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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判――(18)新潟強制連行訴訟控訴審

T.O.記

 2005年1月31日、東京高裁において、新潟強制連行訴訟(この地裁判決については、戦後補償裁判(7)をご覧ください)控訴審の第2回口頭弁論期日が開かれました。100人以上の傍聴希望者が集まり、法廷に入りきらず、一部の人が傍聴できないほどでした。また、開廷直前に、遺影の持込みが許可されたため、12月末に亡くなった張文彬さんの遺影ほか、合わせて4名の遺影が法廷に持ち込まれました。

 口頭弁論は、被控訴人側から、中国の康健弁護士を補佐人として認めるよう求める主張がなされました。被控訴人側の代理人は、康健弁護士が、強制連行・強制労働の中国人被害者の聞き取り調査や資料などを現地で収集していることから、被控訴人らの主張を補佐するにふさわしい人物であること、被害者のためにこれまでさまざまな取り組みをしてきていることから、被控訴人らの信頼が厚く、被控訴人の全てが康健弁護士を補佐人として採用するよう求めていること、これまでも、強制連行・強制労働事件訴訟に際しては補佐人として認められてきていることなどを挙げ、補佐人として採用すべきことを主張しました。これに対し、裁判所は数分の合議を経た上で、補佐人としての採用は今のところ必要ないとの判断を示しました。この決定に対して、多数の傍聴人から抗議の声があがり、法廷は一時騒然となりました。

 続いて、被控訴人である王成偉さんが意見陳述をしました。彼は、1944年9月に日本軍によって拉致され、新潟県へ強制連行され、強制労働をさせられたと述べました。そして、非常に寒いなか、薄着・素足で作業させられ、食事も十分に与えられず、病気になっても治療を受けられないという、非常に劣悪な状況の下で労働させられたと述べました。彼とともに拉致された10人のうち、4人が死亡したそうです。そして、60年にもわたって何らの謝罪も賠償もなかった上、昨年3月の原告勝訴判決に対し、政府と企業が控訴したことを厳しく批判しました。康健弁護士が補佐人として採用されなかったことについても、自分たち被害者の口をふさぐ行為であるとして、補佐人としての採用をあらためて主張しました。

 最後に、被控訴人側の代理人が、時効・除斥について、その適用を制限すべきであると主張しました。その理由として、被害の深刻さを挙げました。被害者たちは、ある日いきなり拉致され、数珠つなぎで船倉に押し込まれ、十分な食事もないまま日本へ連行されました。そして劣悪な環境で労働させられたのです。こうした被害に対して、時間の経過のみを理由として、謝罪と賠償をしなくてよいとすることは不合理だという主張です。また、「北朝鮮」による拉致の被害者の問題との対比も行いました。もし「北朝鮮」が、時間の経過という一事をもって、この問題に決着をつけようとしたら、日本の世論は許さないでしょうし、実際、「北朝鮮」はそのような主張をしていません。

 加えて、1978年の日中平和友好条約が締結されるまで、中国と日本は、法的には戦争状態にあり、その間に被害者が訴訟を提起することはできませんでした。戦争状態の継続中に、時効・除斥が停止されるということは、サンフランシスコ条約でも確認されています。現在、「北朝鮮」と日本の間に国交はありませんが、この状況の下で、拉致被害者たちに、「賠償を求めるのであれば、『北朝鮮』へ行って裁判しなければならない」というのは、不可能を強いるに等しいでしょう。本件も同様の状況にあったわけです。代理人は、以上のように述べ、本件について、時効・除斥で請求を棄却することは不合理であると主張しました。

 その後、弁護士会館で行われた報告集会では、弁護団から、康健弁護士をあらためて補佐人として採用するよう求めていくことが確認されました。また、康健弁護士が、自分を補佐人として採用しない裁判所の態度を強く批判しました。

 戦後補償裁判では、時効・除斥という法律上の時間の壁だけではなく、被害者の高齢化という、事実としての時間の壁もあります。12月に亡くなった張文彬さんの例が、それを如実に示しています。戦後60年を迎えた今こそ、あまりにも遅すぎたとはいえ、政府と企業は、過去の加害事実を認め、早急に被害者の救済を行うべきではないでしょうか。

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