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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

西山記者国賠請求訴訟(2)−−東京地裁判決

T・O記

2007年3月27日、西山記者国賠請求訴訟に対する判決が言い渡されました(事件の概要については、こちらをご覧下さい)。原告の請求を棄却するという判決でした。

判決は、事実について、原告の西山太吉氏が秘密文書を入手する経緯や、その文書入手行為が国家公務員法違反として起訴され有罪判決を受けたことなどについて記述した後、主な争点を整理しています。裁判所によれば、争点は(1)西山氏を有罪とした判決が誤判であったかどうか、(2)西山氏に対する起訴やその他公務員らの言動(大臣などによる密約否定発言など)が違法(名誉毀損等)であったかどうか、(3)民法724条後段(除斥)適用の当否、です。そして裁判所は、それらの争点について、原告・被告それぞれの主張を整理しています。

そして裁判所自身の判断ですが、裁判所は、民法724条後段の除斥(不法行為による損害の発生から20年が経過すると、賠償請求権が消滅するとする規定)を適用し、賠償請求権が消滅したと判示しました。除斥にかからない期間における、公務員の言動については、原告の社会的評価を低下させるものではなく、名誉毀損にはならないなどとして、違法性を認めませんでした。

本件での一番の争点は、沖縄返還に際して、アメリカ側が支払うはずの見舞金400万ドルを日本が肩代わりするという密約があったかどうか、及び密約を否定し続ける政府の姿勢の是非でした。そして、原告側は、アメリカが公表した資料や、当時の外務省アメリカ局長であった吉野文六氏による密約の存在を認める発言などから、その密約の存在を立証してきました。しかし、東京地裁は、除斥の適用により、賠償請求権が消滅したとして、この密約の存否についての判断を回避しました。これはまさに「肩すかし」ともいえる判決だったと思います。

実際、この判決に対し、2007年3月28日付の沖縄タイムスは、「なぜ『事実』に触れない 司法も責任を放棄するのか」と題する社説を掲載し、除斥を理由に密約の存否や、密約を否定し続ける政府の姿勢に触れなかった判決を厳しく批判しています。また同日付琉球新報も「“疑惑”直視しない司法 国家の欺瞞不問に付すのか」と題する社説を掲載し、判決を批判するとともに、密約を否定し続ける政府を批判しています。

報道によれば、西山氏は「想像していたものの中で、一番グレードの低いものが出てきた。司法の自殺行為のような判決だ」と批判したといいます(朝日新聞2007年3月27日付夕刊)。また、密約を認めさせるまで闘い続けるとして、4月9日に控訴をしています。

私自身、この訴訟を何度か傍聴し、西山氏の熱意に直接触れていたこともあり、真に問われていた部分について何ら言及しなかった判決に対して、非常に残念な思いがします。本件は、政府が本来国民に対して公表すべき事柄を隠ぺいしたという点で、国民の「知る権利」を侵害した事例といえますし、また、アメリカ政府が支払うべき400万ドルを日本政府が肩代わりした、つまり、税金を使い込んだわけであり、その意味でも日本の民主主義のあり方が問われていた裁判でした。それに対して裁判所が少しも踏み込まなかったのは、西山氏が言うように「司法の自殺」といっても過言ではないと思います。

沖縄タイムス・琉球新報が判決翌日に、すぐさま社説で判決を批判したのに対し、他の新聞は翌日以降に社説で取り上げたり、社説で取り上げなかったりと、沖縄とそれ以外の地域の差が目に付きました。先の沖縄タイムスの社説が指摘しているように、この問題は、西山氏と女性事務官の「男女関係」問題にすり返られ、そのため、「密約」の存在を問うというメディアの姿勢が弱められてしまったという過去があります。その意味では、本件は、政府をチェックするというメディアの責任も問われているのではないかと思います。

当研究所では、今後も、この訴訟の行方をレポートしていきたいと思います。

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