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戦後補償裁判――(10)「従軍慰安婦」訴訟(1)

執筆日:2004年6月4日
I.M.記

 今回は、「従軍慰安婦」訴訟をとりあげます。この訴訟は、「慰安婦」にさせられた被害者が、原告となっている裁判です。「慰安婦」の方々は、「慰安婦」として従事させられた間の被害はもちろん、日本軍から解放された後にも、その体験の衝撃からPTSD(心的外傷後ストレス障害)に煩わせるなどの被害が続いています。

「慰安所」の歴史
 「慰安所」は、中国では1932年までに上海で設置されたのを始め、1938年頃までには、戦火の拡大に応じてその数も増えていきました。アジア・太平洋戦争が始まると、日本軍が占領した東南アジアや西太平洋にまで次々と「慰安所」は設置されていきました。
 「慰安所」設置の目的は、いくつかあるとされていますが、治安維持や性病予防、兵士の士気高揚などがしばしば指摘されています。治安維持の目的とは、占領地において日本軍が中国女性を強姦することが頻発したために、中国人の悪感情が高まり、これへの対応策として軍慰安所が設置されたというものです。しかし、実際にはこれによって強姦が減ることはなかったとされています。むしろ、「慰安所」の設置によって、女性に対する性暴力が公認されたことに注意が向けられるべきでしょう。本質的には、「軍慰安婦」制度というものは、女性に対する性暴力公認のシステムであったと考えられます。「軍慰安婦」制度が、強姦を防止する本質的解決に結びつくものではなかったという指摘は重要です(吉見義明『従軍慰安婦』岩波書店、1995年)。

「慰安婦」訴訟
 いわゆる「慰安婦」訴訟では、韓国人やフィリピン人、オランダ人など多くの国の被害者が原告となっています。今回とりあげるのは、そうした数ある「慰安婦」訴訟のなかでも、現在審理が継続している中国の山西省の被害者の人たちを原告としているものです。
 山西省の「慰安婦」の人たちが起こした訴訟は、第1次訴訟(1995年8月7日提訴)と第2次訴訟(1996年2月23日提訴)とがあります。原告は、被告・国に対して、賠償と謝罪広告を請求しました。
 原告の請求は、@ヘーグ陸戦条約や強制労働条約、婦女売買禁止条約など国際法に基づく請求、A中国民法に基づく請求、B日本法に基づく請求、C立法不作為に基づく請求を根拠にしています。被告・国は、この請求に対して、いずれも理由がないと主張しました。また、国は、法廷では事実の認否を留保するという姿勢をとりました。これは、被害事実の存在を肯定も否定もしないということです。しかし、こうした態度は、原告の主張する事実を確定し、それに法律をあてはめて結論を導くという通常の裁判の姿からはほど遠いものです。また、こうした姿勢は、事実を認め謝罪して欲しいという想いからようやく提訴を決意した被害者の尊厳を戦後に再び傷つけるものでした。

判決の内容
 判決は、2001年5月30日(第一次訴訟)と2002年3月29日(第二次訴訟)にそれぞれ言い渡されました。どちらの判決も、原告の請求を棄却しました。請求棄却の理由づけも、ほとんど同様のものでした。また、第一次訴訟判決は、原告の被害に対する事実認定さえも行うことなく、法的争点の処理だけで判決を下しました。裁判所の判断が示されたのは、判決全体のうちのわずかに15頁程度でした。原告の被った被害の重大さと深刻さを考えたとき、事実認定すら行わない裁判所の姿勢は、極めて冷たいものだといえます。
 とくに、争点とされた@〜Cについて、判決は、@については、「個人の国家に対する損害倍請求権を認めたものではないから、これらの条約等に基づく原告らの請求は、理由がない」とし、Aについては、「国の公権力の行使を原因とする損害賠償請求責任の問題は、我が国の公権力の行使の適否が重要な争点の1つになるが、公権力の行使はそれぞれその根拠となる我が国の法律に基づいて行われるべきものであるのに、その適否が他の国の法律で判断されるのは、相当でない」とし、Bについては、「国家賠償法施行前においては、国は、違法な公権力の行使によって他人に損害を与えたとしても、損害賠償責任の根拠となる法律が存在していなかったから、損害賠償責任を負わないものと解される(いわゆる国家無答責の法理)」とし、Cについては、「憲法前文は、憲法の基本原理を宣言するものであって、同前文自体から戦争被害に対する賠償についての一義的な立法義務が生じているとは解されない。憲法9条は、国の戦争放棄、軍備及び交戦権の否認等を規定しているが、同条の理念である平和主義及び国際協調主義から、直ちに、国会が原告のような戦争被害を受けた者に対する賠償や補償をすべき義務を負うものとすることはできない」と判示しました。

判決のその後
 一審判決では、一次訴訟においても二次訴訟においても、原告たちの主張は1つも認められませんでした。原告は、いずれの訴訟においても、判決を不服として控訴しました。現在、審理は東京高裁で続いています。

【参考文献】
・吉見義明『従軍慰安婦』(岩波書店、1995年)
  「従軍慰安婦」制度について、歴史的に詳細に論じられています。
・水島朝穂編著『未来創造としての「戦後補償」』(現代人文社、2003年)
  「慰安婦」訴訟の経緯が論じられており、被害実態や原告の想いなどが紹介されています。

【参考URL】
<中国人戦争被害者の要求を支える会>
http://www.suopei.org/index-j.html
「慰安婦」訴訟原告の陳述書や、精神科医の所見などがアップされています。


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