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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

労災就学援護費不支給決定取消請求訴訟
〜最高裁判所で弁論し、逆転勝訴判決を得ました

弁護士 土井香苗さん(東京弁護士会)

1 最高裁で弁論ってどういうこと?

 皆さん、実は、多くの弁護士が、最高裁判所で弁論したことがないと聞いたら驚くでしょうか?
 実は、最高裁に上告・上告受理申立される事件の多くは、そもそも、憲法解釈の誤りやその他憲法の違反があることを理由としていない(民訴法321条等)とか、上告受理をしないと決定する(民訴法318条1項)などとして、口頭弁論を経ずに棄却されています。また、高裁の判断を維持する場合にも、口頭弁論を経ないで上告を棄却してしまうのです(民訴法319条)。
 ですから、弁護士人生で、一度も最高裁判所で弁論をしたことがない人のほうが多いのが現実なのです。

2 最高裁で弁論しました

 そんな現実にも拘わらず、弁護士になって3年の私が、本年7月10日、最高裁で弁論をすることになったのです。
 この事件は、労災就学援護費不支給決定取消請求訴訟という長い名前の行政訴訟ですが、地裁・高裁とも、この「労災就学援護費不支給決定」は、処分性(行政事件訴訟法3条2項)がないとして、入口で、本請求を却下していたのです。
 しかし、最高裁は、1審・2審の判断を覆し、本年9月4日、本件決定には処分性があるとして、「原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。本件を東京地方裁判所に差し戻す。」と言い渡しました。給付行政の処分性を認める重要な判決です。

3 最高裁の雰囲気って・・・

 最高裁の雰囲気は、地裁・高裁とは全然違います。
 まず、地裁・高裁だと、裁判官たちが、ガチャリと自分で扉を開けて、法廷に入ってきますが、最高裁は、「自動観音開きドア」がおごそかに開きます。
 また、地裁・高裁だと、弁護士も弁論ぎりぎりの時間に出頭すればいいのですが、最高裁だと、概ね30分前から、待合室で待つように指示され、約10分前には、法廷に案内されて、着席しなくてはなりません。
 裁判官だけでなく、書記官さんも、廷吏さんも、最高裁だと、とてもかしこまっていて、法廷中一杯に緊張感が漂っています。弁論の時間もきっちりと決まっていて、それ以上の時間は話さないようにと厳重に言い渡されます。
 私は、「処分性」の解釈について比較法的観点から弁論したのですが、「5分」の時間を過ぎないように、ちらちらと腕時計を見やりながら、弁論しました。こんな「厳かすぎる」最高裁判所って、いいんでしょうか、わるいんでしょうか。
 みなさん、どう思われますか?

4 労災就学援護費不支給決定取消請求訴訟の事案の概要

 フィリピン国籍の上告人の夫は、昭和63年、虚血性心疾患により死亡し、平成2年3月、この過労死が労災認定されました(当時、「過労死」の労災認定自体が極めてめずらしかったため、本件はその点でも注目に値する事案です。この労災認定獲得のため、ご家族や支援者そして弁護士の並々ならぬ努力があったことを付記します。)。
 こうして、被災者の妻(「上告人」)は、遺族補償年金の受給権者になるとともに、次女の就学のために、労災福祉事業である就学援護費の支給を受けるようになりました。
 次女は、亡き父の故郷(フィリピン)で暮らし、勉強し、自分のルーツを探りたいとの動機から、平成8年、フィリピンの大学に入学しました。
 そうしたところ、中央労働基準監督署長は、平成8年8月9日、シリマン大学は学校教育法1条に定める学校でないとして、上告人に対し、就学援護費不支給決定を行い、就学援護費の支給をうち切りました。
 本事件の一番の論点は、「学校教育法1条に定める学校」ではない、民族学校へ通う子どもたちや、外国の学校に通う子どもたちには、就学援護費を支給しないことが、憲法14条の禁ずる差別に該当するか否か、そして、教育を受ける権利(憲法15条)その他、国際人権条約に違反するか否か、です。
 しかし、東京地裁・高裁は、この事件の論点に入る前に、入り口の「処分性」 で、本請求を却下していたのです。

5 7年経って

 1996年11月に提訴された本事件は、7年経って、やっと入り口を突破することができました。今後、東京地裁で、本案部分の裁判が始まります。みなさん、ご注目下さい。

(法学館LawJournal2003年11月13、27日配信号より転載)

 
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