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戦後補償裁判――(14)遺棄毒ガス・砲弾訴訟 その3

I.M.記

 法学館憲法研究所のWEBサイトでは、この間、戦後補償裁判の裁判傍聴記(3)(4)において、遺棄毒ガス・砲弾訴訟を紹介してきました。今回は、その続編です。

 遺棄毒ガス・砲弾訴訟は、一次訴訟と二次訴訟からなりますが、二次訴訟については、2003年5月15日、一次訴訟については、2003年9月29日、それぞれ一審判決が東京地裁で言い渡され、二次訴訟は原告敗訴、一次訴訟は原告勝訴となっています。現在、二次訴訟では原告が、一次訴訟では被告・国が控訴し、いずれも控訴審である東京高裁に係属しています。

 ところで、これまで事実認否を一貫してこなかった国が、控訴審段階から事実論を主張し始めました。国の主張は、@本件各被害を発生させた毒ガスや砲弾は旧日本軍のものではない、A旧日本軍が組織的な遺棄行為をしたことはない、という内容です。この主張は、一次・二次訴訟いずれにおいても、一審判決では認定されていた事実です。控訴審での国の主張は、こうした一審判決の認定に対して全面的に反論する内容となっている点が特徴です。ただ、ではどうして一審の段階からこのような主張をしてこなかったのか、この点については、何らの説明もなされていません。

 こうした国の主張に対して、原告側は、提訴以来すでに8年を経過してからの新たな論点の主張は時宜に遅れていると批判するとともに、国が毒ガスや砲弾ではないとする根拠についても反論を加えています。

 その国の根拠ですが、@について、たとえば、ドラム缶に「BH」という記載があったという証言をとらえて、アメリカと敵対していた当時、敵性語のアルファベットを使用することはないだろうから日本軍のものではなく、むしろソ連軍や中国国民党軍の毒ガス兵器の可能性があるとしています。原告側は、この点について、吉見義明教授(中央大学・歴史学)の資料などをもとに、旧日本軍が化学兵器の容器にアルファベットを符号として記載しており、とくに、きい1号乙(イペリット、ルイサイト)であれば「I.B」と記すこと、福岡県の小倉工廠で容器を製造したものであれば「H」の符号を記すことになっていたことなどを指摘し反論しています(ちなみに、これまで中国国内では、旧日本軍以外の毒ガス弾が発見されたという記録は残されていません)。

 次に、Aについて、国は、ソ連軍の急襲を受け(ソ連は、1945年4月に日ソ中立条約の期間不延長を日本に通告し、その後、ヤルタ協定を締結していました)、毒ガス弾などを組織的に遺棄する時間的余裕はなかったとしています。この点について、原告側は、731部隊では数日間で全ての「マルタ」(人体実験用の中国人の呼称)を殺害し、施設を破壊することができたのであり、毒ガス弾などの遺棄・隠匿だけができないということはいえないと反論し、軍の命令を受けて実際に遺棄したという人物の証言も得ているとしています。

 遺棄毒ガス・砲弾訴訟では、今後、遺棄したと証言する人たちの証人採用がなされるかどうかが1つの焦点となります。昨年9月の判決以来、稲田朋美「"媚中"外交の毒が回った毒ガス訴訟判決の不正義」(『諸君』2003年12月号)や、佐々木俊夫「『毒ガス兵器』を遺棄したのは日本軍に非ず」(『諸君』2004年4月号)など、『諸君』誌上では、国の控訴審段階での主張と全く同様の主張が展開されています。もっとも、稲田氏は、南京虐殺はなく被害者の証言は虚言だとする内容の執筆を行った作家の代理人(弁護士)であり、また佐々木氏も、「刀剣友の会」の最高顧問だった西村眞悟議員の秘書で、いずれも国の代理人ではなく、また国の代理人とも直接の関係のない人たちです。この間、国は、法的論点については、有力な学説を援用しつつ主張を展開してきましたが、今回、事実について学説としても存在しないような主張を展開してきたというのは、それ自体非常に疑問です。原告側は、いよいよ国も追い込まれてきたのではないかと推測しています。

 今後、証人採用や意見書などを通じて、事実についてもさらに立証が尽くされることになります。引き続き、本件訴訟を紹介していきたいと思います。

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