の取り組みも今後の課題となっています。
 今回の訴訟では、違憲性をより明確に主張するため対象を学生にしぼっていますが、無年金者の問題は、学生無年金障害者に限らず、会社員の配偶者、未納者、外国人等にも広がってゆく問題です。そのため、根本的な解決のためには、裁判による個別救済だけではなく、立法を視野に入れた運動を進めていくことがどうしても必要です。そして、裁判は、こうした運動をおしすすめ、立法に弾みをつけるという、もうひとつの意味をもっています。今回の東京判決のように国の怠慢を指摘する内容の判決を積み重ねることは極めて重大な意義があり、各地で訴訟が終盤に向かう今秋から今冬が大きな山場となりそうです。

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